Japanese
あるくとーーふ
Skream! マガジン 2023年04月号掲載
2023.02.28 @下北沢RéG
Writer : 吉羽 さおり Photographer:SHUN ITABA
今年1月に4曲入りのニューEP『UPSIDE DOWNTOWN』をリリースした5ピース・バンド、あるくとーーふが、2月28日にEPリリース・イベント"歩豆腐街"を開催した。今回はゲストにリスペクトする先輩バンド2組、ReiRayとゴホウビを招いて、イベントのホストとしてあるくとーーふらしい手作り感のあるもてなしをすると共に(観客には新聞スタイルのDIYなチラシも配布。これも力作)、エネルギッシュなライヴで晴れやかな今のバンドの姿を見せてくれた。
ReiRayもゴホウビもあるくとーーふにとってゆかりのあるアーティストだ。元FAITHのヤジマレイ(Gt/Vo)、レイキャスナー(Gt/Vo)によるReiRayは、あるくとーーふが高校生のときから対バンをしていた、言わば地元の先輩。ゴホウビはあるくとーーふのメンバーみんなが大ファンで、利佳子(Vo)がゴホウビにDMを送り、いつか共演できればという思いがこの日ようやく実を結んだという。それぞれのバンドの登場前には、ステージ前に掛かったスクリーンにメンバーの似顔絵や手書きで記されたバンドとの関係性や紹介が映し出されて、各バンドと観客とをよりフレンドリーにする演出も用意された。ドラムを交え3人編成でのステージとなったReiRayは洒脱なシンセ・ポップ、ダンサブルな曲やチル・アウト感が心地よい曲でフロアを揺らし、ゴホウビはポップでドラマチックなアンサンブルと男女ヴォーカルが織りなすグッド・メロディの波状攻撃で、会場の高揚感をぐんぐん上げていく。あるくとーーふのステージへと最高のバトンを渡していくライヴで魅せた。
そんな温かくアットホームなムードのなか、元気良くステージに登場したあるくとーーふは、"一緒に楽しんでいきましょう"(利佳子)の言葉と共に、EP『UPSIDE DOWNTOWN』の1曲目でもある「シャリライ」でライヴをスタートした。力強い伊藤ヒナノ(Dr)とNakamura Koji(Ba)によるビート感、上昇感のあるamicoの鍵盤、貴仁のギターによるアンサンブルに、憂いを帯びた利佳子のヴォーカルが陰影をつけていく。そこから「カラフルカラフル」で一気に色彩感を爆発させたかと思うと、「悪役のはなし」ではキレのいいギターのカッティングとシンセのリフ、直線的なビートが空気を切り裂いていくように突き進んでいった。ひと筋縄でいかないアレンジや自在なバンドのグルーヴ感、それでいてキャッチーで、瞬時に観客を曲の世界に引っ張り込んでいくパワーがあるくとーーふの強みだ。前半から勢い良く滑り出し、利佳子はこの1日がいい日になったなと思えるものになればと、"歩豆腐街"への思いを語った。
ニューEP『UPSIDE DOWNTOWN』は、やりたいことを全部詰め込んだアルバム『サイファールーム』を経て、じっくりと制作に取り組んだ作品で、それまでのamico作詞/作曲だけでなく、貴仁や利佳子が作曲をした曲や、メンバーそれぞれが挑戦や新たなアイディアを持ち込んだ曲が並ぶ。引き算のアンサンブルで曲の世界観を描き、芽生えた余白や行間からさらにメンバーそれぞれの音やキャラクターが立ち上がるような曲が増えた。「くらしのまま」などはまさにそんな曲で、ゆったりとジャジーなサウンドに、飾らない5人の姿が反映される。利佳子は曲前のMCで"よく、失って初めてその大切さに気づく、と言うけれど、私は本当にそうなのかなって思う。大切なものは、もともと気づいているはず。そんな自分にとって大切なもの、人を、これからも大事にしたい。そんな気持ちでこの曲を歌っています"と言って、日々を慈しむような歌声で優しいメロディを紡いでいった。ここに続くアカペラ・スタートの「オオカミUFO」の切ない叫びは、より狂おしくもファンタジックに響く。これまでの曲と新たな曲とのケミストリーが、新たなストーリーを生む感覚もある。そんな混じり合いをバンドも楽しんでいるようだ。
今日はアンコールはなしなので、このあとは怒濤の展開となると宣言しての後半戦は「ダイナマイトタウン」で勢い良くスタートした。スリリングなリフとリズムの嵐が、観客のクラップを呼び、そのメロディも加速する。アグレッシヴな演奏でギターにトラブルがありいったんステージからはけた間も、会場に手拍子を巻き起こし、「次回予告のその後で」の陽性のビートとピアノのイントロをリフレインし、また臨機応変にメンバー紹介やソロからギターの貴仁へと繋いでいく。ライヴならではと言えるハプニングだったが、それをも楽しくショー・アップする5人の呼吸感、バンド感が窺えた瞬間だ。そこからハジけるような「ハニーレモン・ジンジャー」、ラストの「氷星」へと駆け上がっていく。キラキラとした躍動感とポップ・ミュージックがもたらす、ここではないどこかへとさらってくれるロマンや陶酔感を詰め込んだサウンドは、とても甘美だった。この日演奏はされなかったが、ライヴ後の22時に収録曲「太陽の沈む街」のMVが公開となった。あるくとーーふの新しい魅力となっている曲だけに、これからのライヴへの期待感も募る。
- 1