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LIVE REPORT

Japanese

a flood of circle

Skream! マガジン 2022年02月号掲載

2021.12.23 @Zepp DiverCity(TOKYO)

Writer 秦 理絵 Photo by 新保勇樹

"最近よく聞く「こういうご時世」って、2000年前も言ってたんじゃないかな。もしくは1万年前も。500年後も言ってるかも。たまたま俺らはこの時代に生きてるだけ。どういうご時世でも、やるしかないと思ってやってきました"。この日、佐々木亮介(Vo/Gt)がそんな言葉でバンドの15年間を総括した。転がり続けて15年。今年は数々のアニバーサリー企画を展開してきたa flood of circleが、その年末に全国12ヶ所を回ったワンマン・ツアー"a flood of circle 15周年記念ベストセットツアー「FIFTHTEEN」"、そのファイナルとなるZepp DiverCity(TOKYO)だ。15年間の歴史の中でも、とりわけライヴハウスで大切に演奏し続けてきた楽曲を畳み掛けたこの日は、バンドの"これまで"と"これから"をその場所に刻み、フラッド(a flood of circle)の歴史に新たな金字塔を打ち立てる一夜になった。

定刻を少し過ぎた頃、お馴染みの「Superstition」(BECK, BOGERT & APPICE)のSEに乗せて、メンバーがゆっくりとステージに現れた。"おはようございます。a flood of circleです。よろしくどうぞ"という手短かな挨拶から、佐々木が人生で初めて作った「ブラックバード」でライヴの幕は開けた。アオキテツの渋いギターにHISAYO(Ba)と渡邊一丘(Dr)のリズム隊が加わり、黒いグルーヴがじんわりと会場を温めた。フロントの3人がステージ際へと歩み出た「ミッドナイト・クローラー」から一気にエネルギーが爆発する。軽やかにステップを踏みながらベースを弾くHISAYO。続く、「Dancing Zombiez」では、ドラム・ヘッドを破くんじゃないかと心配になるような渡邊のドラムが凄まじかった。以前インタビューで渡邊は"音だけではなく叩くときの腕の運びの良さも意識している"というようなことを言っていたが、Zepp DiverCityの大きなステージには、そのパワフルな見た目のかっこ良さもいっそう映える。そのアウトロで佐々木が"ギター、アオキテツ!"と叫び、テツのソロで沸かせたあと、"ギター俺!"と畳み掛ける。ライヴで定番のこの流れに慣れすぎて、レコーディング音源が実は少し物足りなく感じるのは私だけだろうか。

衝動的な初期のブルース・ロック「泥水のメロディー」では、佐々木とHISAYOが向き合いながら演奏をしたかと思えば、哀愁を伴って高揚するダンサブルな「Human License」では、今度は佐々木とテツが噛みつくように向き合って演奏をした。「Sweet Home Battle Field」では、タンバリンを片手に踊った佐々木が最後にステージに寝ころび、足をバタつかせて歌ったりと、アグレッシヴなパフォーマンスで次々に見せ場を作っていく。"よく来たよね、みんな。ようこそ"とMCを切り出した佐々木は、"15年やってきて俺たちラヴ・ソングしかやってないんじゃない? 今日も愛を込めてお届けします"とバラード曲「月面のプール」に繋いだ。さらに陽気なポップ・ソングにお客さんも巻き込んだ「I LOVE YOU」へ。佐々木が言う"ラヴ・ソング"とは、君が好き、愛してるというような甘くて切ない恋愛の歌だけには限らない。昨日より一歩でも前に進もうとする人間そのものをまるごと包み込むような、人間賛歌のようなラヴ・ソングだ。

ツアーを振り返った中盤のMCでは、コロナ禍で打ち上げもできず、あんまり思い出がないという。絞り出したのは、金沢のホテルで朝5時に警報器が誤作動して、"非常口はこちらです"というアナウンスが2時間ぐらい流れていたため、その声をサンプリングするイメージでKanye Westをデカい音で聴いていたという話。なんとも佐々木らしい。そこから"思い出があんまりないのは、自分が「今日(が一番)でしょ」って思ってるからかなって。今日も最高にして帰ります"と言ってなだれ込んだ「理由なき反抗 (The Rebel Age)」では、アウトロのギター・ソロのあと、テツが中指を立てた両腕を思い切いきり突き上げた。広い会場が似合うダイナミックなナンバー「New Tribe」に続き、"ぶっ飛ばしていくぞ!"と突入した「Lucky Lucky」では一部メイン・ヴォーカルをとるテツを、佐々木とHISAYOがふたり並んで見守っていた。結成15周年と銘打つが、フラッドに"最後のギタリスト"としてテツが加入して現体制になったのは3年前だった。このタームは、今やフラッドに欠かすことのできない存在になったテツの個性が浮き立つ名シーンが多かった。

