Japanese
indigo la End
2016年02月号掲載
Writer 沖 さやこ
2016年はindigo la Endが本領を発揮する年なのではないか。「心雨」(Track.1)を聴いたとき、そんな期待に胸が躍った。思い返せばメジャー・デビューをした2014年から、彼らは持ち前のポップ・センスを前面に出した楽曲制作を続けてきた。当時、川谷絵音(Vo/Gt)がインタビューでも語ってくれた通り、バンド・シーンに歩み寄りながらindigo la Endだからできることを追求していたと思う。2015年の頭にリリースしたメジャー1stフル・アルバム『幸せが溢れたら』には"ラヴ・ソング"、"失恋"をテーマに、ポップさやぬくもりを感じさせる音に切なさを滲ませた楽曲が数多く収録されたが、そこでひと際映えていたのはメロディと歌。川谷のヴォーカル表現に感情の機微や余韻が生まれたことで、歌の存在感が増し、楽器隊の威力に飲み込まれない芯のあるメロディも、歌詞の譜割りと相まって確固たるものになったのだ。
昨年、メンバー・チェンジを経て『悲しくなる前に』、『雫に恋して/忘れて花束』の2枚のシングルをそれぞれ6月と9月に発表。個性溢れるリズム隊に突き動かされるように、格段にアレンジの幅を広げたことも記憶に新しい。特に『悲しくなる前に』のカップリング曲「夏夜のマジック」はその象徴で、このバンドは自分たちの感性が反応したものを瞬時に取り込み、どんなものもindigo la Endの音楽にできるという証明でもあった。
その流れでリリースされるのがこの『心雨』。表題曲はゲスの極み乙女。の「煙る」(2016年1月リリースの2ndアルバム『両成敗』収録)と共に、スマートフォン向けアプリ"消滅都市"のテーマ・ソングに起用された。「煙る」はゲームの主人公・タクヤの目線で描き、「心雨」は謎の少女・ユキがテーマになった、愛と悲しみを綴るバラードだ。
2013年2月に発表されたインディーズ盤『夜に魔法をかけられて』に収録された「抱きしめて」もそのような曲だった。indigo la Endは初期から美しいメロディを作るバンドではあったが、その当時はアレンジの妙による音楽的なレベルの高さを重点的に追求していたように思う。そこに歌モノとしての方向性を強める姿勢が見えたのが『夜に魔法をかけられて』。「心雨」はあのときのindigo la Endが成し遂げたかったこと――というよりはこの3年間、バンドは体力をつけて地盤を固めながら「心雨」のような曲を世に放つ好機をずっと見計らっていたのではないだろうか。
「心雨」はまず第一にメロディと歌が素晴らしい。言葉以上に悲しみと愛情が通う旋律はとても感情的で、そこに川谷が切り取ったユキの心情と彼の歌声、女声コーラスが重なることで、さらに熱を帯びる。ユキを介すことで生まれる彼の言葉が、彼の主観だけでは成し得ない美意識を生んでいた。アレンジの振れ幅や楽曲の世界観を広げる楽器隊のセンスは『悲しくなる前に』と『雫に恋して/忘れて花束』で立証済み。ミディアム・ナンバーのバラードをしなやかな緊張感をもってしっかりと聴かせる演奏のスキルもある。どんなに悲しく切ない曲でも聴き手を穏やかに優しく包み込む――それは3年前では成し得なかったindigo la Endが"成熟"した証だ。
Track.3「風詠む季節」は川谷が友人の披露宴で歌うために作った曲。やわらかいピアノと繊細なアコースティック・ギターの音色と川谷の歌が主体となったあたたかくも切ないミディアム・ナンバーで、間奏のファルセットのスキャットも美しく感動的だ。川谷は"初めて前向きに幸せな曲を作った"という。"幸せ"とはいろんな喜怒哀楽のもとに存在するもので、"切なさ"というものも"幸せ"があるからこそ生まれる感情だ。そして"涙"とはすべての気持ちが昂ったときに零れ落ちるもの。今のindigo la Endは、様々な涙の落ちる瞬間の心や、涙の温度を音で表現できるバンドなのだ。
indigo la Endのハードな面とポップな面が融合したTrack.2「24時、繰り返す」もバンドの新機軸。テクニカルなリズム隊を筆頭に、遊び心の効いたアレンジと音に4人の少年のような無邪気さも見える。たった3曲ではあるが、バンドの状態の良さを十二分に感じられる作品だ。2016年、indigo la Endは間違いなく面白くなる。
indigo la End
5thシングル
『心雨』
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1. 心雨
2. 24時、繰り返す
3. 風詠む季節
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