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LIVE REPORT

Japanese

おいしくるメロンパン

Skream! マガジン 2023年02月号掲載

2022.11.23 @渋谷Spotify O-EAST

Writer : 石角 友香 Photographer:郡元菜摘

おいしくるメロンパンが5月にリリースしたミニ・アルバム『cubism』を携え、6月の恵比寿LIQUIDROOMを皮切りに行った全国20公演のツアー・ファイナルを渋谷Spotify O-EASTで開催した。6~7月は"サンセット・フィルムショー"、9~11月は"トワイライト・フィルムショー"と銘打ち、異なるセットリストで展開するという2022年のバンドの意志を示したものであり、ファイナルの今回はO-EASTの大型LEDも演出に加えた、今とこれからを感じさせる内容となった。

ちなみに筆者はおいしくるメロンパンのライヴそのものが初見なので、過去との比較も先入観もなく観たのだが、彼らの各曲へのアレンジの完成への自信と、3ピースのアンサンブルとして独自のバランス感覚を持つこと、加えて高い緊張感も解放感も演奏に込めてこそという潔さが心地よかった。従来よりもMCが増え、開かれたライヴになったそうだが、それでも必要最低限のこと以外話さないし、飽くまでも演奏と選曲の流れでの勝負だ。

抽象的な色の映像にツアー・タイトルと日付、バンド名、メンバー名が映し出される映画のオープニングのような画像に乗り、メンバーが登場するといきなり「命日」からスタート。音源でしか体験していなかったため、現在の彼らの演奏とアンサンブルのクリアさ、ヴィヴィッドさに驚いたぐらいだ。パワー・ポップの煌めきを感じるほど明度が高く、且つ原 駿太郎のスネアのデッドさ加減に"あ、これは圧やボリュームで押すアンサンブルではないのだな"と、アンサンブルの美学を感じた。続く「夕立と魚」では、峯岸翔雪(Ba)が曲から受ける印象を演奏しながら身体表現していて、マイク前から離れて自在に動く。また、ネオアコの中にあるジャズのコード進行やフレージングを反映した印象の「look at the sea」では、爽やかさの中に狂気を感じる"あなたの髪を数えていたい"という歌詞にぎょっとし、アウトロの向かうなか、ブレイクを挟むアレンジには高いところから落下するようなスリルも。ポップでスピード感のある「色水」もストップ&ゴーが効果的で、歌詞が表現する時間経過や僕と君の関係性が静止画像になるような効果を生む。まったく見事だ。

最初のMCでナカシマ(Vo/Gt)は、20本続いてきたツアーで『cubism』の集大成を見せられればと話し、大きな拍手を受ける。そして後方全体を使うLEDに夏空を思わせる映像が映し出された「灰羽」。晴天に落ちていくような映像が歌詞の世界を立体的にした。ナカシマの幼さを残すジェンダーレスな声が"全てが僕を否定する世界で/僕は歌うよ/「素晴らしい世界だ。」"という意思を響かせるのにも大袈裟じゃない演出だったと思う。"晴天"がリンクし次の「走馬灯」に心情が繋がった。ナカシマと峯岸のフレーズがチェイスするような、単音で構成される隙間と不穏な音階のベース・ライン、素直な歌メロが混在して決して喜怒哀楽のどれかではない間(あわい)の感情が炙り出されるのだ。ジャズ的なコード感は続く「水びたしの国」にもうまく接続され、原のブラシ、峯岸のアップライト・ベースが柔らかい音像を作る。このときの背景は山なのか砂漠なのか、絵画で空間を支配している。

続く「蒲公英」では同曲のMVにも登場した部屋の様々なものが投影されているが、無人だ。オーディエンスがその中に没入できるような演出でもあり、"彼女"の不在も印象づけた。ビート的に近い印象の「斜陽」に繋ぎ、ミニ・アルバム後の新曲「マテリアル」で、再び緩急の抜き差しが加速する。実体のあるものに意味を見いだせない歌詞と対照的に、映像ではスピーカーやメトロノームなどが海の映像と左右に展開し、後半はチェス盤上で駒が動く映像。バンドのテーマや人との駆け引きを視覚化したような演出がいい効果を生んでいた。

ちなみにツアー中に峯岸はベースのヘッド部分を折ってしまったことを告白。それもこれもライヴが楽しくてコントロールを失ったかららしいが、原がその発言を受け、全国各地を巡り音楽を広げて確実にバンドはたくましくなったと明言した。初日は観ていないが、3人の削ぎ落とした演奏の仕上がりを見るにつけ、間違いないと思う。

後半、淡々としつつリズム・チェンジにハッとする「caramel city」、曲の終わりからシームレスに繋いだ「泡と魔女」は、マイナー・コードらしいマイナー・コードの登場で曇り空や夜を感じる。複雑なドラミングでありつつ、滑らかなロールやリズム・チェンジが演奏に推進力を与えている。ポスト・ロック的な圧というより、Stewart Copeland(THE POLICE/Dr)的な軽快なリズム感が、おいしくるメロンパンの強みだとこの曲で確信した。数え歌かトーキングのようなフロウのAメロからロング・トーンまで、ナカシマの声の表現が冴える「dry flower」、"情けないな"のリフレインが執拗なほどで静かな怒気を孕む「あの秋とスクールデイズ」、そしてミニ・アルバムの中でもストレートな切なさを醸す「トロイメライ」では、MVでも用いられた線画のアニメーションが映し出される。が、「蒲公英」同様、主人公たちは登場しない。オーディエンスが登場人物になれる余白を作ったということなのだろう。

様々な季節を巡り、新旧の楽曲が響き合ってきたとこで、ナカシマは"おいしくるメロンパンの音楽はパズルみたいだと思っていて、こういう曲がたくさんできる日っていうのはパズルが組み合わさる感じを表現できると思う"と、20本のツアーの手応えを伝え、今後も音楽で個性を伝えていくことを明言していた。

3つの楽器が応酬するようなスリリングな「シュガーサーフ」では、峯岸がベース・ヒーローぶりを発揮。続く「架空船」でも峯岸のランニング・ベースが牽引し、テンポ・チェンジを経て厚いアンサンブルを作り出すのだが、ほぼ残響がなく、明快なフレージングでなければ成立しない3人のストイックなプレイに釘づけに。これは飽くまでも想像だが彼らは音像で"酔わせる"ことを潔しとしないのではないか。没入はできるが酩酊できない。乗れるし楽しい音楽だが、その冷静さが心地よくもある。本編ラストは、明るさと不思議さを往来するコード進行が、ナカシマが描くユートピアが一筋縄ではいかないことを想起させる「Utopia」が猛然とダッシュ。冒頭の抽象的な映像が再び投影されて、鮮やかなエンディングとなった。

ナカシマが言うように新旧の楽曲が響き合い、現在の演奏で並列された見事なセットリストと、映画を見終わったような感覚を維持した一定の緊張感。言葉で伝える必要のあることも吟味されていて、濃厚な音楽体験になった。アンコールでは原の物販隊長ぶりを堪能できたりしたが、3人の異なるキャラクターもまた絶妙なバランスだ。未発表の新曲と「5月の呪い」を最後らしく熱演。背景にはバンド名のロゴと20本のツアー・スケジュールが足跡のように映し出されていた。

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