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INTERVIEW

Japanese

ENTHRALLS

2016年11月号掲載

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Member:井上 佳子(Vo) 中井 傑(Ba) 青木 康介(Key)

Interviewer:沖 さやこ

"劇場型ピアノ・ロック・バンド"を掲げ活動するENTHRALLSが、約1年ぶりの新作となる1stフル・アルバム『TEXTURE,MOISTURE』をリリースする。テーマは"質感"と"潤い"。悲劇を歌うことが多かったバンドだが、今作は透明感のあるシンプルなサウンドと、紅一点ヴォーカル 井上佳子なりのポジティヴな言葉が印象的な作品に仕上がった。この期間にドラマーが活動休止を経て脱退し、サポート・ドラマーを招いた編成でのライヴや、ドラムレスの3人編成のライヴも行うなど、現在の体制を活かした活動を続ける彼らに話を訊く。

-1stフル・アルバムとなる今作はクラウドファンディングで制作したそうですね。

井上:"やってみない?"とお話をいただいて挑戦しました。いろいろ話を聞いたり調べたりしているうちに、お客さんにとって面白い要素もいっぱいあるんやなと思って。もともとお客さんと近い距離にいたし、ツアーでたくさんの場所を回ったりもしていたので、せっかくの初のフル・アルバムやし、やってみるのもいいのかなと。最初はどうなることかと思ったんですけど、目標額の181パーセントまで達して。とてもありがたいです。

-サポートした方へのリターン・メニューの内容は驚きの連続でした。オリジナル家具を作る、飲み会にご招待、一緒にスカイ・ダイビングに挑戦、ドライブ・デートにご招待、などなど......。数もとても多い。

井上:オリジナル家具とスカイ・ダイビングを選んだ方はいなかったですけど(笑)。私は私との文通の権利を購入してくださった女性と文通してますね。メニューの数はこれでも減らしたんです(笑)。

中井:僕はドライブ・デートや城巡りとかが予定されていて――というふうに普通の関わり方とは異なる交流ができる企画で、"面白いな"と言ってくれる人もいたのでやって良かったなと思っています。

-今作のテーマはなぜ"質感"と"潤い"に?

井上:私は曲のタイトルを決めるのがすごく苦手なんですけど、レコーディング中に急に"MOISTURE"という言葉が出てきたんです。今まで以上に女性の方にも聴いてもらいたいという気持ちがあって、絶対これをタイトルに使おう、と決めました。今作には女性目線の歌詞と男性目線の歌詞がちょうど半々くらいあるのですが、女性を表すイメージが"MOISTURE"、男性を表すイメージが"TEXTURE"となんとなく決めて、並べてみたんです。語呂も気に入って、そこからコンセプトを考えました。パッケージやデザインもコンセプトと合わせて統一感を出して。今年の2月くらいから制作を始めました。

青木:構想自体は去年の10月からありましたね。だから、録音も3月には終わっていて。

井上:制作が終わったあとにドラムの吉田充利が活動休止することになって、そのあと脱退が決まったので、CDが出せなくなるんじゃないか......という不安もあったんですけど、ようやくリリースまで辿り着くことができました。

中井:mywaymyloveSHOZOさんに4月からサポートでドラムを叩いてもらっていて、その中で培ったグルーヴや今のライヴのニュアンスをCDにパッケージしたいなとも思ったので、「きょうは休みます」(Track.1)と「ロンリーガール」(Track.2)と「ほら」(Track.6)はSHOZOさんに叩いていただいています。

青木:吉田君は繊細なテイストなんですけど、SHOZOさんは"ロック! ロック!"みたいな感じで、ドラマーとしてのタイプが真逆なんです。今の僕らのライヴはそういうロックな感じを軸にしているので、そこが音源にも出ていたらいいなと思います。

井上:自分たちにとっても、クラウドファンディングで支援してくれた人たちにとっても気持ちいい作品にしたかったんです。

-『TEXTURE,MOISTURE』は前作『ねむれない夜に』(2015年リリースの3rdミニ・アルバム)に比べると余裕のあるサウンドスケープで、飾らない、素の雰囲気があるアルバムだと思いました。曲ごとに音の作り方がまったく違うところにも、柔軟性を感じます。

井上:自由になった気がします。『ねむれない夜に』の前まではとにかくピアノを弾きたくって、"ピアノ・ロックや! おりゃ!"という部分があったんですけど(笑)、『ねむれない夜に』あたりから、"ピアノを弾きたくるだけがピアノ・ロックではないんじゃないか"と思うようになって、空間を意識するようになりました。

