Tom Meighan(Vo)脱退後、初のフル・アルバムとなる本作。新たに外部からヴォーカルを招くことなく、メンバーのSerge Pizzorno(Gt/Vo)がリード・ヴォーカルも務めたことにより、KASABIANのKASABIANたる要素が欠けることなく、うまく前に進めた印象だ。サウンドにはまとまりがあるし、それでいて常に現状打破というかチャレンジングな姿勢を崩さないところはさすが。モダンなエレクトロ・サウンドを意識したアレンジもあって、パンチの効いた激し目の楽曲もトゲトゲしくなく、とても洗練されている。初期には初期の、これまでの彼らには作品ごとの魅力があるのはもちろんだが、いい方向に変化と前進を受け入れていく彼らのポジティヴな魅力が感じられる。
ギター・ロックの復権どころか、70年代から現在に至るまでのあらゆるビート、グルーヴをロック・バンドの手法とガッツで昇華した作品。Ed Sheeranのモンスター・ヒット・アルバム『÷』の全英1位を9週でストップさせた理由もそれだろう。初期作品を想起させるポスト・パンク的なビートからファンクネス溢れるサビに解放される「Ill Ray (The King)」での幕開けから、BLONDIEとも符合するセクシーで美しいメロの「You're In Love With A Psycho」、ROXY MUSICやDavid BowieのグラマラスなR&Rを底に感じる「Good Fight」や「Comeback Kid」、ザ・UK的なメロディを持つ「All Through The Night」。淡く薄いトラック全盛だが、グランジ×ダンスの肉体性と完成が求められている証左が本作の高評価に顕在した感がある。
前作『Empire』の時代錯誤的とも言える大仰なハード・ロックは、彼らが本来持つ不穏なグルーヴを半減させてしまっていた。しかし、Dan Nakamura(DJ SHADOW等)をプロディースに迎えた本作では、そのグルーヴがより強靭なものとなって戻っている。一音一音がしっかりと聴こえてくる立体的な空間処理が施された結果、驚くべき化学変化が生まれている。このコンセプチュアルなサイケデリック・アルバムで、KASABIANは彼らの築き上げた帝国へと聴く者を連行する。しかし、いびつで不可思議なその世界を受け入れるかどうかは僕達に委ねられている。EAGLESが歌ったあの一節が頭をよぎる。「You can checkout any time you like, but you can never leave」。