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INTERVIEW

Japanese

a flood of circle

2020年10月号掲載

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Member:佐々木 亮介(Vo/Gt)

Interviewer:秦 理絵

-逆に今までHISAYOさんの女性コーラスを生かさなかったのはこだわりがあったんですか?

姐さんの心境の変化はあったと思います。昔だったらコーラスは絶対に嫌がってたと思うんですよ。(アーティスト写真を指さしながら)こういうふうに髪をウェーブさせるのとか、"サングラスかけろ"とか言われても、やらなかったと思うんです。彼女は自分がメインのバンド(tokyo pinsalocks)もあるから、"フラッド(a flood of circle)をやるときには、モードを決めてないとできない"っていうことも言ってて。今もそういう美学はあるけど、だんだんフラッドにおける姐さんのキャラクターのキャパも大きくなってる気がしますね。

-例えば、「人工衛星のブルース」の佐々木さんのコーラスもきれいだし、今回は声の聴かせ方が多彩なぶん、いろいろな表情が出ましたよね。そこは意識してますか?

俺、コーラスは大好きなんですよ。ゴスペルも好きだし。っていうのもあって、このアルバムではコーラスをたくさん入れてるんです。意外とフラッドはみんな歌えるから、それも武器だなと思って。曲を作るときから、今回はメンバーにたくさん歌ってもらうって決めてたんです。しかも、全部アレンジが終わってからだと、歌いながら弾けないフレーズを入れちゃうから、"歌いながら弾けないフレーズは弾かないで"って言ってました。そういう意味では、ライヴやる気満々なアルバムなんですよ。

-「天使の歌が聴こえる」は、音楽への想いみたいなものが歌詞のテーマですよね。

あぁ、そうですね。

-今回のアルバムはそういう曲が多いですよね。歌の中で、音楽のこと、あるいは歌への想いをストレートに歌ってたり、"フラッドのロックンロールはこういうものだ"みたいなことも歌われていたりして。そういうものを再定義したい気持ちはあったんですか?

それはかなりおっしゃるとおりで。曲作りって、人生のいろいろなシーンで感じることがあって、それにメロディをつけるっていう順序が一番素直だと思うんですよ。よく言うんですけど、星空について歌ってる曲を聴いて、それに感動して、星空の歌を書いてもしょうがない。だったら、星空を見て書いたほうがいいじゃないですか。歌のことを歌にするって、結構それに近い気がして微妙だなって思ったときもあったんです。でも、もう14年間、音楽をやってきて、ソロもやってくると、音楽そのものを歌うことのほうが、むしろ自然に思えてきてっていうのはあるかもしれないです。

-「Rollers Anthem」もそういうことですよね。"今がスタートライン"みたいなことって、もう何十回も歌ってきたことだけど、改めて"自分たちはこういうことを歌うバンドなんだ"って宣言するような曲で。

"まだ言ってるの?"って感じですよね(笑)。最近、それでいいなって思ってるところはあるかもしれないですね。RAMONESでもスピッツでもいいんですけど、ひとつのスタイルがあることがかっこいいじゃないですか。"ローラー"とか"ロール"っていう単語なんて、何回使ってきた? っていう感じだけど、そこはもう無理にバリエーションを出さなくていいやっていう気持ちで、今回は作りましたね。

-しかも、サウンド面でもフラッドの王道ですからね。

そうですね。『a flood of circle』まではイギリス人のエンジニアを呼んでやって、前作の『CENTER OF THE EARTH』から、また池内(亮)さんと一緒に作り始めたので。池内さんとやることで、"フラッドの音はこういう感じだ"って見えるものがあるんですよ。このアルバムを録ってる最中に、ちょうど9mm Parabellum Bulletの「Black Market Blues」をカバーして、トリビュートに入れたんですけど。それが、あんまりアレンジをしないでストレートにカバーしたぶん、演奏でキャラを出すしかなくて、自然とフラッドっぽい感じになったんです。それと同じ時期にスタジオで録ったものだから、「Rollers Anthem」は今の自分たちはこういう感じなんだなっていうものになりましたね。

-エンジニアの話で言うと、池内さんに加えて、柏井日向さんも参加していて。とても爽やかな歌モノ・ギター・ロック「Super Star」と、思いっきり暴れまわるマイナー調のライヴ・アンセム「Beast Mode」っていう、まったく違う2曲なのが面白かったです。

「Super Star」は、これと同じようなテンポの曲があって悩んでたんですけど、テツが"スーパー・スター"っていう言葉がいいって言ってて。それぐらいの理由で選んだんですよ。先に「Super Star」のほうを、柏井さんとやるって決めてたから、テンポもキーも全然違うものでトライしてみたかったんですよね。柏井さんとは、昔、「I LOVE YOU」(2011年リリース)をやってもらって以来だったんですけど、9年間の時を経て再会したのが嬉しくて、お互いややエモめな感じで曲に臨みました。

-12曲の枠で言うと、佐々木さん的に「Super Star」はどういう役割の曲ですか?

そうだなぁ......この先も毎年アルバムを出すだろうって考えたときに、今フラッドには全部で150曲ぐらいあるから、普通に考えて、新譜を出すたびにライヴでやらない曲が増えていくんです。どの曲も長くライヴで生き残ってほしいから、それが切ないんですけど。たぶん「Super Star」は、一番長く生き残る曲だと思ってて。

-それは、どういう意味で?

