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LIVE REPORT

Japanese

a flood of circle

Skream! マガジン 2021年01月号掲載

2020.11.25 @LIQUIDROOM ebisu

Writer 秦 理絵 Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)

ロック・バンドが一番美しくその命を輝かせるのは、やはりライヴハウスだった。
渡邊一丘が叩き出す重戦車のような力強いリズムと、HISAYOが軽やかにステップを踏みながら繰り出すしなやかなベース・ライン。バンド最年少ながら、ヴォーカルを食う勢いでステージに君臨するアオキテツのギターに、当然、その座を奪われる気など毛頭ない佐々木亮介のロック・ヴォーカリスト然とした佇まい。日本全国のライヴハウスから光が消えかけたコロナ禍、再びa flood of circleがライヴハウスで鳴らした爆音のロックンロールは、まさに命を取り戻すようなライヴだった。しかも、そのステージには、10月21日にリリースされた、自他共に認めるバンド史上最高のロックンロール・アルバム『2020』(読み:ニーゼロニーゼロ)と手土産付きだ。会場は、佐々木が"東京で一番ってぐらいかっこいい"と言う恵比寿LIQUIDROOM。お客さんが歓声を出せない制約はあったものの、この日のa flood of circleは、そんな制約など軽々と超えて、どんな絶望も希望へと塗り替えるロックンロールの力強さを見せつけてくれた。

ライヴは、最新アルバム『2020』でもオープニングを飾る、「2020 Blues」の爆発的なスタートダッシュから、そのままノンストップで繋ぐ「Beast Mode」へと、冒頭を完全再現するように幕を開けた。いきなり足を大きく広げ、腰を落としながら激しいプレイで魅了するアオキ。"ギター、俺!"というお決まりの文句から、ステージ際へと歩み出た佐々木が猛然とソロ・プレイを見せた「Dancing Zombiez」では、会場は息の合ったハンド・クラップで包まれた。HISAYOが繰り出す骨太なベースが口火を切った「ヴァイタル・サインズ」では、ハンドマイクの佐々木がアオキの肩に身体を預けるように歌う。ギターの弾き語りによる枯れた味わいから、一気に開放感が広がったのは「Free Fall & Free For All」。ブレイクのあと、渡邊のドラムきっかけで再び演奏が始まるシーンでは、おもむろにフェイントを入れて遊んでみたりと、お客さんはもとより、ステージ上の4人が誰よりもその演奏を楽しんでいるのが伝わってくる。

"よく来たね、マジで"。ねぎらうような佐々木のあいさつは、"マジで"の部分がひと際強調されていた。"a flood of circleにとって、2020年はどんな年でしたか? って死ぬほど聞かれたけど。毎年あるっつーの、いろいろ。今年もやってるだけだっつーの。それで、毎年スペシャルだっただけで、今日もスペシャルだから。よろしくどうぞ"。挑戦的な物言いでライヴの意気込みを伝えた佐々木の言葉は、どんなに時代が変わろうと、自分の信念を持って戦い続ける強さがあった。続けて届けたのは、「Super Star」。"輝いている君は/僕のスーパースター"と、聴き手の人生を丸ごと包み込むようなメロディ。それは、一般的に"熱いロックンロール・バンド"と言われるa flood of circleが持つ、優しくて、温かい、もうひとつの表情だ。美しいピンスポットがステージに降り注ぎ、牧歌的なメロディに揺れた「人工衛星のブルース」のあと、素晴らしかったのは「天使の歌が聴こえる」。軽やかに跳ねるビートに乗せて、初めてHISAYOがコーラスに参加したミディアム・ナンバー。その終盤、佐々木は、たっぷりと言葉を噛みしめながら、"あなたが生きてる今日は史上最高だ"というフレーズを全力のアカペラで歌い上げた。『2020』というアルバムは、コロナで世界が激変するよりも前に制作された作品だ。だが、その楽曲たちは、とても深く今の私たちに寄り添う。それは、a flood of circleというバンドが、"もともと世の中って、そんなにいいものでしたっけ?"という前提に立ち、どんな時代も前を向いて生き抜くためのロックンロールを鳴らし続けてきたバンドだからだ。世界が変わろうと、彼らが鳴らす音は変わらない。

