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INTERVIEW

Japanese

This is LAST × YP

2020年12月号掲載

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This is LAST:菊池 陽報(Vo/Gt) りうせい(Ba) 鹿又 輝直(Dr)
映像監督:YP
インタビュアー:秦 理絵 Photo by うつみさな

-ここからは、最新アルバム『別に、どうでもいい、知らない』の話を聞かせてもらおうと思います。改めて、どんな作品ができたと思いますか?

陽報:今回は、今まで以上に"3人で作る"っていうことにこだわったんです。今までの2作品では、3ピースっていうものを意識したうえで、曲によってはストリングスとかピアノを入れて、僕ら以外の音っていうのも足すことで、120パーセントのいいものを目指してたんですけど。

-今回はどうして3人だけの音にこだわろうと思ったんですか?

りうせい:1st(2019年リリースの『aizou』)、2nd(2020年リリースの『koroshimonku』)でミニ・アルバムを作ったときには、"3ピースの限界ってここだよね"って、自分たちで限界を決めてしまってたんですよ。だから同期の音を足すことで、より音楽的な音楽を作ろうとしたんですけど。あるバンドと話をしてるなかで、"その限界って、本当に限界だったっけ?"って気づかされたんです。そのバンドは、ずっと同期なしで戦ってて。

-そのバンドというのは?

りうせい:シズゴ(the shes gone)です。彼らは同期に対しての考え方として、本当に今、出せる音の限界に達するところまでいったときに、同期を入れたいって言ってたんですよ。ただ、僕らがやってたのは、自分たちは80パーセントなのに、足りない20パーセントを同期で補って、100パーセントにしてたんですよ。僕個人で言っても、まだやってないベースの奏法はあるし、まだまだ全然やり尽くしてなかった。だから1回3人の音だけで戦えるところまでいきたいと思ったんです。

-バンドの原点に返ったわけですね。

りうせい:はい。それを実際にやってみたら、僕が限界だと思ってたのは、全然限界じゃなかったんですよ。今回は1曲も同期が入ってないんですけど、そう決めて、このアルバムを作ったあと、また新しくやりたいことが出てきてるし。まだまだ3人だけでやれることはあるなと思いましたね。

輝直:個人的にはライヴを想定したアクションにできたのは大きかったかな。

りうせい:より全員がプレイヤーになったよね。

輝直:うん。例えばAメロは手拍子をさせたい、サビは一緒にこぶしを挙げたい、Cメロはしっとり聴かせたいからこうだよね、とか。迷ったときに、"ライヴだったら"っていうワードで解決することが多かったような気がするんです。

陽報:レコーディングの方法も、今までは楽器を1つずつ重ねていく方法だったんですけど、今回は3人で一緒にスタジオに入って、一気に録ったんですよ。

輝直:だから寂しくなかったよね?

陽報:ライヴで鳴らしてる音楽を、そのままパッケージしたような感じですね。クリック(テンポをキープするためのメトロノーム)の音量も落として、基本的にはてる(輝直)のドラムをクリックにするから、最後にパソコン上で音を整えるみたいな作業もしてないし。

りうせい:衝動的なぶん、"THE 1枚目"みたいな感じになってると思います。

-ものを作る過程には、新しい道具とか方法論を取り入れることで進化するやり方もあると思うけれど、逆にプリミティヴなやり方に立ち戻ることで進化することもあって。今回のLASTは、あえて後者を選んだんだと思いますけど、YPさんは、こういう発想についてどう感じますか?

YP:すべてのクリエイティヴに当てはまると思うんですけど、過去を捉えて、未来を見据えるっていう、この行き来のシャトルランの回数が多ければ多いほど、いい作品が生まれると思うんですよ。過去に目を向けずに、未来だけを見ていると、薄っぺらい表現になりがちだと思うんです。新しいだけ、きれいなだけ、美しいだけって、何か意味があるんだっけ? と。それは、バンドでも、映像クリエイターでも同じだと思いますね。

-YPさんは、今作に対してどんな感想を抱きましたか?

