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INTERVIEW

Japanese

そこに鳴る

2021年08月号掲載

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Member:鈴木 重厚(Gt/Vo) 藤原 美咲(Ba/Vo)

Interviewer:山口 智男

そこに鳴るが"7 ultimate materials"と銘打ち、8月4日から7週連続でCDシングルをリリースする。ストイックに超絶テクニカル・サウンドを追求する一方で、バンドが持つ"常に面白いことがやりたい"という根源的な欲求が、この夏の結成10周年をきっかけに冒険的な企画に発展したらしい。今一度、そこに鳴るらしさに回帰した"7 ultimate materials"は、YouTubeで展開している"そこに鳴る軽音部"の活動に続いて、そこに鳴るの存在をさらに多くの人たちに知らしめるに違いない。

『超越』(2020年リリースの1stフル・アルバム)のツアー([LIVE "超越" ONE-MAN EDITION 2021])を成功させ、結成10周年のアニバーサリー・イヤーが幸先良くスタートしました。まずは結成10周年を迎える心境から教えていただけますか?

鈴木:目の前のことに精一杯取り組んでいたらいつの間にか10年経ってました。

藤原:去年ぐらいに"あ、来年10周年や"って気づいたくらいの感じで、じゃあ10周年どうしようかってところで、今回の"7 ultimate materials"の企画を含め、いろいろ決めていったんです。

鈴木:周りから言われなければ、ぬるっと11年目に入ってたかもしれない。

藤原:15年目ぐらいに"そう言えば、10周年あったんやな"って思ってたんちゃうかな。

鈴木:バンドを組んだ頃の記憶は結構残ってるんですけど、10年前って感じはしないですからね。

藤原:3年前ぐらいに感じる。

鈴木:バンドを始めたときは、10年ぐらいやってたら、日本の音楽シーンの担い手になってると思ってたんですけどね。

-この10年間を振り返って、ターニング・ポイントになった出来事を挙げるとしたら?

藤原:KOGA RECORDSからのリリースが決まったときと、2枚目のEP『YAMINABE』(2016年)をリリースした直後に、初期メンバーのドラムが失踪したときがそうですね。

-まさにチャンスとピンチ。

鈴木:KOGA(KOGA RECORDS)からのリリースの話がなかったらバンドはやめてたと思うし、ドラムが失踪しなかったら、僕らの関係性もずっと悪いままだったと思うし。

藤原:そのまま続けてたら解散していた可能性もあったんです。

鈴木:ドラムが抜けたことで、このままじゃヤバいと思いました。バンドの中の空気が悪いという認識はお互いにしてたんです。

藤原:ドラムの失踪はそれが引き起こした出来事だと思ってから、1回、リセットじゃないですけど、ちゃんとしようって。

鈴木:その頃、同じ事務所のBenthamと一緒にツアーを回ってたんですけど、Benthamは4人ともしっかりした大人じゃないですか。それに比べたら、僕らはまるで中学生だった。よろしくないなと思いました。

藤原:そんな私たちが大人になろうと思ったきっかけになった出来事でしたね。

-さて、今回の"7 ultimate materials"。あえてこういう聞き方をしますけど、なぜCDが売れないこの時代に7週連続でシングルCDをリリースしようと考えたのですか?

鈴木:レーベルの社長である古閑(裕)さんが飲みの席で言ったギャグが実現しちゃったんです。だから、動機は"おもろいから"。レーベルとしては結構冒険だと思うんですけど、そのおもろいというところだけにエネルギーを注ぎ込んでくれる社長やから、成り立っているだけで、商業的には正直わからない。難しいのかもしれないけど、おもろいからっていうのは一番ピュアだからこそ一番大事なんです。

藤原:提案されたときも、おもろいですねって即答しました。

鈴木:倖田來未さんもやっているから(※倖田來未は12週連続シングル・リリース)、僕らもやりましょうってなりました。

-面白いとは言え、曲作りは大変だったんじゃないですか?

鈴木:『超越』が完成してから、曲は作ってたんですけど、あえて力を抜いている曲というか、"よっしゃ。タイアップみたいな曲を作るぞ"みたいなテンションではなく、ほにゃほにゃと作った曲のほうがファンから人気があることが多くて、そういう曲も含め作ってたんですよ。そしたら全曲がシングルとしてリリースされることになったから、全曲よっしゃみたいなテンションで作らなきゃいけなくなりました。すでに作った曲を、若干作り変えた覚えがあります。ただ、曲はいつもどれがシングルになっても大丈夫なエネルギーで作っているから、シングルを7枚連続で出すからどうこうっていうのは、そんなになかったです。

-7週連続でリリースしたCDを全部買って、それぞれに封入されている応募券を7枚分送ると、"コンプリート特典"が貰えるそうですね?

藤原:"7 ultimate materials"特製外装パッケージと、7曲のデモ・トラックが入った限定CDと。

鈴木:ええ感じのポスター。ジャケットが7枚で1枚の絵になっているんですけど、実は7枚じゃあ、ちゃんとした1枚の絵にならなくて。それがポスターはちゃんとした1枚絵になっているんです。

藤原:しかも厚紙なんです。

-その1枚絵は龍が8の字を描いている。たぶん7枚出したあとの8枚目だからってところと、無限大をかけているんだと思うんですけど、最後に8の字のジャケットを作りたくて、シングル7枚にしたんじゃないかと想像したのですが。

鈴木:いや、全然そんなことは考えてなかったです。いつもお願いしているデザイナーさんに"7枚連続でシングルを出します。7枚集めて1枚みたいにしたいんです"って7曲送って、"あとはお任せします"って言ったら、これがあがってきたんですよ。

-では、なぜ7枚に?

