the shes goneの1年ぶりとなるミニ・アルバム。今作には、どこか季節の巡りが感じられる色とりどりな5曲が収録されており、全曲で異なるサウンドスケープが鮮やかに描かれている。そして、なんと言っても彼らの強みでもあるメロディ・ワークが素晴らしい。不思議な温度感を持つ兼丸の歌声を乗せた"シズゴ節"とも言えそうなそのメロディは、聴き手の日常にスッと溶け込む唯一のものだろう。希望と不安の狭間でぐらついた気持ちに優しく触れる「春の中に」、飲みの席で感じる不甲斐なさを軽快なリズムの中で歌う「alcohol」、すれ違い沈んでいく想いの行先を綴る「Orange」。どれだけ季節が過ぎようと人それぞれ悩みや葛藤は絶えないけれど、今作はそんな心を少しだけ、楽にしてくれる気がする。
デジタル・シングル「備忘録を綴る」を挟み、フィジカルとしては約1年ぶりのリリース。疾走感溢れるギター・ロック、ブラス入りピアノ・ポップ、ドラマチックなバラードと3曲の粒立ちはしっかりと。ひと捻りある展開、歌詞カードを見るとわかる言葉遊びなど、彼らならではの工夫、企みも効いている。全曲ひもとき甲斐があるが、初期衝動が前面に出た「希望前線」然り、高揚感に満ちた「knock you , knock me」然り、"同じメロディに別の歌詞を充てる"というトライをした「回顧録を編む」(「備忘録を綴る」と一緒に聴いてほしい)然り、演奏者も書き手も前のめりに制作に臨んでいることが一番に伝わってくる。"トリプルA面シングル"と派手に銘打つスペシャル感も嬉しい。