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LIVE REPORT

Japanese

神はサイコロを振らない

Skream! マガジン 2021年07月号掲載

2021.05.30 @Zepp Tokyo

Writer 秦 理絵 Photos by MASANORI FUJIKAWA

神はサイコロを振らないの1stシングル『エーテルの正体』は、バンドにとって、音楽はどういう存在なのか? という問いに対する、ひとつの答えになる作品だった。音楽とは、人と人との想いを繋ぐ媒介のような存在であるということ。そして、永遠に輝き続けるものであるということ。神サイ(神はサイコロを振らない)の全国ツアー"Live Tour 2021「エーテルの正体」"のとなったZepp Tokyo公演は、そんな最新作で掴んだバンドの想いを体現するようなライヴだった。そこには、音楽が生み出す様々な感情を、ステージからフロアへ、フロアからステージへと丁寧に受け渡していくような幸福な空間が広がっていた。今回のツアーは東名阪に加えて、バンド結成の地である福岡と、ファイナルの仙台という計5都市で開催された。コロナ禍のガイダンスに従い、入場人数は制限されたものの、通常約3,000人を収容するライヴ会場はバンド最大規模になる。その広いステージに立ち、次々に表情を変える楽曲たちを、あくまでロック・バンド然と聴かせたパフォーマンスは、この先、神サイがもっと大きなステージに立つ姿まで想いを馳せたくなる力強いものだった。

幻想的なSEに合わせて、Zepp Tokyoの高い天井にレーザーの光が走った。ステージ前面には『エーテルの正体』のヴィジュアルを連想させる羽衣のような布が風を受けてふわりとたなびく。そこに、吉田喜一(Gt)、桐木岳貢(Ba)、黒川亮介(Dr)に続けて、柳田周作(Vo)が登場した。大きな拍手。"始めるぞ、東京!"という柳田の開会宣言を合図に、「クロノグラフ彗星」からライヴは始まった。ハンドマイクで全身を大きく使いながら歌を届ける柳田が、開放的なバンド・サウンドに乗せるのは、"光のほうへ向かおう"というバンド自身の想いだ。『エーテルの正体』に収録され、オーディエンスがいるライヴハウスをイメージしながら作ったというその曲は、まさに幕開けの1曲に相応しい。吉田の速弾きのギター・ソロがライヴの狂騒を加速させた「揺らめいて候」、桐木のグラマラスなベース・ラインが横揺れのうねりを生んだ「遺言状」、ピンスポットを浴びた柳田が、ピアノの伴奏に乗せて、儚い夏の恋を歌ったメジャー・デビュー曲「泡沫花火」。曲ごとに異なる景色を描きながらライヴは進んだ。"情緒不安定みたいな楽曲構成ですけども。いろいろな曲があるので"と、柳田が言ったとおり、特定のジャンルにカテゴライズされることを嫌い、"イレギュラーであること"をポリシーとする神サイのスタンスはライヴでこそ際立っていた。

集まった大勢のオーディエンスを前にして、"サクラとかじゃないですよね(笑)"と、初々しい発言で笑わせたMCでは、バンドの歴史を振り返った。福岡で結成し、現在に至るまでには、ひもじい思いをしたこと、メンバー同士がギスギスした時期もあったこと。そのうえで、"今すごいスパンで曲を出してるんですけど。この状況が楽しくて楽しくて"と、メジャー・デビューから約1年、バンドが充実している日々を送っていることを伝える。

打ち込みと融合させた黒川のドラム・ソロで口火を切った「解放宣言」では、フロアのオーディエンスがヒップホップのマナーで腕を上下に振り、会場が一体になった。不条理な世界を生き抜けと歌う「ジュブナイルに捧ぐ」の曲中では、柳田が"音楽がみなさんのちからになるなら、僕らは音楽を鳴らし続けます"と言うと、桐木も、その想いが確かに届くことを願うように、自分の胸をトンと叩き、熱くベースを弾いていた。昨年以降、神サイは無観客の配信ライヴも行ってきたが、この場所には生のライヴだからこそ描ける光景がいくつもあった。ステージを覆ったスモークと激しく明滅する光の中で届けた、バンドの代表曲とも言えるバラード「夜永唄」から、その続編として完成させた「プラトニック・ラブ」の流れは息を呑む美しさだった。演奏を終えたあと、会場は静まりかえり、柳田の"ありがとう"の声を待って、大きな拍手で包まれた。コロナ禍のライヴでは歓声をあげたり、一緒に歌ったりすることはできない。だが、ステージとフロアが呼吸を合わせて、こうやって音楽に没頭することもまた、"一緒にライヴを作る"ということなのだと思う。

"僕らはみなさんに愛をぶん投げるので、打ち返してくれますか!? これは1対1のやり合いです。僕らとみなさんを繋げてくれる音楽に感謝しながら、この曲をやります"と、柳田が伝えたポップなナンバー「1on1」から、クライマックスに向けて一気に駆け抜けていった。ベースを置き、シンセを弾く桐木の周りに集まった柳田と吉田は、桐木にちょっかいを出すように楽しそうに演奏していた。"君の存在が僕を強くする"ということを壮大なロック・バラードに乗せた「未来永劫」では、黒川が天井を仰ぎ見ながら、激しくシンバルを打ち鳴らしていた。めまぐるしく色彩を変えた本編13曲のラストを飾ったのは、柳田が"来年の春はもっといい春になりますように"と言って届けた「巡る巡る」だった。爽快なバンド・サウンドに乗せて、軽やかに"Let's run far away."と繰り返すその歌は、何にも束縛されず、現状を楽しみながら、さらに高みを目指していこうとする、神はサイコロを振らないというバンドそのものを表すようだった。

本編は、比較的新しい曲で構成されていたが、アンコールでは、"アンコールありがとう"のひと言のあとに間髪を入れず、柳田もギターを持ち、4つの楽器が折り重なった轟音が言いようのない恍惚感を生み出していく。最後のMCでは、ロマンチストな柳田が、音楽を星にたとえて語り掛けた。"星はかたちがなくなっても、遅れて(光が)地球にやってくる。それが素敵やなと思ってね。音楽に、ロック・バンドに、自分自身に通じるものがあるなと思ってます"と。そして、その想いを楽曲に託した「illumination」で、終演。柳田、桐木、吉田のフロント3人が次々とステージに膝をつき、全身全霊を込めた、この日一番激しいパフォーマンスでライヴを締めくくった。

最後に、本編で柳田が伝えた印象的な言葉を書いておく。"音楽は、ある人からしたら娯楽でしかなくて。その反面、ある人からしたら必要不可欠な心の栄養だったり、人生そのものだったりする。だから、ここに来てくれたみなさんは、音楽を愛していることを誇りに思ってください。決して恥ずかしいことでも、うしろめたいことでもないから"。それは、この日、ライヴ会場に足を運ぶことに対して、少なからず迷いがあったお客さんの気持ちを救うような言葉だったと思う。同時に、自分たちの音楽が、誰かの人生の支えになり得ることに気づいた、今の柳田だからこその優しい言葉だった。


[Setlist]
1. クロノグラフ彗星
2. 揺らめいて候
3. 遺言状
4. 泡沫花火
5. 胡蝶蘭
6. 解放宣言
7. パーフェクト・ルーキーズ
8. ジュブナイルに捧ぐ
9. 夜永唄
10. プラトニック・ラブ
11. 1on1
12. 未来永劫
13. 巡る巡る

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