言葉が強い曲のほうが残るかもしれないっていう予感ですよね。「Honey Moon Song」(2017年リリースの7thアルバム『NEW TRIBE』収録曲)みたいな曲になるんじゃないかなって。

-ソングライターとして、"みんなが歌える名曲を作る"っていうのは、ずっと佐々木さんが取り組み続けてることではありますね。

毎回、そんなことを考えるわけじゃないんですけどね。この曲は、歌を入れたときに自信があったんですよ。俺らは、それこそスピッツじゃないから、みんなが求めてる「空も飛べるはず」みたいな曲はないじゃないですか。だから、何万人がいる場所に行ったときに"何を歌おう?"みたいなことは思うんです。遠くの端っこにいる人まで、何かぐっとくるものを届けたい。「Super Star」は、それができる曲だと思うんですよね。

-わかります。今回のアルバムを聴かせてもらって、佐々木さんのソングライティングに関して、3つ聞きたいことがあるんです。ひとつ目が、さっき話に出た"歌そのものを歌っていること"についてだったんですけど。ふたつ目が"視野の広さ"なんですね。

あー、なるほど。

-例えば、「ヴァイタル・サインズ」には、いつか人は死ぬっていう死生観が表れていたり、「火の鳥」には命の連鎖の過程に今の自分がいるっていう長い時間軸で歌われていたり。同時に「Free Fall & Free For All」とか「人工衛星のブルース」みたいに、宇宙から地球を俯瞰するような空間的な広さもあって。

たしかに、それはあるかも。最近思うんですけど、仕事に追われてたり、今目の前にあることに忙殺されていたりするときって、感覚が麻痺して、いろいろなことを感じにくくなるなと思うんですよ。ここに火星人が現れても感動しない......というか、できないと思うんです。

-ええ、わかる気がします(笑)。

もうちょっと言うと、目の前で誰かが傷ついてたり、すげぇ嫌なことが起こったりしても気づかなくなるって怖いことだと思うんです。未知のものに驚く余裕がなくなるって、心が死んじゃうってことですよね。そうすると、どこか遠くの国で戦争が起こっても、自分に関係ないものに感じちゃうというか。だから、幅広くと言うより、両極端な目線は持っていたいと思うんです。あんまり俯瞰でいすぎると、"頭がお花畑だ"って言われるし、あんまり狭いことを言ってると、小っちぇえやつだなってなるから、バランスはとるんですけど。そこは忘れたくないんですよね。

-そういう視点の大切さを感じたのも、コロナは関係ないんですよね?

例えば、令和になったときに、"平成の時代は戦争がなかった"って言われてるのを見て、俺は、"いや、あっただろ"って思っちゃったんですよ。

-世界を見渡せば、たくさん戦争がありましたからね。

そうなると、"どこまで同じ人間だと思ってるんだ?"っていう話になってきちゃうし。ちょっと哲学めいてくるけど、それは素直に思ってることなんです。小っちゃい恋愛の曲もあるし、バンドの曲もあるけど、根本のテーマに間違いなくそれがありますよね。

-その両極端な視点はポップスを生み出すうえで必要な感覚だと思います。

うん。そういうバラバラの視点を繋いでくれるのが歌だと思うんです。そういう視野があれば、シカゴに行っても、イギリスに行っても、ちゃんと会話ができるんですよ。そういうときに、やっぱり音楽は最強だなと思いますしね。

-で、もうひとつ。今作のソングライティングのテーマとして気になったのが"欲望"です。「欲望ソング(WANNA WANNA)」がわかりやすいんですけど......。

そのまんまですね(笑)。

-「Beast Mode」とか、「Whisky Pool」もそうかな。"やりたければ、やっちゃえ"みたいな。今回、本能を剥き出しにして欲望を追い求める曲が多いのは、なぜでしょう?

ライヴのときに、関係者の挨拶があるじゃないですか。

-終演後にメンバーと話をさせてもらって、感想を伝えたりしますね。

そういうとき、俺、"まだやりたいことばっかりなんですよね"みたいなことを無意識で言ってるんですよ。自分でも、"また言ってるな"って思うときがあって。それが、THE KEBABSとかにも表れてると思うんですけど。今、アメリカのミュージシャンと会えないから、"オンラインで何かやろう"っていう会話もしてるし、いっぱいお金を集めて、スタジオを立てたいなとか、自社ビルを作りたいなとか思ってて。

-はははは、欲が尽きない。

やりたいことは大小あるけど、それが大事だなと思うんです。あと、メンバーもそうだし、誰かを大事にしたいみたいなことも欲望ですよね。やりたいことがないやつって、何もできないと思うんですよ。このあいだ、Twitterで、TYLER, THE CREATORが、"インスピレーションを浴びないやつと一緒にいても、お互いのためにならないから、一緒にいないほうがいい"ってボソッと呟いてて。かなり厳しい言葉だけど、めっちゃわかるなと思ったんです。真実だよなって。

-クリエイティヴの原点は、欲望であると。

そう、だから自分の欲望はちゃんと心の中に留めておきたいなと思います。人間は気持ち良くなるために生きてますからね(笑)。いろいろな欲望をいい感じに満たすために、頑張って金を稼ぐじゃないですか。そういうことは、意外と言葉になってないと思うんですよ。自分の周りにいるかっこいいミュージシャンを見てたら、意外と気持ちいいことに忠実なんです。むしろ、そういう人が稼いでるし、みんなを惹きつけてるし。あ、こうやって生きていいんだって思う。変につまらないことを考えて小さくなってるより、ガンガンやりたいことをやって、発表するほうがいいんじゃないかって思いますね。