Japanese
秀吉
Skream! マガジン 2011年07月号掲載
2011.06.16 @渋谷DUO
Writer 石井 理紗子
“今日はじっくりゆっくりと楽しんでいってください。”柿澤秀吉(Vo&Gt)は、ステージにあがって最初にギターで奏でるコードにそう言葉を乗せた。ごくごく普通のMCと変わらない言葉が即興のメロディと合わさり、どこか不思議な温かさと透明感が漂う空間ができあがる。
そして“むだいの音楽会へようこそ”という言葉を皮きりに、それまでのほんわかとした空気が一気に弾け飛ぶ。始まったのは「夕の魔法」だ。カラフルなライトに照らされながら町田龍哉(Ba)のベースが唸る。冒頭のMCからは想像がつかないほどのテンションだ。驚いているうちに今度は爽やかなギター・リフが響き、始まったのは透明な歌声が響き渡る「信じなきゃ」。コーラスが重なるサビに思わずうっとりと聴き惚れた。
感謝の言葉を述べたMC後に披露されたのは「ひとりひとつぶ」。骨太なロック・サウンドのリズム隊の上にきれいなポップのメロディ・ラインが重なる。そして、「歩こう」「僕の名前」と続き、心の葛藤をむき出しにしたような独特の感性で語られる言葉が突き刺さる。そして、忘れられない重大発表。今までサポート・メンバーだった内田裕士(Dr)がこの日から正式メンバーになったことが告げられ、温かな拍手が沸き起こった。
祝福ムードの中始まったのは「花かざぐるま」。どこかアジアンな雰囲気のフレーズと情緒に溢れる歌詞が、華やかに盛り上げる。続く「くだらない話」は思わずステップを踏みたくなるような軽快なリズムとどこかおどけたアレンジで、聴かせるだけではない秀吉の楽曲の幅の広さを感じさせた。そして、ライヴが終わるのを惜しむようにしっとりと歌われた「ピノキオ」。最後は“渋谷の音楽馬鹿の皆さんへ群馬の音楽馬鹿から最後に1曲”と力強いヴォーカルとアップ・ビートの「きたない世界」で締めくくり、メンバー自身拍手をしながらステージを去った。
アンコールで披露されたのは映画「ソラニン」の挿入歌にもなった「夜風」。秀吉の希望で客電まで付けられたステージでメンバーから見えたのは、この日一番の笑顔だったのではないだろうか。MCなんて噛みまくりでたどたどしいくせに、ひとたび音楽に乗せるとどこまでも雄弁で心を震わせる。そんな素朴な秀吉にすっかり魅了されてしまった夜だった。
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