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INTERVIEW

Japanese

brainchild's

2022年09月号掲載

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Member:菊地 英昭(Gt/Vo) 渡會 将士(Vo) 神田 雄一朗(Ba) 岩中 英明(Dr) MAL(Key)

Interviewer:石角 友香

『STAY ALIVE』以来、約4年ぶりとなるアルバム『coordinate SIX』を完成させたbrainchild's。菊地英昭(THE YELLOW MONKEY)のソロ・プロジェクトという定義をいい意味でとっくにぶち壊し、渡會将士(FoZZtone)、神田雄一朗(鶴)、岩中英明(Uniolla/MARSBERG SUBWAY SYSTEM)、MALのセンスが誰も譲らず、それでいてロック・バンドの醍醐味とグルーヴを醸成。渡會の押韻を大事にしたラッパー真っ青な楽しいヴォーカルの牽引力、クールネスや色気が内蔵されている菊地のコードワークやフレージングを軸に、同時代のどのバンドにも似ていない不思議な新しさを放つ。先入観抜きであらゆる音楽好きに一度は聴いてほしい。新しさのヒントはインタビューの端々にも!


曲を作るときのギターの使い方が韻を踏むのに近いかもしれない


-5人体制、第7期のアルバムが完成ということで、ついにという感じはありますか?

菊地:本当は2020年ぐらいには出したかったんですけども、コロナで流れてしまって。なので、やっとのアルバムっていうのはそうですね。

神田:録ってた時期が結構長いですよね。2年ぐらい。一番古いやつは2年前に録ってるってことになるので。

菊地:「Set you a/n」とか「Brainy」とか同じぐらいに録ってるもんね。

岩中:ようやくパッケージしてひと塊になったなっていう感じですよね。

神田:だから、俺とわっち(渡會)は30代40代にまたがった作品。

渡會:そうだよね。そういうことだ。

-今回非常にタフな姿勢が現れた作品になったのかなと思ったんですけど。制作期間が長かったこともあると思うんですが、この2年ってコロナ禍だったので、みなさんどういうマインドでアルバムに向かっていらっしゃったのかなと。

菊地:時間はかかってしまったし、このコロナで嫌な部分もすごくたくさんありましたが、逆にちょっと鍛えられた部分がありまして。これは音にちゃんと出せてるかなって思いますね。時期的にはそれぞれみんなね、コロナ禍でもいろいろソロでもやってたりバンドやってたりするんで。brainchild'sはbrainchild'sで、見つめ直すっていうか、温め直す時間もできたって言えばできたし。タフなうえに密度が濃くなったかなって思います。

-EMMA(菊地)さんはTHE YELLOW MONKEYの活動も規模がすごく大きかったですし。並行して作るときに、制作のマインドってどういうふうに棲み分けていらっしゃいましたか。

菊地:それは別モードがちゃんと自分の中にあるっていうのもありますし、逆に隔たりを持ってないところもあって。曲を作るときは、よっぽどのことがない限り、どっちにどれを使うとかそういうイメージをしないで作り出すので、そこは大丈夫でしたね。コロナはやっぱ結構大きくて、ライヴができないとかそういう壁があったので、マインドのコントロールがその時々でありましたけども。みんなどうでした?

神田:俺は鶴ってバンドをやってて、コロナ禍になる前からずっとそうだったんですけど、自分のバンドでやってることを、brainchild'sのほうにもうまいことアイディアとかも含めて反映させたいなぁっていうのもあり、逆にこっち(brainchild's)でやって"あっ! これは"って発見があったときに自分の場に持って帰って、そのやりとりからプラスがいっぱい生まれるなって、いい印象でやってたので。コロナ禍になってから制作がどんどん伸びて、ずいぶん前に作った曲を演奏したのはあるんですけど、今言ったお互いにアイディア出し合ってじゃないですが、相乗効果みたいなのは変わらず感じられたなぁっていうイメージですね。

-具体的に制作のスタイルに変化はあったんでしょうか。

菊地:brainchild'sでは特にはないか。ただ「Big statue ver.2」とかは時間が逆にあったこともあって、録り直したし。そういう時間が生まれたことによって、ちょっと変わったレコーディングになったところはありましたね。

渡會:逆にプリプロって聞いてて、本番じゃないと思ってやったのに、録ったら"これでいいんじゃないですか"みたいなことも数曲あるよね(笑)?