YP:これまでの作品も聴かせてもらいましたけど、ちゃんとアップデートされた音楽になったなと思いました。全曲、MVを作れそうな曲ですよね。

陽報:それ、めっちゃ嬉しいです。全部リードのつもりで作ってるので。

-特に気になった曲はありましたか?

YP:「左耳にピアスをしない理由」が好きですね。僕はあんまり歌詞から入るタイプじゃなくて、メロディから入るんですけど、単純にメロディが好みでした。

りうせい:さっきも話に出ましたけど、事務所の中でリード曲投票をしたときに、最終的に「左耳にピアスをしない理由」と「ひどい癖」で争ったんです。で、集計をとったら、「ひどい癖」は女性票が圧倒的に多くて、「左耳にピアスをしない理由」は男性がほとんどだったんです。男性はやっぱりああいうゴリゴリしたロックっぽいのがいいんでしょうね。「ひどい癖」は四つ打ちで軽やかな感じなので。

YP:それは面白いですね。

陽報:「左耳にピアスをしない理由」のオケでやってることって、実はめちゃくちゃ王道なんですよ。だからこそ、メロディと歌詞には一番LAST臭さを出したいなって意識した曲ではありますね。

-今回のアルバムも9割が恋愛の曲になってますけど、そのあたりのバランスに関しては何か考えたことはありましたか?

陽報:やっぱり僕にとって、恋愛の歌が出てくるものが自然なんですよね。メッセージ・ソングとかは、本気で思ってないと書けないんです。前作(『koroshimonku』)で言えば、「ルーマーをぶっ壊せ」がそうでしたけど。歌って、本当に思ってる人が歌うからこそ伝わるし、言葉が出てくると思ってるので。正直、小さいころから日本の音楽を聴いて育ってるから、メッセージ・ソングも作ろうと思えば、作れちゃうんですよ。

YP:それっぽいものは。

陽報:そうです。でも、それがすごく嫌なんです。ちゃんと自分と向き合ったときに、自分の中から一番出せるものが恋愛ソングなんですよね。

りうせい:このバンドを組んだ最初がそうだったからね。

陽報:自分の中では、恋愛の曲には、まったくもって共感してほしくないですし。

-でも実際は"共感しました"っていう声も届くでしょう?

陽報:そういう感想を貰ったときは、"頑張れ"って思いますけどね(笑)。僕としては、ただ自分の書きたいことを書いてるだけで、それが回り回って誰かの支えになればいいかなっていうぐらいなんですよ。でも、逆に「病んでるくらいがちょうどいいね」みたいな恋愛じゃない曲は、めちゃくちゃ伝えたいことがあって言ってるので、そのベクトルが全然違うんです。

-ラヴ・ソングのほぼ全部が失恋の歌ですけど、「1mm単位の恋」だけは幸せな曲ですね。こういう曲を書こうと思ったきっかけはありましたか?

陽報:そろそろ僕の歌に出てくる男の子を幸せにしてもいいだろうっていうことですね(笑)。でも、最初は全然書けなくて。幸せな風景を思い出しても、悲しいことが一緒にくっついてきちゃうんですよ。楽しく会話してたけど、その裏で違う男とLINEしてるとか。で、"これはヤバいぞ"と思ったときに、じゃあ思いっきり振り切っちゃえと思って。幸せっていうカテゴリの中で出てくる言葉をいっぱい絞り出して、できるだけ自分の経験から毒素を抜いて書いていった感じです。

輝直:この曲って、幸せな世界線のあき(陽報)がパラレル・ワールドにいるかもしれないって感じだよね。

陽報:できれば、そっちの世界と入れ替わりたい(笑)。

-ここまで幸せな未来への妄想を書くとしたら、サウンドはアコースティックで温かい感じが似合いそうですけど、あえてノリのいい曲にした意図はありますか?

