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LIVE REPORT

Japanese

ハルカトミユキ

Skream! マガジン 2015年11月号掲載

2015.10.03 @日比谷野外大音楽堂

Writer 天野 史彬

孤独な夜を震わせるような歌声が響いていた。彼女の、こんな歌声は聴いたことがなかった。1曲目「Vanilla」を歌い始めた瞬間、空気を切り裂きながら伝わってきたその歌声に、自分の身体の最深部をひと突きで仕留められたような気がした。重くて深い悲しみと優しさを纏った歌声。あぁ、彼女たちはここまで来たのだ。
 
ハルカトミユキが、2015年をかけて取り組んできたマニフェストの折り返し地点にして、最初の到達点、日比谷野外大音楽堂フリー・ライヴ"ひとり×3000"。"去年は本当に、曲が書けなくなってしまって......"、ステージに出てくるや否や、そう語り始めたハルカ。吐き出さずにはいられなかったのだろう。ハルカにとって、そして彼女を傍らで見守り続けるミユキにとって、"自分にとって音楽を鳴らす意味とは何なのか?"という問いに全身全霊でぶつかり、その結果、EP1枚のリリースに甘んじた2014年の1年間は、デビュー以来最大の受難の日々だったのだから。しかし、この受難こそが、彼女たちの中に変化への渇望を植えつけたのも確かなのだ。
変化への渇望は、無謀とも思える挑戦によって、今まさに具現化され続けている。2015年内、毎月の新曲配信リリースと、ミニ・アルバムとフル・アルバムのリリース――あえて自らを奮い立たせるかのように今年の年明けに発表されたこのマニフェストに、急遽加えられたのが、今回の日比谷野音フリー・ライヴである。そう、このフリー・ライヴは、年明け時点の予定にはなかった、極めて突発的なものなのだ。この1年、今までとは違う新たな面々と音作りをして、毎月新曲を配信して、ミニ・アルバム『世界』もリリースして......そうやって激しく動き続けてきた、その果てに、今、どこに辿り着いたのか? 自分たちの中で、何が生まれようとしているのか? それを確かめるための場所。そして何より、急速に変わりゆく自分たちの中から止め処なく溢れ出る音と言葉を、どうしても"今"、あなたに伝えなければいけないという、表現者としての使命と衝動と欲望を果たす場所。そんな場所として、この日の野音はあった。
 
まずは序盤、「Vanilla」、「ドライアイス」、「シアノタイプ」といったクラシック的存在の楽曲における、ハルカの剥き出しの歌声に身動きが取れなくなった。彼女の孤独が空気を震わせて僕の孤独に、野音に集まったそれぞれの人の孤独に届く。人が人に何かを伝えようとする――普段から誰もが行っているこの行為が、しかし人間の本質的な悲しみと祈りを内包した深いサガに基づいたものなのだと、改めて気づかされるような歌声。人は誰もが孤独で、別々で、完璧に何かを分かり合えることなどなくて。でも、だからこそ、人は人に何かを伝えようと、別々の心が少しでも近い場所にあれるようにと祈るのだろう。ハルカは、歌うことで祈っていた。
そして、煌めくメロディとノイズのシンフォニーが響いた「世界」、メロウ且つダビーな音像の、その暗闇の中から美しい歌声が柔らかな癒しとして降り注いだ「春の雨」、会場中の人々がスマホや携帯のライトを灯して闇夜を彩った、痛みと吐露を祝福へと変化させるダンス・チューン「嘘ツキ」。これら今年に入ってから世に放たれた楽曲たちには、彼女たちの音楽的深化――特に、自らの音楽的志向性を明確にしたミユキが、新たなプロデューサーたちと共に自らに、そして世に問うようにして構築してきた新たな音楽性をしかと感じることができた。ミユキも、その音に自らを刻み込んでいる。
 
ライヴも半ばを過ぎたころ、「ニュートンの林檎」、「バッドエンドの続きを」、「振り出しに戻る」、「tonight」といった楽曲でグランジやニュー・ウェイヴの最も攻撃的な側面を巨大なスケール感と共に放出した後、このフリー・ライヴのために生まれたと言っても過言ではない1曲、「肯定する」が披露された。ハルカが去年から歌いたくて、でも歌えなくて、しかし今、変化の季節の中でやっと歌うことができた歌。飾ることなく、偽ることなく、ただあるがままに、想うがままに紡がれた、まっすぐな言葉とメロディ。この日、野音に集まった3,000人の人々が、そしてステージ上の自分たちが、この先の人生をたったひとりで、気高く強く歩いていけるように......そんな彼女たちの願いが音になって、会場を満たしていく。会場にいるひとりひとりが、それぞれの孤独な眼差しで、ステージの上の、ハルカトミユキの孤独を見つめる、悲しくて、でもあたたかな光景。孤独とは希望だ。人は誰もが孤独だから、同じく孤独な誰かを想う。自分だけの、あなただけの生を肯定できる。
ハルカが力強くパーカッションを打ち叩く姿も観ることができた、死から生を漂う壮大なEDM抒情詩「火の鳥」、部屋の片隅から世界に手を伸ばすような、小さくて、でも切実な叫びの歌「青い夜更け」、そして、ハウス・ミュージック的な多幸感を昇華した流麗な音の粒が、星空に届きそうな勢いで溢れ出た「宇宙(そら)を泳ぐ舟」。これらを経て最後に演奏されたのは、新曲「LIFE」。このフリー・ライヴに合わせて急遽制作されたミニ・アルバム『LIFE』には収録されていないが、しかし同じタイトルを冠したこの曲もまた、この日のために、そして、野音にいたすべての人々の、この先の人生のために生み落とされた1曲なのだろう。集まった人々の"LIFE=命"をすべて包み込むような優しく雄大なメロディが印象的な素晴らしい曲だった。年内に予定されていたフル・アルバムの発売は延期になってしまったが、この日から1年をかけて日本全国各地でライヴをやること、そして1年後には再び、この日比谷野音でライヴをやるという新たなマニフェストも発表された。そう、1年後に、僕らはまたここで出会うのだ。それまで、僕らはひとりで生きよう。悲しくて、でも喜びに満ちた日々を生きよう。ハルカトミユキがそうであるように。この孤独がまた、僕らを結びつけてくれるから。

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