菊地:でも、もちろんちゃんと録りもしました(笑)。

-具体的にファースト・テイク的なものが良かった曲ってどれなんですか?

渡會:「FIX ALL」。

-なるほどねぇ。

菊地:あと「Set you a/n」とか「Brainy」とかは、レコーディングし始めたときはまだMALが入ってなかったんで。そのあとにアレンジをし直してMALに参加してもらった形は今回ありましたね。

-MALさんにおうかがいします。この5人での活動もだいぶ経ちますが、今回のレコーディングに関して、キーボーディストとして何か意識していらっしゃったことはありますか?

MAL:キーボーディストしてというよりも、brainchild'sに会ってから年数は結構経つんですが、アルバムを制作したことがなくて。今回が初めてのアルバム制作だったので、常に新鮮な気持ちで取り組めたかなっていうのがあります。あと時間がすごくあると何かを作る人って、"あっちもいいんじゃないか、こっちもいいんじゃないか"ってどんどんアイディアが膨らんでいくと思うんです。そういうときはやっぱりファースト・テイクが一番良かったよねっていう話になりがちだったりするんですけど、今回のアルバム全曲通して時間がかかっていようがパッとできた曲であろうが、すべて一番の完成形まで辿り着いているんじゃないかなと個人的には感じます。

-そのMALさんのキーボードも印象的なんですけど、アルバム・バージョンの「Brave new world」がなかなかの大曲で、イントロからしてSF映画みたいです。これは渡會さんの歌詞世界だと思うんですが、ディストピア映画の消化の仕方がちょっと違いますよね。

渡會:そうですね。コロナ禍の中で歌詞を全部書いてるんで、世の中がヤバい状態だっていうのは隠さずに言葉にしたいなと思ったんですけど、その中にもちゃんとユーモアが必要だなと思ったし。あと政治批判とか、ちょっとオラついた反社会的な発言とか、そういうものを歌の中に書くにあたって、それが下品に、失言にならないようにめちゃくちゃ意識したときに、そういうのの先駆者としてやってるラッパーの方たちがなんで韻を踏むのかっていうのに、制作しながらすげぇ納得して。たとえ相手をディスってても、韻を踏んでるとクレヴァーに見えるし、聴こえるんですよね。なので韻をとにかく丁寧に丁寧にきれいに踏むっていうことを今回心掛けて、それだけじゃなくて、さらに「Brave new world」とかは"わ、懐かしいなぁ"みたいな映画ネタとかを放り込んでみるのをすごく楽しんでやれました。

-ジョージ・オーウェル(小説"1984"の著者)とかは鉄板ネタではあるんですけど、でもこういう消化の仕方は聞いたことないですね。

渡會:(笑)たしかにそうですね。これは自分が子供のときから振り返ってみると、現在ってなんかディストピア小説みたいな世の中だなぁと思って。未知のウイルスは蔓延してるし、戦争してるし、政府が宗教と結びついてヤバいことになってるしみたいなヤバいことだらけで、"あれ? ジョージ・オーウェルの小説ってこんなんじゃなかったっけ?"と本当に思ったので、あのディストピアって今まさに現在のことだなぁみたいな。それをちょっと皮肉った部分もあるので、不思議な角度にはなってるのかなと思います。

-それを嘆いてるわけでもないし、おっしゃったように韻を踏むことによってユーモアが出てたりするのかもしれないですよね。ラップのイメージで言うと「Big statue ver.2」のサビもラップのイメージがありました。

渡會:そうですね。これもロシアとウクライナのことをきっかけに歌詞を作ったんで。単純に戦争に対する批判とかはうっすらと込めたいなぁというので、ヒップホップっぽい感じになっちゃったのかなぁって気がしますね。

-そういうフロウがあるけど、韻を踏んでることによって、あんまりクソ真面目に取られないみたいなところがあるんですかね?

