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LIVE REPORT

Japanese

Ivy to Fraudulent Game

Skream! マガジン 2020年11月号掲載

2020.10.11 @渋谷TSUTAYA O-EAST

Writer 秦 理絵 Photo by Yusuke Satou

"これ以上、もう俺たちは止まっていられませんでした。空白に近い状態で進んでいくことが、すごく怖くて。今日は、もう1回、自分たちにエンジンをかけたいと思ってやってます"。アンコールで寺口宣明(Gt/Vo)が伝えた言葉だ。それこそが、この日、Ivy to Fraudulent Gameが有観客ワンマン・ライヴ[Ivy to Fraudulent Game One Man Live "Only Our Oath #3 -shibuya-"]を開催した理由だった。新型コロナウイルスの影響により、最後にお客さんの前でライヴをしてから8ヶ月。その間にも、無観客ライヴを配信するなど、彼らは音楽を途切れさせない活動をずっと続けてきた。そんなアイビー(Ivy to Fraudulent Game)にとって、"再生"のワンマン・ライヴだ。会場となったTSUTAYA O-EASTは、本来のキャパの半数以下の動員で座席指定。声出しも禁止というイレギュラーな状況ではあったが、かつて当たり前だった"お客さんがいるライヴ"を再び開催できた喜びを全身で爆発させた4人は、ここからは止まらずに進んでゆくというバンドの想いを、そのステージに熱く刻みつけた。

拍手で迎えられ、大島知起(Gt)、カワイリョウタロウ(Ba)、福島由也(Dr)に続けて、最後に寺口がステージに登場した。あてどなく水面に浮かぶような静謐なメロディが、耳をつんざくギターを合図に轟音へと変わる「漂う」から、ライヴは始まった。儚くも荒々しい。アイビーが得意とする強烈なコントラスト。その鮮烈なオープニングに息を呑む。"Ivy to Fraudulent Gameです。よろしく"(寺口)。挨拶を挟み、堕ちながら昇り詰めるような耽美なバラード「dulcet」、冷徹な電子音と肉体感溢れるバンド・サウンドが美しく交錯する「Utopia」へと、繊細で鋭利なバンド・サウンドが、会場の空気をビリビリと震わせていく。「水泡」のイントロでは、寺口が"そろそろ座ってるのも飽きたろ、立って!"と言うと、待ってましたとばかりにお客さんが一斉に立ち上がった。

"あー、いるね。ははは!"。MCの第一声は寺口の笑い声だった。"観客がね"と、言葉を補って相槌を打つカワイ。お客さんが目の前にいる喜びのせいか、MCはいつも以上に饒舌だ。このライヴは生配信もされているということで、"画面の向こうまで届くように、ちゃんと自分たちの表現をするから。ここにいる人も、いない人も、全員一緒にライヴをしていってください"(寺口)と言うと、続く「error」で、ステージ際まで歩み出たカワイは8ヶ月分の鬱憤をぶつけるように激しい動きでベースをかき鳴らす。"今日はリハビリだと思ってないんで! 今までの俺たちを全部見せにきたから"。不敵に語る寺口も、「劣等」で、マイク・スタンドをなぎ倒し、ステージを激しく動き回りながら歌った。"繋いでよ 君と僕も/笑えるように"。そんなフレーズを繰り返したのは「trot」だった。日々生きてゆくなかで、かすみがちな希望を、壊れやすい繋がりを懸命に求め、掴もうとするアイビーの歌。それがコロナ禍にあって、より切実な意味を帯びて聴こえたのは私だけではなかったと思う。

