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LIVE REPORT

Japanese

PEDRO

Skream! マガジン 2023年12月号掲載

2023.11.26 @日本武道館

Writer : 宮﨑 大樹 Photographer:sotobayashi kenta

再始動後、初のツアーとして3ヶ月にわたり全国を巡ってきた"PEDRO TOUR 2023「後日改めて伺いました」"。アユニ・Dにとってその旅路は決して平坦なものではなかった。BiSHが解散したその日から始まった、長い長い試行錯誤を続ける自分探しの日々は、本人の言葉を借りれば"人生大革命"の時間だったという。ツアーやアルバムの制作を経て現在地点での答えを見つけた彼女は、アーティストとして、ひとりの人間として殻を破り、日本武道館のステージに立った。PEDROが紡ぎ出す音楽が、観客の"心のお洗濯"をしてくれたツアー・ファイナル、その名も"洗心"だ。

PEDROとしての日本武道館単独公演は2度目であるが、前回はコロナ禍の真っ只中ということで、動員数も楽しみ方も制限されたライヴだった。今回はそういった要素もないなかでチケットは即日完売、晴れてリベンジを果たしたことになる。そんな満員の日本武道館に、田渕ひさ子が制作した「還る」がSEとして流れ出す。神秘的で、どこか自然的、民族音楽的なサウンドは、演者とオーディエンスの本能を呼び覚ますかのようだ。岩盤を模したようなステージに登場したバンドは、アユニの"PEDRO、ツアー・ファイナル「洗心」よろしくお願いします"の声と共に「さすらひ」でパフォーマンスをスタート。リラックスした表情で、全身で音楽を感じながらバンドを率いているアユニの姿には、いつもどこか自信なさげで不安そうに見えていた過去の彼女の面影はない。「さすらひ」、「安眠」とミドル・チューンでゆったり歩き出したライヴだったが、続く「無問題」で急加速し、会場の熱量をグッと高めていく。田渕ひさ子、ゆーまおのプレイにもどんどん熱が入っていった。この日初めてのMCでは、アユニが愛おしそうにバンド・メンバーを紹介。アユニに名前を呼ばれると、田渕ひさ子は静かに微笑み、ゆーまおは超絶ハイテンションで"ゆーまおでーっす!!"と挨拶する。こんな些細なやりとりだけでも、新体制で回ってきたこのツアーがいいものになり、バンドとしてグルーヴを高めてきたのだなと伝わる。

ライヴ中盤で見どころとなったのは、田渕ひさ子がアコースティック・ギターに持ち替え、アユニはベースを置き、ベースレスのスタイルで披露したアコースティック・アレンジのブロックだった。"この地球は思っているよりもロマンチックで溢れております。浪漫惑星より愛をこめて"と話してからパフォーマンスした「浪漫」では、アコースティックだからこそのサウンドの温かみが、曲の持つ温度感をより心地いいものに昇華。ゆーまおが鳴らすウィンドチャイムの美しい音色はいいアクセントになっていて、サビではアユニが手を大きく横に振り、ベースレスだからこその光景を生み出していた。続くアコースティック・アレンジの楽曲が「自律神経出張中」だったのは少し意外のセレクトだったが、田渕ひさ子のバッキングにより楽曲から哀愁のようなものが醸し出されていたのが良かった。アユニはステージ中央に腰掛けたり、セットに置かれていたソファーに寝転んだりしながら、何かが憑依したかのように鬼気迫る歌唱で魅了する。楽曲の新たな魅力を引き出したアコースティック・アレンジのブロックが終わると、ゆーまおがテクニカルなドラム・ソロで場の空気を一変させて、「死ぬ時も笑ってたいのよ」から通常のバンド形態での演奏が再開した。

後半のMCではアユニが"生きていると本当にいろんなことがありますよね。そんななかここに足を運んでくださったことが本当に幸せです。私もここにいるみなさんもそれぞれが何かしらを抱えて、何かしらと戦って、何かしらを守って日々生きていると思います。そんなたくましく今を生きているみなさんの心のお洗濯、源になるような時間になれていたらとても嬉しく思います"と話す。そして"そんな祈りを込めた新曲を作りました"と言葉を重ね、公演タイトルにもなっている新曲「洗心」の初披露へ。この曲は、柔らかく、温かく、そして優しく、音楽的な面では3ピース以外の音を同期させた自由さもあり、アユニの"人生大革命"を経て生まれた、ひとつの答えだと言えるように思える。"洗心"というタイトル通りに、聴いていて心が洗われる、ほぐされるような感覚になった。

ライヴは「吸って、吐いて」からラスト・スパートに入り、最後は「雪の街」を披露する。大きな会場で「雪の街」の演奏を観ていて、筆者は活動休止前ラスト・ライヴの締めくくりと、当時の淋しさがフラッシュバックしたのだが、こうしてステージに戻ってきてくれたこと、"後日改めて伺ってくれた"ことに感謝をせずにはいられない。そんなふうに浮かんできた様々な感情を、シューゲイズを思わせる歪んだギターの轟音が飲み込んでくれる形で本編は終了した。

アンコールでは、アユニが"今は本当に音楽が大好きだなぁって気持ちでPEDROをやっています。PEDROの音楽とかPEDROの存在があなたの暮らしの何かほんの少しでも、何かのきっかけになったり日々の煌めきになっていたいという気持ちで今日はここで歌を歌いました"とライヴを振り返り、「人」と「感傷謳歌」の2曲を披露して終幕。アユニの音楽への愛情と、そこから生まれたPEDROの音楽を通して心のお洗濯をしてもらったオーディエンスが会場をあとにする表情は、いつも以上に明るく健やかに見えた。


[Setlist]
1. さすらひ
2. 安眠
3. 無問題
4. おバカね
5. いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください
6. 万々歳
7. 生活革命
8. 浪漫(アコースティック・アレンジ)
9. 自律神経出張中(アコースティック・アレンジ)
10. 死ぬ時も笑ってたいのよ(イントロ・セッション)
11. ぶきっちょ
12. 飛んでゆけ
13. 洗心
14. 吸って、吐いて
15. 魔法
16. 雪の街
En1. 人
En2. 感傷謳歌

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