渡會:それもあると思いますし、今回EMMAさんの曲のモチーフみたいなものが全部しっかりあるなぁって気がして。作法として、この曲はフライングVを使う、この曲はハムバッカーでもこっちを使って、とかそういうのも音楽的に韻なのかなって気がしたんです。

菊地:そうかもね。

渡會:作法を踏んでいくみたいな。

菊地:曲を作るときのギターの使い方が韻を踏むのに近いかもしれないですね。

-高度な話になってるから、ピックアップの違いがどう韻を踏むことになるのか、もうちょっと詳しく聞いてみたいんですけど。

渡會:それこそその「Brave new world」は、EMMAさんがフライングVだったらこういうフレーズっていうことから作り始めたんですよね?

菊地:「Brave new world」とかはフライングVを持ったときにできあがった曲で。そのギターを持ったらこういう感じのフレーズを弾きたいなぁというのが自分の中にあるんです。たまたまそれがフライングVだったからあのリフができたとかいう感じで、最後のスライド・ギターとかもそうです。それって曲やフレーズに対しての韻と似てるのかもしれないですね。音質やフレーズの肌触りっていうと言い方が雑だけど、弾き方の感触とか、ポジショニングが違うんですよ。

渡會:ドラムで言ったらこの曲だったらこういうフィルを入れるのがスタンダードだよね、みたいな。自分が今まで聴いてた音楽、オールディーズに対して韻を踏むような、オマージュでもいいと思うんですけど、そういうのを今回のアルバムに勝手に感じてる部分があって。そのスライド・ギターとかも、「Layla」(DEREK & THE DOMINOS)のエンディングのほうですごくバラードっぽくなるじゃないですか。そういうのも俺は勝手にイメージとして浮かんできて。韻を踏むというか、映像が喚起されるというか。そういうのがイメージできるものが結構多いアルバムだったな。

-かっちり曲が決まってて、このメロディ・ラインに......まぁ渡會さんの作り方ってそうじゃないと思うんですけど。渡會さんはどっちかっていうと力業で(歌詞を)乗せていくじゃないですか?

一同:(笑)

-あんまり他のバンドではできないことではあるなと思いましたけどね。

渡會:そうですね。

-それにしたって本当に今にジャストな内容のものが多くて。重たいわけじゃないんですけど、なかなかな大作ですね。

菊地:もちろんこのコロナ禍なんで、自分でも、わっちが作ってくれる歌詞に準じてるというか、応じているものもありますし、例えばそれが言葉に出てなくてもやっぱ影ではそのムードがずっと流れているというか。自分が書いた歌詞もそうですし、直接的な言葉を使わなくても、常にコロナっていうのは今の共通用語みたいな感じで、どっかに潜んでるみたいな感じはあるので。どの曲をやってもたぶんその重厚感とか、拭いきれない重さっていうのは(笑)出てくると思います。ただ自分はそれがあるからこそ逆に今回はちょっとカラフルにしたいなと考えてて。80年代~90年代の日本がバブルだったりしたときにあった、なんでもあり的なやんちゃな感じとかああいうカラフルさ、バイタリティの強さっつーのをちょっと散りばめたいなってアルバムで思ったんで、いい感じで重たさと釣り合いをとって存在しているのかなと感じますね。

-すごく濃密だった時代を現在のイシューで歌うっていうか。

渡會:そうですね。

-それゆえに不思議でもあるんですよ。これだけアイディアが濃密な曲はなかなかないですよね。

菊地:ありがとうございます。最高の褒め言葉です。

-で、今までとちょっとグルーヴの質感が違う強力な曲が多くて。「Black hole eyed lady」とかも。この曲はどこからできたんですか?

菊地:めちゃくちゃ手癖で作っちゃってる(笑)。

-そこからの発展がきっとすごいんでしょうね。

菊地:あのコードの転調も手癖っつーか、響きだけでバン! って作っちゃって。自分の中では「FIX ALL」と同じで、手癖一発で作っちゃうぐらいの曲だったので、まさかこれが配信シングルになると思ってなかったです。

渡會:それでも俺には手癖感が勝手に伝わってましたね。

神田:EMMAさんの手癖っぽーいって。だからか俺もう最初聴いたときから"あ、この曲は好き"と思いましたね。EMMAさんの手癖が好きなので。

菊地:告白だ(笑)。