心地よい酩酊感を伴いながら賑やかに転調する「Whisky Pool」、最新アルバム以外の絶妙な選曲だったゴキゲンなロックンロール「Lucky Lucky」。その歌詞を引き合いにして、佐々木が、時に囁くように、叫ぶように聴かせた即興のブルースをインタールードになだれ込んだのは「Rollers Anthem」。a flood of circleのロックンロールとはなんたるかを、全身全霊で体現する無敵感に満ちた最新アンセムの中で、"スタートなら 今 ここさ"と歌ったとき、佐々木は自分の足元を力強く指さした。誰もが明日も生きているかはわからない。だが、今この場所に生きていることだけは絶対に揺るがない。そう主張するような熱いパフォーマンスに胸が熱くなる。

「ロシナンテ」、「プシケ」、そして、「シーガル」。メンバーが1音ずつ音を重ねてゆく定番のメンバー紹介も挟み、a flood of circleのライヴには欠かせない必勝ナンバーを連発しながら、いよいよライヴはクライマックスに向かう。相変わらず声こそ出せないが、それでも、その会場にいるひとりひとりの心にa flood of circleが届けたいものが確かに伝わっていることは空気でわかる。ラスト1曲を残したところで、"今年もロックンロールがあって良かった"と佐々木。"別に今までも状況が悪いときもあった。やりにくいときとか、人足りないときとか(笑)。はっきり言うけど、今が一番いい。それは当たり前でしょ、転がってきたんだから"という口調で静かに語った。取材で見せるマシンガントークな語り口と比べると、ステージ上の佐々木は極めて言葉数が少なく簡潔になる。それはきっと音楽があれば、何も説明はいらないとわかっているからだろう。

ラスト・ソングは「火の鳥」。ゆったりとしたテンポが刻まれ、捲し立てる早口のメロディと、繰り返される"歌を聴かせてくれ"というフレーズ。アオキのギターがむせび泣き、壮大なバンド・サウンドに乗せた不屈のラヴ・ソングを、フロアのお客さんはじっと聴き入っていた。最後は、佐々木が"I LOVE YOU BABY!"と絶唱。それは、ロックンロールを通して、"今を生きること"の肯定感を全力で伝え続けたワンマン・ショーを締めくくるのに相応しいフィナーレだった。

"だってもっとやりたいもん! 欲しい! 欲しい! 欲しい!"と、駄々っ子のように突入した「欲望ソング(WANNA WANNA)」から、"こっから始まるぞー!"というタフな宣言と共に駆け抜けた「GO」へ。アンコールを含めて、全20曲を披露して、ライヴは終演。会場にBGMが流れ始めても、ずいぶん長いこと拍手が鳴りやまなかった。

なお、a flood of circleは、1月13日から"2020 TOUR 2021"を行う。希望を込めた開催の決意だ。そのツアーに寄せて、佐々木は"決めないと動けないから。決める。で、できる限りやる"と、迷いのない口調で伝えた。やはり彼らは止まらない。a flood of circleのロックンロールは、15周年へと転がり続ける。


[Setlist]
1. 2020 Blues
2. Beast Mode
3. Dancing Zombiez
4. ファルコン
5. ヴァイタル・サインズ
6. Free Fall & Free For All
7. 見るまえに跳べ
8. Super Star
9. The Key
10. 人工衛星のブルース
11. 天使の歌が聴こえる
12. Whisky Pool
13. Lucky Lucky
14. Rollers Anthem
15. ロシナンテ
16. プシケ
17. シーガル
18. 火の鳥
En1. 欲望ソング(WANNA WANNA)
En2. GO

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