鈴木:7枚ぐらいが限界だと思いました。古閑さんは最初、10枚って言ってたんですけど、それは無理ですって7枚にしてもらったんです。

藤原:だから、7という数字には特に意図はないです。

-いただいた資料に"無限ループする7色のパラレルワールド"と書いてありましたが。

鈴木:それは古閑さんが考えたんです。

-限定CDに入るデモ・トラックはどれくらいのクオリティのものなんですか?

鈴木:僕が最初に藤原とサポート・ドラマーに"これ、やってきて"って聴かせるやつです。

-歌も入っているんですか?

鈴木:いや、歌メロはシンセの場合と仮歌の場合があります。

-デモを発表することに躊躇はなかったですか?

鈴木:自分がファンだったらかなり欲しいものなので、その感覚はあまりないですね。

-ファンだったら、もちろん欲しいと思うんですけど、アーティスト側からしたら制作の舞台裏ってあんまり出したくないのかなって。

藤原:種明かしみたいな感じってことかな。

鈴木:なんなら、デモの段階でこんだけ作ってるんだぞ。(それを)わかってくれ、みたいなところはあります。

-全曲をリード曲という以外に今回、曲を作るうえで考えたことはありましたか?

鈴木:『超越』がわりかしまろやかなイメージがあって、もっと尖っていきたいっていうのはありました。実はギターとベースを一度、全部録ったんですよ。インディーのバンドが出す音じゃないくらい、すごくいい音で。そしたら音が良すぎてハマらなかった。音が良くなればなるほど、音像が元気に明るくなっていくんですね。だから、『超越』はちょっと元気なんですよ。でも、暗くしたいんです。暗い雰囲気を出したいから、それは違うとなって、全曲録り直したんですよ。結果、ギターとベースは宅録みたいな音にしました。それでもいい音なんですけど、ちゃんといいラインは保っていると思います。アンプで録ったものをライン録りに替えたんですけど、そういう曲の空気感というか、自分が出したいキャラというか。温かい曲をやるバンドじゃないんです。そういうところは結構気にしてました。

藤原:『complicated system』(2019年11月リリース)ってシングルから楽器の録り方をがらっと変えたんです。ベースは『一閃』(2019年4月リリースのミニ・アルバム)までライン録りで、宅録みたいな環境で録ってたんですけど、『complicated system』からアンプで鳴らすようになって。ベースの音ってバンド・サウンドのキャラクターを左右すると思うんですけど、それで結構変わっちゃったんです。いい音でかっこいいんですけど、そこに鳴るの音じゃなかった。

鈴木:『超越』は『超越』でいいんですけど、そこに鳴るのファンに"どれが一番のオススメですか?"って聞いたら、たぶん『一閃』が一番挙がると思うんですよ。サブスクのランキングの上位も『一閃』の曲が占めているんです。そこに新譜が行かないと意味がない。寿司屋に行って、焼き肉が出てきたら違うじゃないですか。僕らはそこに鳴るの料理をしなきゃいけない。そう考えたときに、『一閃』を踏まえたうえで料理しなきゃいけないという感覚がありました。進化するのはかまわないけど、変化しちゃったらダメなんです。好きなアーティストが新譜を出して、"変わった"と思うのそんな好きじゃないんですよ。変わってるけど、前のも踏まえつつ、もっと良くなっているっていうのが一番嬉しい。そこを目指したいです。

-どんなふうに違って聴こえるのか、いい音で録ったバージョンも聴いてみたいですけどね。

鈴木:温かいです。昔は結構ぐちゃぐちゃってしてたのに、売れたり、歳がいったりしてウォームな音になるバンドっているじゃないですか。そういうのに近いかもしれない。歳がいって音が丸くなるみたいな。でも、僕らはいつまでも若くいたいんですよ、音は。

-7曲の中から第1弾の「vermisst」と第7弾の「brilliant city」のMVを作ったのは、そこに鳴るが持っているふたつの魅力を、それぞれに代表している曲だからなんですか?

鈴木:「vermisst」は、"これがそこに鳴るです"っていう曲をMVにしたかったって理由からです。「brilliant city」は普通にいい曲だからです。普通にいい曲がなんだかんだ、みんな好きだと思っていて。僕も好きですけど、そのポジションになってくれるんじゃないかという理由からです。

-そこに鳴るとしては、"いい曲ですね"って言われるのが一番嬉しい?

鈴木:そうですね。(演奏が)すごいって言われても、そりゃそうだろうって。味が濃いと言われてるのと一緒なんですよ。それは褒め言葉ではなくて、ただの客観的な事実なんです。いい曲って言われるのが一番いいですね。いい曲を作っているつもりなんで。

-たしかに「brilliant city」は、いい曲ですね。この曲はハーモニーも力を入れているようですが。

鈴木:今回、全曲、ハーモニーに力を入れてるんです。自分たちの尊敬するバンドの曲をコピーする企画"そこに鳴る軽音部"を週1でやり始めたのが『超越』を作ったあとなんですけど、週1で人の曲をしっかりコピーするってことを続けてから今回の曲を作ったから、和声がすごくわかるようになったんですよ。それでコーラスも入れまくりました。基本3人で歌っているから、全曲がTHE ALFEEみたいになってます。

-今日ちょうど"そこに鳴る軽音部"の「星空のディスタンス」を観てきたんですよ。

鈴木:令和のTHE ALFEEを目指していきます。