誰に、なんのために、この音楽を届けるのか。それが明確に浮かびあがる作品だ。八王子発のギター・ロック・バンド POETASTERが、ふたり体制で初めて完成させた1st EP。これまで恋愛の歌が多かった高橋大樹(Vo/Gt)のソングライティングが一転、君を泣かせる奴は許さない、とストレートに歌う「君に話があるんだ」に代表されるように、聴き手の人生に寄り添う全5曲が収録されている。バラエティ豊かな作風となった前作に比べると、シンプルにまとめ上げた今作は、歌と言葉が鋭く心に突き刺さる。彼らが届けるべき"誰に"とはリスナーであり、"なんのために"とはその人生を肯定してあげるために、だ。まさに"The Gift of Sound=音楽の贈り物"というタイトルがぴったりな、強くて優しい1枚。
グッドモーニングアメリカ、NECOKICKSを擁するFIVE RAT RECORDSから初の全国流通盤を放つニューカマー、POETASTER。"生"を"声"に換えて"声命力"――それだけで、彼らがいかに声に想いを託して歌にしているかがわかるだろう。"詩人"を名乗るだけのことはある、ドラマ性が高く情景的な歌詞と、そこに込められたメッセージを運ぶ熱を帯びた歌声は相乗効果で強い武器に。"所詮"とか"どうせ"とか、若者がこぼしがちなネガティヴなワードをフックにしつつ、そこから光の当たる方へ引っ張っていくパワーは計り知れない。そして、ライヴ感のある熱いバンド・アンサンブルから始まる曲が多いあたり、さすがはライヴハウス・シーンが色褪せない八王子育ちのバンドだ。メロディックなギター・フレーズも、彼らのカラーを強く印象づける。
着実にステップ・アップし続け、前作『レイジーサンデー』収録の「シンデレラボーイ」がTikTok世代を中心にヒット。安定感のある成熟した演奏に乗せた柔らかな歌声が世間の心を掴み、今作には5曲ものタイアップ作が収録された。男女の別れ際を描いた「404.NOT FOR ME」、片思い中の姿に共感必至の「あぁ、もう。」、ふたりの素朴なやりとりを映す「魔法にかけられて」など、恋愛模様を細かく描写するリアルな歌詞の秀逸さはもはや語るまでもないが、いわゆる"ラヴ・ソング"ではなく、日常を描く楽曲にもふいに"君"が登場し生活の一部として描かれているところに、よりリアルさがある。仕事も恋愛も同時進行で進んでいく日々を懸命に生きるリスナーの日常に、サウシーが優しく寄り添う1枚。
THE ORAL CIGARETTES、フレデリックらを輩出した"MASH A&R"の2016年度グランプリを獲得、MVのYouTube再生回数も急増中という注目の3ピースによる初の全国流通盤。他のバンドに例えるのは好きじゃないが、歌や曲の温度感など、どこかplentyの面影がある。しかし、このバンドは良い意味でそれよりもっと不安定だ。少年性のある歌声を素朴に聴かせたかと思えば、いきなり心の堰が切れたかのように感情的になったりする。しかも、歌詞に描かれているのは女々しい感情や鬱屈した日々。ライティング・センスの高さが窺える、印象を残す情景描写も相まって、センチメンタルな気持ちを強く掻き立てる。なかでも、逃げてばかりいた自分に別れを告げるラスト「グッバイ」は、そんな感傷を一蹴するパワーがあるし、多くの人に勇気を与える1曲になるだろう。