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INTERVIEW

Japanese

東京初期衝動

2022年02月号掲載

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Member:しーなちゃん(Vo/Gt) まれ(Gt) あさか(Ba)

Interviewer:秦 理絵


パンクって腐ってもパンクなんですよね。そのときの衝動からしか作れない――作ろうと思って作るものじゃないから、できなかったんです


-アルバムの方向性として、こういう作品にしたいなっていうのはあったんですか?

しーな:最初はパンクのアルバムにしたかったんですよ。

-結果的には全然違うものになってますね。

しーな:ならなかったんです。パンクってめちゃくちゃ難しいと思ったのが、腐ってもパンクなんですよね。そのときの衝動からしか作れない。作ろうと思って作るものじゃないから、できなかったんです。で、結局、ポップな曲がたくさんできてきて。ロックでポップな曲って私の中では一番簡単というか、得意分野なんです。

-「不純喫茶にてまた会いましょう」とか「マァルイツキ」とか?

しーな:そこに行き着きました。

-となると、当初の目標があって"あ、そうならないかもしれない"って思った時点でそれをいったん受け入れないと、身動き取れなくなっちゃいますよね。

しーな:そう、それで11月ぐらいまでまったく進まなかったんです。"どうしてもパンクがやりたい! パンクがやりたい!"みたいな気持ちでやってたから。で、11月頃に「腐革命前夜」を作れたんです。そしたら、いやもう、こういう路線でもいいのかもってだんだん自分を許せるようになってきて。そこから7、8曲を1ヶ月でバーッて作って、「マァルイツキ」とか「パンチザウルス」まで広がっていった感じです。

-「腐革命前夜」はシリアスな雰囲気もあるストレートなロック・ナンバーですね

しーな:最初はまれちゃんと、1分間ぐらいの超うるさいパンクな曲で、アルバムは幕を開けようっていう話をしたんですけどね。でも作れなかったからこれができて。

あさか:個人的にはシンプルなロックっていうのが苦手な分野だったんですよ。けど、いろいろなことをするのもいいなと思って。「腐革命前夜」はアレンジャーに江口(亮)さんが入ってくれたのが広がりになりましたね。1曲目に相応しい曲だし、アルバムの曲順を決めるときは、全員"1曲目はこれや"っていう感じで。

-江口さんのプロデュースがバンドにもたらしたものは何かありましたか?

しーな:めっちゃありますよ。私、1曲を作るのにすごく時間がかかるんですよ。間奏はどうしよう? とか、Aメロ、Bメロの展開とかもわざわざ小難しく捉えてしまっていて。だけど、江口さんはパッパッパッてやってくいんです。それを見て"あ、これぐらい簡単に決めてしまってもいいんだな"と思ったんですよ。私はすごく優柔不断なところがあって、変にこだわっちゃってたんですけど。そういうのがまったくなくなりましたね。

-今回は曽我部恵一さんとの共作曲「銀河」もありますけど、今までメンバーだけで手探りで作っていたところに、外の人の刺激が加わることは大きそうですね。

しーな:大きかったですね。私は外からの刺激を受けないと何も変われない人間だから。本当にいい機会になったなと思います。

-ちなみに「腐革命前夜」は歌詞もとても良かったです。やりたいことをやってやるっていう決意表明みたいな感じで。"アイツらを黙らせろ僕が僕である為に"とか。

しーな:あそこは尾崎 豊ですね。この曲で何を言いたいんだろうっていうなかで出てきた言葉だったんですよ。私、尾崎の世界観がすごく好きなんです。歌詞がいい。あの人、暗いじゃないですか。幸せになったとしても、永遠には幸せにならない感じが好きなんですよね。暇さえあれば、家で尾崎のDVDを観てるんです。MCを何回も観てて。心の道徳だなって思います。THE BLUE HEARTSと尾崎は私の中で道徳です。

-どう生きることが自分にとっての美学かみたいなことを教えてくれる?