陽報:最初、そういう方向でも考えてたんですけど、そこはりゅう(りうせい)が天才だなと思いました。ふわふわした、浮世離れした歌詞に合わせて、圧倒的にハッピーにしてくれたんですよ。

りうせい:デモの段階ではアコギだったんですけど、なんとなくあきはこういうことをしたいんだろうなってわかったんです。それは兄弟の強みですね。そもそもあきは王道のやり方が好みじゃないんですよ。パンチを効かせないと認めない。あきの歌詞が変化球だったから、僕も変化球で返す。そういうところがThis is LASTなんですよね。

YP:これは、かわいい女の子を出したくなっちゃう曲ですね。

陽報:かわいい女の子とわたあめを出してください!

-個人的には「拝啓、最低な君へ」が好きでした。手紙形式のバラードですね。

陽報:これは菊池無双真っ只中だったので、5分経たずに書けました。

YP:あ、そうなんだ。

陽報:完全に自分の過去のことなんです。ちょうど2、3月に作ったからかもしれないんですけど、アルバムを一緒に見返していたときの愛しい感じがリアルに蘇ってきたんですよ。この気持ちを忘れたくないなと思って書いた曲ですね。

-"過去の気持ちを忘れたくない"とか、"お互い最低だったね。でも、やっぱり好きだったよね"みたいなことをシンプルに書いた曲だと思いますけど。結局、すべてのLASTの失恋ソングの根っこにあるのはこの感情だなって思ったんですよ。

陽報:あぁ、本当にそうだと思います。自分も相手も最低だったんですよ。今になって、"髪型をちゃんとしなさい"だとか、"起きたら、ちゃんと着替えなさい"って言ってくれてたことを思い出したりするんですけど。それ以外のところでも、きっと僕はちゃんとできてなかった。その子に対する最善をとれてなかったなって思うんです。自分も最低だなと思ったら、相手との嫌な思い出もあるけど、それ自体を愛せるというか。変な気持ちになるんですよね。悲しかったはずなのに温かい。いろいろな気持ちが入ってきて、これはすごく人間味のある感情だなと思いましたね。

輝直:これは本当にあきだなって思う曲ですよね。

陽報:あ、嬉しい。僕、正直世間に認められるよりも、メンバーにそう言われるのが一番嬉しいんです。いつもそこを目指して頑張ってるところはあるんですよ。

YP:それこそ、この曲はTikTokでバズりそうな歌詞でもありますよね。

陽報:あ、それ、この曲に関してはわりと言われますね。まったくその気はないのに。

YP:これだけTikTokで弾き語りを上げてみたら?

陽報:それ見たら、"あ、(魂を)売ったな"と思ってください。

一同:あはははは!

-(アルバムの)タイトルを"別に、どうでもいい、知らない"にしたのは?

陽報:自分が、当時お付き合いしてた人に、よく言われた言葉だったんですよ。

YP:それも実体験なんですね。

陽報:はい。都合が悪くなったときに、"別にどうでもいいんだけど"って言われると、これ以上は言ってこないでっていうキープ・アウトのサインだったんです。例えば、先週の土曜日に約束してたのがダメになっちゃったけど、Twitterで別の男性と違う場所にいる写真を見つけちゃったときとか。"お母さんとどっか行くって言ってたよね?"っていうのを遠回しにして"先週、お母さんとどうだった?"って聞くと、"別に"って言われる。その思い出にいつまでもビビってられないから、言い返してやるっていう気持ちを込めてタイトルにしました。負けねぇぞっていう。

YP:そういうのがタイトルになるのは面白いですね。

-最後に対談を終えてみて、YPさん、LASTの印象は変わりましたか?

YP:お互いクリエイターとして、表現したいことが近いなと思いました。

-具体的に言うと?

YP:自分の信念を曲げないところですね。世の中がどうとかじゃなくて、こだわりを持ってる。当然、PR的には世の中のことも意識してるけど、それを第1に持ってくるんじゃなくて、自分たちが積み上げてきたものが結果として世の中でバズったりしたら、"まぁ、バズっちゃったんすよね"ってニヤニヤしながら受け止める(笑)。そういったところが僕の感覚にも近くていいなと思いました。

陽報:そう言ってもらえると、嬉しいです。とにかく今回はYPさんのおかげで、すごくいいミュージック・ビデオができたので。この場を借りて、感謝です。ありがとうございます。

輝直:以下同文です(笑)。