Japanese
PEDRO
2020年09月号掲載
BiSHのアユニ・Dによるソロ・バンド・プロジェクト PEDROの音楽は、いつだって彼女の等身大であり、その時点での彼女を写したスナップショットだ。そういう意味では、かつては鬱々としていた彼女から"人生は意外と浪漫的なんだ"、"人生よ、ロマンチックであれ"なんて言葉が出てきたことが非常に感慨深い。"現在地点のアユニ・D"が詰まった2ndフル・アルバム『浪漫』について、そして作品を送り出すたびに広い世界と出会い、自身の世界を拡張し、自己を開放していくアユニ自身に迫った。
-自粛期間もBiSHやPEDROの制作で忙しかったと思いますが、そんななかでもギターなど新たなチャレンジをしていたようですね。
ありがたいことにBiSHを始めてから今までずっと怒濤の日々を送らせていただいていたので、やりたいけどやる時間がなかったものとか、やりたいけど技術が全然追いついていないこととかたくさんあって。そういうものにわりと没頭できた自粛期間でした。それプラス人間としての生活――今までは明日のことを考えながらご飯を食べていて、全然味がしない、ただ喉を通ってるだけみたいな感じだったんです。でも、そういうこともなくご飯を食べられて、寝る時間を大切にできて、人間としての生活がちゃんとできてたんじゃないかなって。逆に24時間じゃ足りないと思えるくらい、いろいろとやりたいことが増えたりもしました。
-味がしない......少しは休めたんですね。
でも"休んでいいのか?"とか、"意味のあることだけをしていないとダメなんじゃないか?"とか、そういう恐怖感みたいな焦りもずっとありましたね。
-やりたかったけどできていなかったものとして、ギター以外にどんなことをしていたんですか?
DTMを使った作曲とかですね。あとは趣味の本とか映画でも、自分の触れてこなかったジャンルに積極的に触れていきました。
-DTMでの作曲活動は、たしか年始くらいからやってましたよね。
今も全然まだまだですけど、半年前だとコード進行もわからない、スケールとかもわからない、ただ自分が入れたい音を入れ込む感じだったんです。今はやっとそういうところを理解しつつやっています。
-目指す先には、PEDROでの作編曲があると思うんですけど、PEDROの作品として思い描いているものは出てきていますか?
いっぱいありますね。それこそフル・アルバムの全曲を自分で作れたら絶対に面白いなって思います。BiSHではアイナ(アイナ・ジ・エンド)ちゃんが作曲した曲(BiSH「リズム」)があって、たぶん世に出す予定はなかった曲なんですけど、遊び心でBiSH全員の歌を入れてみたりしていたので、そういうのがあってもいいのかなと。
-今回の2ndアルバム『浪漫』の制作時点でも、学んでいった作曲知識や音楽知識は作品に反映していったんですか?
今回はアルバムの中で2曲を作曲したんですけど、それ以外の曲とかも制作していくなかで、もっとギターはこうしたい、ドラムは、ベースは――って、どんどん変えていったりはしましたね。
-『衝動人間倶楽部』(2020年4月リリースの1st EP)では、衝動的に作ることがそのときのアユニさんのモードだったと思うんですけど、今回の『浪漫』ではどうでした?
作曲したのが半年前とか今年の1月、2月とかだったので、まだ全然知識がある状態で作ってたわけではないのもあって、初期衝動みたいなものはずっとPEDROについているものだと思うんです。ただ、今回は"浪漫"という言葉が全曲一貫しているっていうのはありますね。
-ということは、アルバムのテーマとしてはタイトル通りの"浪漫"ですか?
タイトルはアルバムがほぼ完成してから付けたんです。なので最初から"浪漫"をテーマにしていたわけではなくて、今の自分が全部出ている言葉として"浪漫"が一番しっくりくるなと思って。
-"浪漫"という言葉の持つ意味を改めて調べたら、意外といろんな意味があるんですよね。"ロマンス"、"小説、特に長編小説"、"夢や冒険などに強い憧れを持ったりして、感情的、理想的に物事を捉えること"という感じで。
自分がBiSHとPEDROをやることで、ここ数年でようやく物心がついて音楽が大好きになったんです。いろんな物事を捉える気持ちや力が、以前の自分より全然変わっていて。人生がすごく楽しい、面白いと思えるようになったのが、自分的には革命的なことだったので、"人生は意外と浪漫的なんだ"という衝撃と"人生よ、ロマンチックであれ"という願望。理想的とか幻想的っていう意味も込めて、"人生は不条理で溢れてるけど、意外とロマンチックなんだよ"ということを今一番伝えたいんだなと思って、"浪漫"にしましたね。
-"人生よ、ロマンチックであれ"なんて、過去のアユニさんからはとてもじゃないけど出てこない気がしますね。作品からは"日常と、その連なりである人生でふと感じる幸せ"みたいなものが"浪漫"なのかなっていう印象を受けましたけど、アユニさんが実際に感じたことが表現されているのか、そうあってほしいという想いから生まれた物語なのか、どちらでしょうか?
