Japanese
kobore
2022年03月号掲載
Member:佐藤 赳(Gt/Vo) 田中 そら(Ba)
Interviewer:秦 理絵
別に方向転換じゃなくて、やりたいことが増えたんだなって。 それに気づけただけでバンドをやってて良かったなと思いますね
-以前、『音楽の行方』(2019年リリースの1st EP)のインタビューをしたときに、赳さんに"誰のために歌っているのか?"って聞いたら、迷いなく"自分のためだ"と言ってんです。覚えてますか?
佐藤:あ、すみません。覚えてないです(笑)。でもまぁ......丸くなったんじゃないですかね。その意味も込めて、"Tender"なのかな。
-(笑)今は自分の変化をどう受け止めていますか?
佐藤:そんなに気にしてないですね。今も昔も聴いてもらって、やっぱりkoboreだよなってなってくれるのが一番だと思うんです。ちゃんとその瞬間その瞬間で、今の気持ちが歌えてて、それを聴いてもらえたらいいので。そういうところが変わってしまうのはしょうがないな、とも思いますから。変わりたくないわけじゃないですし。
田中:僕らは一緒にいる時間が多すぎるから、赳の変化は読み取りづらいんですけど。それが、結局、どう変わってるかを表してるのが楽曲なんですよね。それこそ『風景になって』と、今回の『Purple』を聴き比べると、違うバンドのヴォーカルが歌ってるんじゃないかっていうぐらい歌詞が違うんですよ。
佐藤:(笑)
田中:今までは全部前のめりだったし、すごくストレートで感情的で、理論的とか理屈じゃないところの良さがあったと思うんです。全部ライヴがイメージできたし。逆に今回はライヴのイメージができない曲もありますから。
-そういう方向にバンドがナチュラルにシフトしていくなら、その変化に抗わずに作ったのが今回のアルバムということですよね。
田中:そうです。自分の好きだったバンドがアルバムを出すごとに変わっていった気持ちを、今自分がバンドをやることで気づくっていうのはありますよね。僕の好きなバンドはパンク・ロック・バンド(毛皮のマリーズ)だったんですけど、(メジャー・デビューの)次に出したアルバム(『ティン・パン・アレイ』)がオーケストラだったんですよ。それがめちゃくちゃショックで。僕の好きな4人がいなくなったって。でも、やっぱり最高なんです。最初は受け入れられなかったんですけど、いい曲はいい曲でしかない。今ではそれがそのバンドの一番好きなアルバムなんですね。そういう方向転換を今自分がまさに経験しているというか。それは別に方向転換じゃなくて、やりたいことが増えたんだなって。それに気づけただけでバンドをやってて良かったなと思いますね。
-なるほど。さっきそらさんも言ってましたけど、今回のアルバムは、緻密なサウンド・プロダクションから生まれた楽曲なんだろうなというのが、一聴してわかりますね。
田中:緻密でしたね、すべてが。前EP『Orange』(2021年6月リリース)から、制作のやり方を変えたんですよ。より細かく詰めていくように。今まではお互いに干渉しないのがうちのやり方だったんですよね。それぞれがそれぞれの仕事をしてた。でも、『Orange』からはお互いに意見を言い合うようにして。"そらのベースが微妙だから、こうしよう"って意見を貰ったり、逆に意見を言ったり。それでより楽曲を理解するきっかけになったんです。
-『Orange』でそういう作り方にしたのはどうしてだったんですか?
