一見ゆるふわって感じだけど、手に取ってみたら意外とズッシリ、みたいな。クラムボンの音楽にはいつもそんな感覚を受ける。原田郁子の幼児性帯びた容姿と歌声の強烈なイメージに起因したものだけど、個性ある3者3様の歩みが内包した、音楽的語彙の多様な刺激の重みなのだ。ジャズ、AOR、クラシック、エレクトロニカ、ヒップ・ホップと、触手赴くままに取り入れ、着地は万人を魅了する流麗なクラムボン節となる。ラジカルな前衛性とポップな大衆性の理想的な融合。オリジナル・アルバムとしては07年『Musical』以来実に3年ぶり、8枚目となる『2010』でもその衝撃は変わらない。ハイライトは数あれど、9分の大作「あかり from HERE」の深遠な世界は感動もの。ポップ・ミュージックの神髄、ここにあり。
メジャー・デビュー7周年を記念した初のセルフ・カバー・アルバム。様々な世代のアーティストへの提供曲だからこそ表現し得た、大森靖子の多彩なペルソナが飲み込める。敬愛する道重さゆみへの提供曲のカバーが最も多く、女性アスリートなど、著名な存在の何にシンパシーを感じるのかが綴られた「WHO IS BABY」ほか3曲。相坂優歌へ提供した「瞬間最大me」は、神聖かまってちゃんのの子(Vo/Gt)をゲストに迎えたハイパーポップがふたりらしい。提供曲でも女性、人間、愛、命という主題を突き詰めていることに驚嘆。また、昨今の時世を映すYouTube番組"街録ch-あなたの人生、教えてください"の主題歌に書き下ろした「Rude」の、荘厳なアレンジと歌唱に圧倒される。尊厳とは何かを自分の心に問う作品。
割れたり欠けたりした陶器などを接着し、継ぎ目を金で飾る修復方法を"金継ぎ"という。ばらばらになった気持ちや絆を痛みながらサヴァイヴする人に対し、もとあったものを生かしつつ前よりも美しくしたい、そんな想いで制作された本作。特に印象的だったのは英語詞(!)で先行配信された「NIGHT ON THE PLANET」(本作には日本語で収録)。大沢伸一(MONDO GROSSO)編曲によるシンセを軸とした壮大で重心の低い音作り、"夜のどん底"から遠い星を仰ぐような世界観に、憑りつかれる感覚を覚えた。心の澱を叩きつける声色のみならず、虚無感を孕んだファルセットの威力もすごい。さらに彼女を慕う橋本 愛が熱を持った歌で参加した「堕教師」も注目で、多様な作編曲陣のカラーも映えた渾身の作となった。