どっちもありますね。今までは自分のこと、自分の感情でしか言葉を書けなくて、1stアルバム(2019年リリースの『THUMB SUCKER』)なんて本当に自分の名刺みたいな、鬱々しい曲しか書けなかったりしたんです。だけど、PEDROを始めていろんな日本のバンドも聴くようになって、いろんな歌詞の書き方があるんだっていうことに気づいて。それから"私もいろんな書き方をしたいな"とか、"ひねくれた書き方しかできないのが嫌だな"とか思うようになりました。心情描写というか、心の中のことしか今までは書けなかったんですけど、風景描写とか、ひとつの小説みたいな物語、空想の物語に浸って書くとか、創造性みたいなものが自分の中で大きくなってきて。自分の日常とか人生があるからこそ書けるっていうのもやっぱりあるんですけど、創造性で書いたものは結構あるなって思います。
-ここからは収録曲について。アルバムの冒頭には8月12日にリリースしたシングル表題曲「来ないでワールドエンド」が収録されています。イントロからガレージ、オルタナを軸にした"THE PEDROサウンド"が炸裂してますね。
『衝動人間倶楽部』のときはめちゃくちゃガレージなものにしたい、それこそ車庫でレコーディングしたいくらいの勢いでガレージなものを作りたかったんですけど、「来ないでワールドエンド」はそのときに作ったので、PEDROとしての印象が大きい、ガレージっぽいサウンドですね。ベース・ラインも、私が弾いていて一番興奮する直線的なベース・ラインだったりして、疾走感のあるすごくカッコいい曲だなと思うんですけど、今聴き直すと"こんな歌詞、今の自分では書けない"みたいな、数ヶ月前のことでも、あのときの自分にしか書けなかったなと思う曲でもあります。
-その"こんな歌詞、今の自分では書けない"って、どういう部分から感じますか?
自分でひとつの小説を作るとして、今回は"人生は意外と浪漫的である"ということを象徴させたかったので、わりと現実的なお話を書いていたんです。だけど、「来ないでワールドエンド」ではガッツリ非現実的なお話というか、漫画みたいな、ちょっと飛んだ発想で書いていたので、そこはすごく違うかなと思います。『衝動人間倶楽部』のときは、宮崎夏次系さんの漫画に影響を受けていたこともあって、「来ないでワールドエンド」も2次元チックなお話になってますね。
-"生きている意味を探す旅"みたいな印象の曲でしたけど、そういう意味ではアユニさん自身が感じてたことではなく、空想して書いていったんですね。
あぁー。でも、書いていたのは自分なので、自分の心の土台は自然と反映されてるのかと思います。
-なるほど。「来ないでワールドエンド」で生きる意味を探して、その答えが見え始めての2曲目以降の曲、みたいな印象だったんですよ。
それはあるかもしれません。意識的ではないんですけど、生きている面白さを見つけていくなかで自然と変わっていったものが出ているんだと思います。
-そんな「来ないでワールドエンド」に続くのが「pistol in my hand」ですね。
私がPEDROで一番やりたいのは、理解不能、意味不明なギターが鳴り響いて、ドラムも反響しすぎてて、とりあえずベースで支えてる、みたいな尖りすぎたサウンドなので、そういう曲です。決して聴き心地は良くないというか、子守唄になるかって言われたら全然そんなことはないんですけど、ただやりたいからやってるタイプのサウンドではあると思います。自分が好きなことに出会ったりとかして、簡単に言えばポジティヴになってる部分もあるんですけど、自分の中で削り取れない反骨精神というのはずっとあって。そういう部分が出ているように感じますね。
-サビが英語詞になっていますけど、今までのPEDROの曲にはなかったですよね。やはりPEDROをやっていくなかで洋楽をどんどん聴くようになった影響からですか?
完全にそうですね。わりと残酷な歌詞なんですけど、英語にすることによって、日本人の耳には意味として入ってくるより、音として入ってくるんじゃないかなと思って。声についても歪ませることで"音"として、"楽器"として入れ込みたかったんです。なので、別に聞き取れなくてもいいし、意味もわからなくていい。自分だけがわかっていれば良くて、とりあえずカッコいい曲にしたかったっていう部分もあります。
-実際、英語のサビにしてみてどうでした?
発音が合っているかどうかはちょっとわからないんですけど(笑)、自分がいいと思えれば自分は満足なので、好きです、この曲。やっていて楽しい。
-歌詞について、前作ではパワー・ワードを封印していましたよね。この曲では"人間だもの 人間だもの"とか、パワー・ワードではないのにキャッチーで耳に残る歌詞になっているのがいいなと。
昔みたいに"パワー・ワードを入れよう"みたいな意識はまったくしていなくて。そうやってやり続けることで自然とその方法が身についたのか、今回も耳に残そうと思って書いた感じはなかったんですけど、自然と中毒性があるものにできたなら、それは本望というか、嬉しいです。
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