しーな:そう。尾崎の17歳の頃のライヴのMCで、生まれた時点でカードが決まってて、貧富の差があったりして、でもそのなかで強く生き抜くことが、この街で生き抜くことが大事なんだ、みたいなことを言うんです。教会でミサを唱えてるときに思ったことらしいんですけど。

-生まれたときから全然平等じゃないっていうことですね。

しーな:そうです。みんな人生平等とか、そういうことを言うけど、生まれ持った貧富の差とかそういうカードは決まっていて。本当にそうなんだなと思います。

-「空気少女」という曲では"矛盾だらけの世界でも君は変わらないで"って歌ってるところなんかには、今の話とも通じるようなメッセージを感じました。

しーな:あぁ、そうなんですかね。「空気少女」はメロディ重視で。イントロとかの構成とかを考えたくなくて、全部まれちゃんに丸投げした曲だったんです。

まれ:合宿を終えたあともふたりで私の家にいっぱい集まってて。そのときにサビを何回も変えながら作った曲ですね。いつも朝4時ぐらいに散歩したりして。"またできなかったね"みたいなのを繰り返してできた曲です。

しーな:うち、楽しかったよ。あの"できなかったね"っていう日も。自分の中では絶対にできるっていう気持ちもあったから、焦ってたし超ストレスもあったけど。できないっていうことはない。大丈夫だって思いながら作ってました。

-さっき少し話に出た、曽我部さんとの共作曲「銀河」はピアノ・バラードですね。

しーな:最初はAメロ、Bメロ、サビを交互に作っていきましょうっていう感じだったんですけど。私たちがBメロを作ってる間に曽我部さんは全部できてたんですよ。その曽我部さんのメロディがすごく良かったので、そのメロディに私が詞をつけて。すごくきれいな歌だったから、普段は書かないだろうなっていう感じになりました。

-曽我部さんってプレイヤーであると同時に、音楽への造詣が深いミュージック・ラヴァーでもあるじゃないですか。一緒に制作してみてどうでしたか?

しーな:曽我部さんはおもちゃ箱の中いっぱいに楽器を持っているんですよ。しかもヴィンテージの超かっこいいおもちゃ箱。そこにいっぱい楽器を入れてて。いろいろな音を鳴らして、こういうのはどうかな? とか何回もやってくれたんです。あ、こういうのもあるんだ、みたいな感じでした。本当にアレンジが幅広いし、肯定的で、包み込むような人ですね。

あさか:なんでも楽器をできるんですよね。基本的に自由にやっていいよ、みたいな感じだったんですけど、相談したらなんでも答えてくださって。優しかったです。

まれ:私はもともとすごく曽我部さんのファンで。自分の好きな人とは交わりたくないタイプだったから、どうだろう? って思ったんですけど。実際に会ったらギターも教えてくれて。曽我部さんのアコギも弾かせてもらって、それも入ってるので、ヤバい体験でした。

しーな:もっと好きになる感じだったよね。

-そんなとってもきれいな曲がありつつ、「下北沢性獣襲来」とか「BAKAちんぽ」みたいな、ぶっ飛んだ曲もしっかり収録されています(笑)。

しーな:「BAKAちんぽ」は初期の段階からあった曲ですね。もともと"ウチのカレピに手を出すな"っていうタイトルだった曲(2019年リリースの1st ED『ヴァージン・スーサイズ』収録)です。そのときはコンプライアンスを気にして、タイトルを変えたんですけど、今となってはコンプライアンスってなんだろう? って思うんですよ。だから"BAKAちんぽ"に戻して再録しました。「下北沢性獣襲来」は、ま、ネタとして作んなきゃっていう感じですね。

-歌詞はアレですけど、演奏はがっつりした骨太のガレージ・ロックですよね。

しーな:こういう曲はかっこ良くないと、ダサいんですよ。

まれ:「下北沢性獣襲来」は一発録りだっけ?

しーな:うん。3、4テイクでやってる。

まれ:間違えたら殺されるので(笑)。演奏中はヘッドフォンをして、ひたすら個人戦って感じだったんですけど、こういう曲は気合が違いますね。

あさか:声がぐちゃぐちゃになるのはわかってたから音だけは真剣にやろうと思って。かっこ良くしようと思ったのを覚えてますけど、それ以外は覚えてないです(笑)。

-あと、収録曲で気になったのは「ボーイズ・デイ・ドリーム」です。お風呂の中で歌っているようなアコースティックな楽曲ですけども。

しーな:「下北沢性獣襲来」のあとに癒さる曲ですね。今回、作曲をまれちゃんとあさかが1曲ずつやってて。まれちゃんが「ボーイズ・デイ・ドリーム」なんです。

まれ:前作の「チューペット」的な立ち位置ですね。休憩ソングです。めっちゃ恋をしてる子がいたんですよ。会うだけで嬉しい、みたいなことを言ってて。それがかわいいなと思って作った曲ですね。

しーな:それにあとからお風呂の水の音を入れてね。反響してる感じで声にもエフェクトをかけて、鼻歌を入れて、みたいな感じです。