田中:そこはコロナがきっかけでしたね。空いた時間で音楽の深さを知って。今の自分たちは全然足りないと思ってしまったんです。いつまでもスタジオで、ノリで作る感じじゃやっていけるわけがない。いつか限界がくるし、成長もないなって。それがきっかけです。
佐藤:ま、俺は自分がいい曲を書ければ、そこからの作り方もクソもないとは思ってるんですよ。だから"いい曲を作る"という意思は変わらない。あとは、それぞれが話し合って、こういうフレーズを持ってきたよっていう感じだったので。こうやって作り方が変わっていくことは、僕はいいことなのかな、と思ってますね。
-中でも、アルバムの幕開けになる「ジェリーフィッシュ」は、打ち込みのクラップを取り入れた昂揚感のあるキャッチーな楽曲になっていますね。
佐藤:これはデモの段階でタンバリンとかクラップを入れてみたんです。いきなりデモを送りつけたから、メンバーは"なんか鳴ってるじゃん"みたいな感じだったみたいで。
田中:僕はそういうのをやりたい派だったんですよ。僕らは4人組バンドなので、4人だけで音を作る美学みたいなのも、もちろんありますけど。やっぱり曲を作ってると、欲しい音は増えてくるんですよね。だったら音楽に変な制限を設けなくてもいいと思うので。まぁ、どちらかというと、他のふたりはびっくりしてましたけどね。克起(伊藤克起/Dr)とかは"え、俺、タンバリンを買えってこと?"とか言ってましたし(笑)。
-それこそ、また昔のインタビューの話を掘り返しちゃうんだけど、『音楽の行方』の頃は"他の音が鳴ってるなんて考えられない"って言ってましたもんね。
佐藤:あ、そうですよね。あのときの俺だったら、この曲を作ったときにタンバリンは鳴ってないんです。でも、今の俺にはタンバリンが聴こえる。クラップが聴こえる。あのときに聴こえなかった音が今になって聴こえるようになるのは、作曲と向き合える時間が多かったゆえに、すごく成長できたからだと思うんです。
-ええ。
佐藤:最近、昔作った曲をアレンジし直したいなと思うんですよ。リミックスするとか、あのとき聴こえなかった音を入れてみたいなと考えるときもありますけど。それはそれで、あのときの良さなので。その瞬間にしか歌えないものを詰め込むということだと思いますし。それはそれとして新しいものにチャレンジしていけるのがいいな、と思います。
-そらさんは「ジェリーフィッシュ」の仕上がりに関してはどう思いますか?
田中:俺らっぽくないっていうのが本音ですよね。クラップもだし、安藤(太一)のギターのフレーズも今までのkoboreでは想像できない。だから、アルバムの1曲目にしたのは結果的に良かったなと思います。この1曲目を聴いてもらうことで、このアルバムが、どういうアルバムになるのかというのを一番早くわかってもらえるかなって。
-歌詞は海月(くらげ)がモチーフですけど、どんなふうに膨らませていったんですか?
佐藤:これを作ろうと思ったきっかけはテレビで漢字クイズを観てたことなんですよ。海に月と書いて、なんて読む? っていうのがあって。"くらげ"って読むんだと知ったんです。海に映る月がゆらゆらしててくらげに見える、みたいなイメージなのかなと思ったんですね。で、これでちょっといい歌詞を書けそうだなって。それと眠れない夜をリンクさせたら、koboreっぽくなるんじゃないかなと思ったんです。
-「ジェリーフィッシュ」に続く、「キュートアグレッション」もまた新しいというか、ポップでロックで、なんだかかわいらしい曲なんですよね。
佐藤:ちょっとかわいい曲ですね。
-"大体僕は君のことなんて/好きじゃないけど この想いはどこから来るの?"とか。すっごいピュア(笑)。
佐藤:この曲は『音楽の行方』ぐらいの俺だったら、このオケに対してめちゃくちゃ汗臭い歌詞をたぶんつけてたと思うんですよ。でも、なんかかわいい歌詞ができちゃって。
田中:これも序盤にデモを貰った気がするんですけど、最初の印象は"早ぇ曲だなぁ"ぐらいでしたね。そこから、赳以外の3人でスタジオに入ることが多いんですけど、そのときに、ただ演奏をさらっと終わらせないようにしようって話し合って。今までのkoboreでやらないようなユニゾンをやってみたんです。ギターがこれを弾くから、ベースも同じことをしてって。そういう話し合いができたのがデカかったですね。
-さっきは"ライヴが想像しづらい"とも言ってたけど、実は「キュートアグレッション」とか「MARS」、「Fly」とか、前半はノリのいい曲が多いですよね。ダンサブルで。
田中:あぁ、言われてみるとそうかも。踊れるビートが多いのかな。それはドラムの克起が担ってる部分が多いのかもしれないです。赳と同じように、克起にも好きな音楽の流行りみたいなのがあって、今は完全にダンス系なんですよ。ダンシング・マンです(笑)。
-それで四つ打ちの曲が多いんですね。
田中:うん、今まではこういう曲もあんまりなかったですよね。
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