"新曲を持ってきました。聴いてください"(寺口)。そう紹介した初披露の新曲は素晴らしかった。パイプ・オルガンの神聖な音色、透明感に満ちたメロディ。ろうそくのようにチラチラと揺れる光の中、大島のギターがブルージーな鳴き声をあげ、やがて、福島のドラムが"未来"への行進を後押しするように軽快なマーチング・ドラムを刻む。あまりにも美しいアイビーの新機軸と言える楽曲に、お客さんが呆然と立ち尽くすなか、ライヴはさらにディープな世界へ突き進んでいった。淡々とループするピアノと陰りを帯びた歌が苦い余韻を残す「最低」、手数の多いプレイが複雑に交錯して昂揚感を生んだ「Dear Fate,」、真っ赤な照明を浴びた寺口の怒気を孕んだ絶唱が響きわたった「E.G.B.A.」。静から動へ、陽から陰へと、容赦のなくアップダウンする激しい抑揚が聴き手の情緒をかき乱していく。

"なんか......あー、なんか(笑)、最高です。ありがとう"。終盤、感極まったように言葉を詰まらせながら、感謝を伝えた寺口。"正直、ライヴができないって、想像を絶するほどキツかったです"、"こういう時期にいなくなっちゃう人、いなくなっちゃうバンド、コンテンツ、エンターテイメント、店。そんなニュースを見ると、全然他人事じゃなかった"と、苦しかった自粛期間を振り返る。"でもね、まだ終われないんですよ。抜け殻になりたくない。それだけです。いつまで続くかはわからないけど、またもとの世の中に戻ったら、目の前にいてくれ!"と、熱い言葉を重ねた。クライマックスに向かうライヴ。スピーディな変拍子に寺口の咆哮が重なった「青写真」から、開放感に満ちた「blue blue blue」のあと、"まだ素晴らしい景色を見られることを信じて、この旅を続けていこうと思います"とメッセージを添えたのは、先月配信リリースされた「旅人」だった。七色の光が降り注ぐなかで、紡がれた"まだ行けるさ"というフレーズは、自分に言い聞かせているようでもあり、同時に私たちの背中を押すように温かかった。客席からの息の合ったハンドクラップと共に完成させた「革命」では、いつもはシンガロングが起こるところで、"聞こえる気がする(笑)"と、寺口は嬉しそうに笑った。たとえ歌声は湧かなくとも、バンドの目の前にお客さんがいる、今はそれだけで十分だった。

ラスト1曲。"久々のワンマンがあと1曲で終わります。すごく最悪な気分です"と冗談っぽく言った寺口は、"今日は空回り具合が半端ない。何日かスタジオに入ったけど、目の前にみんながいるせいで、2パーセントぐらいしかできなかった。でも、今まで感じたことないぐらい幸せです。あとで反省はします(笑)"と、あまりにも正直にこの日のライヴの感想を伝えた。さらに、配信用のカメラを覗き込み、"絶対に君の街に会いに行くから、また会いに来てほしい"と、画面越しのお客さんにも力強く言うと、"今まで俺たちを一番支えてくれた曲です"と、最後に「Memento Mori」を届けた。生命力に満ちた演奏に乗せて、今を生きることの大切さを伝えるその楽曲を、彼らは今までも大切なライヴでは必ず歌い続けてきた。だが今は、この困難な時代に対峙し、生き抜くための歌として、新たな役割をもって鳴り響いていた。

"ライヴめっちゃ疲れるね"(寺口)、"びっくりしちゃったね"(カワイ)と、久々のライヴの手応えを語り合ったアンコール。まず披露したフォーク・ソングのような味わいの「傾き者」のあと、"久々にやります。これは今日やりたかった。どうしてもね"と言って、8ヶ月ぶりのライヴのラストを飾ったのは「青二才」だった。"喉を枯らしても叫んでいくんだよ/あの日と変わらぬ絶望の"望"を"。リリース音源では呟くように締めくくるそのフレーズを、この日、寺口はあらん限りの力で高らかに歌い上げた。それは、これからも音楽で戦い続けるというバンドの宣誓のような歌だった。


[Setlist]
1. 漂う
2. dulcet
3. Utopia
4. 水泡
5. error
6. 劣等
7. trot
8. 新曲
9. 最低
10. Dear Fate,
11. E.G.B.A.
12. 青写真
13. blue blue blue
14. 旅人
15. 革命
16. Memento Mori
En1. 傾き者
En2. 青二才

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