Japanese
大森靖子
2014年09月号掲載
Writer 天野 史彬
今の世の中は、いってしまえば"誰でもいい"世の中である。SNS、動画配信サイト、SoundCloudのような音楽配信サービス。環境さえ整えることができれば、"誰でも"自由に情報発信し、表現を世界に届けることができる。自分の考えを聞いてもらいたければブログやFacebookに書けばいいし、自分の音楽を聴いてもらいたければ動画サイトにアップすればいい。誰でもいいのである。
"「私じゃなきゃいけない意味をどうにかしてつくんなきゃ」っていうスタンスが、「誰でもいいなら私でいいじゃん」になりました。"
これは大森靖子がメジャー・デビュー・シングル『きゅるきゅる』に寄せたコメントの一部である。大森靖子は、時代の"誰でもよさ"に過敏に反応したアーティストである。ジャケットで椎名林檎をオマージュし、きゃりーぱみゅぱみゅの名前も出しながら、"選んで切って貼るしかできない"世代としての世代感を逆手に取った(と本人が語る)1stアルバム『魔法が使えないなら』で、大森は一躍インディー・シーンの寵児となった。大森はネットではなくライヴハウスから出てきたアーティストだが、この1stアルバムで彼女が抱いた"あらゆる表現が出尽くして、もはやオリジナルが作れない"という危機意識は、ネット時代の"誰でもよさ"に少なからずリンクする。1987年生まれの大森は、"誰でもよくなかった"時代から"誰でもいい"時代へと変化していく、その変遷をまざまざと見せ付けられていただろうから。
しかし実際のところ、大森の奏でる音楽は"誰でもいい"ものではなかった。それは"すべての女の子を肯定したい"というコンセプトのもと作られた2ndアルバム『絶対少女』においてより鮮明になった。このアルバムで明らかになったこと。それは、彼女の歌における、"人々の感情の集積地"=ポップ・ミュージックとしての性(サガ)。彼女の紡ぐ音楽は、それ自体が深い自己表現であると同時に、そのメロディの美しさも、言葉選びの現代性も、ストーリーテリングの巧みさも、今を生きる人々の感情を捉え、慰め、エグるには、すべてがずば抜けていた。今の時代、音楽は誰にでも作れて、誰でも世に出せるかもしれない。しかし、ポップ・ミュージックは誰にでも作れるものではない。彼女の音楽は、人々の感情を飲み込むことで新たな自我を獲得したのだ。それは彼女が"誰でもよくない"存在であることの証明だった。
この度リリースされるメジャー・デビュー曲「きゅるきゅる」。聴き手を深く巨大な渦の中に巻き込むような熱量の性急なシンセ・ポップ・サウンドに乗せて大森は歌う。"連れてってよ ググってでてくるとこなら どこへだっていけるよね!"――この言葉はとても皮肉めいて聴こえる。彼女が本当に行きたい場所はググって出てくるような場所ではないだろう。でもその場所へ行くために、きっと彼女はググって出てくる場所はどこにだって行く。だってここは"誰でもいい"世界なのだ。それは"どこでもいい"世界と同義である。"誰でもよくてどこでもいい"この歪な世界の中に立つ自分を大々的に歌うこと――それを許されたのが大森靖子なのだ。カップリングも然り。とんでもないスピード感と情報量で脳内世界をぶちまける「私は面白い絶対面白いたぶん」。震えるほど静謐に存在価値の在り処を問う「裏」。どちらにも"自分って何?""あんたって何?"という問いかけが深く刻み込まれている。この"この誰でもいい"時代に、この問いかけを世界に向けて堂々と叫ぶことのできる彼女は、やはり"誰でもよくない"特別な存在である。そして"誰でもいい"私たちは、そんな彼女の歌の中に自分を見る。大森の歌の中で見つける自分自身は、少なからず"誰でもよくない"存在として、そこにいる。それはやはり、希望なのだ。時代と逆行するようにポップ・ミュージックとしての深い業を背負った彼女の挨拶代わりの1発。強烈である。
大森靖子 メジャー・デビュー・シングル
『きゅるきゅる』
[rhythm zone]
2014.9.18 ON SALE
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CD
1. きゅるきゅる
2. 私は面白い絶対面白いたぶん
3. 裏
DVD
1. きゅるきゅる(Video Clip)
2. 絶対少女ツアーファイナル in 恵比寿LIQUIDROOM(予定)
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