この日のフラッドは後半にかけて一切MCを挟まず、さらに研ぎ澄まされていく集中力が凄まじかった。圧巻だったのは「Beast Mode」。渡邊が高い位置からスティックを振り下ろして乱れ打つ性急なビートに、テツの甲高いギターがむせび泣き、HISAYOは指弾きによる躍動感のあるベース・ラインを繰り出す。ブレイク後のサビの爆発。a flood of circleのロックンロールのなんたるかを結晶化したようなパフォーマンスと呼応するように、フロアの熱気が上がっていく。"俺たちとあんたたちの明日に捧げます"というお決まりの前口上からの「シーガル」を経て、バン! バン! バババン! と、全楽器が息の合ったリズムを刻んで突入したラスト・ナンバーは「ベストライド」。疾走するビートに乗せて、佐々木は"土砂降りの中を走ってゆけ"と力強く歌い上げた。2015年に前ギタリストの脱退直後という状況のなか、不安を振り切るように作り上げられたその楽曲は、望む未来に向けて全力で突き進んでいくという、当時の決意が綴られていた。それを本編の最後に置いたという締めくくりは、これからもa flood of circleは不屈であるということを、言葉ではなく、自らのロックンロールで伝えた万感のフィナーレだった。

アンコールは"すっごいよ。すっごいの出たんだから"という、12月22日にリリースされたばかりの最新アルバム『伝説の夜を君と』への手応えを口にする佐々木の言葉から始まった。早速披露されたリード曲「北極星のメロディー」は、ここにきてのハイライトとも言える名演だった。エネルギッシュな8ビートに情熱と煌めきを詰め込んだ緻密なアンサンブル。そこには15周年イヤーを経て、次のフェーズへと完全に狙いを定めるフラッドがいた。続けて同じくニュー・アルバムからのタイトル・トラック「伝説の夜を君と」を佐々木が弾き語りで披露したあと、"来年もロックンロールでみなさんを愛していきますのでよろしくお願いします"と言い、再びバンド編成の「GO」に戻って、約2時間のライヴを完全燃焼で締めくくった。最後にスティックを放り投げた渡邊が素手でハイハットを叩き、佐々木は"ほんじゃまた来年"と言い残してステージをあとにした。

この日のMCで、佐々木が"別にどこかに辿り着きたくて(バンドを)やっているんじゃなくて、漕ぎ続けたくてやっている"と伝えるシーンがあった。そのままの意味合いのフレーズが最新アルバム『伝説の夜を君と』には入っている。「テンペスト」という曲だ。バンドは手段ではなく、バンド自体が目的であるはずだから。フラッドはずっとそうやって続いてきたバンドだが、今はそこに対して絶対的な確信をもっているように見える。ライヴの直後には、YouTubeによる生配信が行われ、来年の2月から開催されるツアーにも触れた。一部はゲストを迎えるということで、"泣いちゃうよ。「そうきたか」っていう対バンもあるから"と佐々木が期待値を上げた。ツアーの告知をできることが本当に嬉しそうだった。15周年を経た今のa flood of circleはこれまでのどんな時代よりも無邪気な気がする。それゆえの無敵感がある。2022年のフラッドはきっと面白い。


[Setlist]
1. ブラックバード
2. ミッドナイト・クローラー
3. Dancing Zombiez
4. ロックンロールバンド
5. 泥水のメロディー
6. Human License
7. Sweet Home Battle Field
8. 月面のプール
9. I LOVE YOU
10. 理由なき反抗 (The Rebel Age)
11. New Tribe
12. Lucky Lucky
13. Blood Red Shoes
14. Boy
15. Beast Mode
16. シーガル
17. ベストライド
En1. 北極星のメロディー
En2. 伝説の夜を君と
En3. GO

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