青木:ギターレスのピアノ・ロック・バンドとして、3枚のミニ・アルバム(2013年リリースの『PASSAGE』、2014年リリースの『合法的浮遊』、2015年リリースの『ねむれない夜に』)で実験をしてきたんですよね。やっぱりギターは広がりが生まれるし、いろいろな音が出せるんですけど、ピアノでエフェクトを使いすぎると、音が潰れてピアノじゃない音になってしまうんですよね。ピアノの音でどれだけギターに対抗できるかをずっと考え続けてて、ようやくひとつの形になったのが『ねむれない夜に』なんです。

中井:『ねむれない夜に』で、1枚目と2枚目でやってきたことがようやくまとまった感覚はありましたね。

井上:"ミニ・アルバムを3枚作ってからフル・アルバムを作ろう"というのは結成時から話していたことで。『ねむれない夜に』はタイトルからもわかるように結構センチメンタルな作品なので、次は絶対に明るい作品にしよう! と思って作ったのが『TEXTURE,MOISTURE』です。音数的には減ったと思います。

青木:曲作りの方法としてはだいたい、セッションで作る場合とこの子(井上)が弾き語りのデモを持ってくる場合の2パターンなんですけど、弾き語りで聴くと曲が似通うので、その場合は"僕の持っている音楽知識でどうぶっ壊してやろうか"と考えながらアレンジをしています(笑)。でも、今回は歌詞も結構リアルな風景が浮かぶものが多かったので、音を当てはめやすかったんです。そういう感じで曲の色に対してひとつひとつにアレンジをしていったら、まったく違うものになっていって。

井上:アレンジのバリエーションは頑張りましたね(笑)。

中井:フル・アルバムなので、聴いている人が飽きないようにしたいなとも思ったし。

青木:プロデューサーのU-re:xさんとの作業ももう3作目なので、僕らのことをだいぶわかってくれて。それもあってアレンジのバリエーションが増えた気がします。

-ポップスとしても成立している曲が多くて。

井上:そうなんです。こんなに明るい曲は前だったら作れなくて(笑)。「きょうは休みます」はレコーディングぎりぎりにセッションで作って、歌詞もバッと書いて――これが結果的にラストに作った曲なんです。今回のアルバムはどちらかというとシリアスな曲が多くて、コミカルな曲がないなと思っていたのもあって、遊べました。特別ポジティヴなものを書こうとしたわけではないんですけど、前作で"センチな部分は終わりだ!"という意識があったので、こういうことができたのかなと思います。でも"踊ろう"みたいな、自分が思っていないことは言えなかったですね(笑)。

中井:踊れないからパーティー感は出せなかったね(笑)。

井上:私は歌詞とメロディを同時に作るので、メロディがノスタルジックだったり悲しげだったりすると、歌詞もハッピーなワードは出づらくて。曲調が変わったから歌詞も変わっていったし、もしかしたらバンドの状況もあって"前を向いていこう"という気持ちが自然と反映されたのかもしれない。"ちゃんと強い面もあるぞ"というのを示したかったのもあったのかな......と、今思いました。この曲が完成したことで、自分の頭の中でもアルバムのコンセプトがしっかりとまとまったかなと思います。

-次のステップに行けたのは『ねむれない夜に』でやり切った感覚があったからかもしれませんね。

井上:あぁ、それはあると思います。それまでは環境表現も抽象的だったので、自分が歌詞に"スマホ"や"ガソリンスタンド"という言葉を入れるなんて思ってもみなくて。そういう言葉を入れるだけで、聴く人の中でその風景がパッと浮かぶかな......というのは意識しながら書いていきました。

青木:前作までは、女性と男性の違いもあってか、歌詞を読んだ僕の解釈が(井上が歌詞に込めた想いと)違うと言われることが多くて。でも、今回はシチュエーションがよくわかるものが多くて――例えば「マジックアワー」(Track.9)の歌いだしの"人混み→乗り換え→立ち止まらず/右足→左足→止めることなく/駅前でコーヒーとタバコを買って/昨日と同じ人に電話をかける"とかは、普段僕がやっているような行動だから"僕のことかな?"と思ったりして(笑)。それ以外にも、僕が日々思っているようなことが書いてあって、"こういうことを思うのは僕だけじゃないんだな"と希望も湧いたし。はっきり"元気出せ"と書いてあるわけではないんだけど、そういう想いが込められている、そのいいラインを突かれたなと思います。こういう歌詞を出されたのに、さらに"いい曲にしよう!"という気持ちが湧きました。

中井:うん! そうやね。(井上の書く)歌詞も共感できる部分が増えて、いろんな人に響く曲が集められたと思います。