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LIVE REPORT

Japanese

チリヌルヲワカ

Skream! マガジン 2017年09月号掲載

2017.07.22 @新宿BLAZE

Writer 岡本 貴之

広々としたステージの上でスポットライトが当たるなか、シックなミニのワンピース姿でギターをかき鳴らしながら歌いだしたユウ(Gt/Vo)をはじめ、イワイエイキチ(Ba)、阿部耕作(Dr)の3人は全員黒い衣装で登場。その佇まいから、新作『きみの未来に用がある』にも感じられたように、バンドがストイックでシンプルなロック・モードであることが窺えた。思わぬハプニングも起こった、良くも悪くも(?)記憶に残る一夜となったツアー・ファイナルの模様をお届けする。

5月に発売された8枚目のアルバム『きみの未来に用がある』のリリース・ツアー"OctopusTour 2017"ファイナル公演の会場となったのは、例年どおりの渋谷CLUB QUATTROではなく、久しぶりの新宿BLAZEだ。広いキャパを埋める多くのファンがフロアで待ち構えるなか、ライヴは新作からの「クリーチャー」で幕を開けた。続いて真っ赤に染まった照明の中で演奏された「怒りの筆先」のド迫力加減もあり、ストイック且つ尖ったチリヌルヲワカを存分に見せてくれそうな予感がするオープニングだ。しかし、よく見たら阿部のTシャツには"研究"の文字が。さらにユウの背後にはタコのぬいぐるみが置かれている。なんだかシュールな光景とサウンドの迫力に圧倒されていると、先ほどと対照的な青い照明に変わり、曲は「アヲアヲ」へ。近年の代表曲を惜しげもなく前半に投入するのは新作への自信の表れだろうか。

"ツアー・ファイナル、たくさんお集まりいただきありがとうございます! 前後左右、忖度して盛り上がってください!"と、2017年のツアーの記念碑とも言うべき流行語MCでキメるユウ。そういえば昨年のMCではポケモンGOに触れていた。あれからちょうど1年、MCで時代がわかるのだから時の流れは早い。

1stアルバムからの「タルト」、ユウお得意のワルツ曲「ショウタイム」に続き、阿部のドラム・ソロから飛び出したのは、「念じる」。ルート弾きを中心にしたイワイのベース、コードをかき鳴らすユウのギターと阿部のタイトなプレイ。無駄を削ぎ落としたような演奏に、情念のこもったユウのヴォーカルが映える。シンプルな演奏のぶん、キメがよりカッコいい――しかし、曲が終わるとここでとんでもないハプニングが! 歌い終わるやいなや、"ゴキブリがいる!!"と叫んで後ろに下がるユウ。"マジか!"とどよめく観客たち。顔を覆ったまま後方で固まっているユウをよそに、場内は笑いと悲鳴が交差する事態に。すると、スタッフが出てきてユウの立ち位置にいたらしきゴキブリをバシッと退治して一件落着。"怖かった! いたずらかと思った"とちょっと泣きそうな声で乙女チックな姿を見せたユウ。エフェクター・ボードのワウのあたりにいたらしい。まさか、歌いながらゴキブリと戦っていたとは。"野外だと虫が飛んでくるとかあるけど、屋内でも油断しちゃだめ"と教訓を得たようだ。

アクシデント(?)があったあとに盛り上がるのはライヴの常。再開後の「苔の生したこんな代は」はイワイ、ユウがステージ前に出て煽りまくり、"G(ゴキブリ)ショック"を払拭するには十分な盛り上がりだ。「甲と乙」のリヴァーブが深くかかったユウのヴォーカル、ビリビリと破けそうな音色で聴かせたイワイのベース・ソロから、エフェクトがかかったユウのギター・ソロへと繋がる場面で場内はサイケなムードに支配され、ノイジーなエンディングまで終始圧倒された。お立ち台に上がるユウはすかさずコード・ストロークして次なる曲「天邪鬼」へ。テレキャスを構えてスポットを浴びるユウの女性ロッカー然とした姿は貫禄を感じさせた(同様のシーンは後半の「シーホース」でも見られた)。

MCでは、ツアーを振り返る。地方ではギターの機材トラブルが多発して、ファイナルでは"コックローチ・ミラクル"(命名・阿部)が起こるというツアーに、"私、呪われてる!"と嘆くユウにファンからは爆笑が起こっていた。「ノイロニテイル」の異色なオルタナ・カントリーとでもいうような演奏、メロディアスな「みずいろの恋」から後半は「シーホース」、「ホワイトホール」、「空想都市」と怒濤のアッパー・チューンでラッシュ。ユウが繰り出す強烈なギター・リフが核となったサウンドは、一分の揺らぎもない。その粗くも粒立ちの揃った音は、この3人のバンドマンとしての確固たる実力が生み出すものだ。そしてそのサウンドはどんどん深みと鋭さを増している。新作のタイトル・チューンとも言える歌詞の「ドルチェ」で本編を締めくくると、アンコールでツアーTシャツに着替えて登場した3人。ユウがベース、イワイがドラム、阿部がギターを担当するというパート・チェンジでアバンギャルドなセッションを披露。"何が起こっているのだろう?"という雰囲気が会場に漂ったものの、マイペースで延々と演奏する3人の様はこれまたシュール。ツアーで毎日演奏されていたようで、今後のツアーでもさらなる発展が見れるかも? 「ヨスガ」、「姫事」と続けて演奏してステージを降りるも、盛大な声に後押しされて三度ステージへ。Wアンコール「カスガイ」でツアー・ファイナルを締めくくった。ツアーを重ねるごとに、何者をも寄せつけない硬派なバンド・サウンドを作り上げていく3人。今後チリヌルヲワカの世界観がどんな変化を見せていくのか注目していきたい。


[Setlist]
1. クリーチャー
2. 怒りの筆先
3. アヲアヲ
4. タルト
5. ショウタイム
6. 念じる
7. 苔の生したこんな代は
8. 浮キつ沈ミつ
9. 甲と乙
10. 天邪気
11. 絶対値
12. 春は彼方
13. シダレザクラ
14. ノイロニテイル
15. みずいろの恋
16. シーホース
17. ホワイトホール
18. 空想都市
19. ドルチェ

en1. ヨスガ
en2. 姫事

wen. カスガイ

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