Japanese
ニノミヤユイ
2020年01月号掲載
声優として活躍する"二ノ宮ゆい"が"ニノミヤユイ"としてアーティスト・デビュー。彼女のデビュー・アルバム『愛とか感情』が完成した。表題曲「愛とか感情」は、欅坂46の「サイレントマジョリティー」や「不協和音」で知られるバグベアが楽曲提供。その他にも佐藤純一(fhána)やカノエラナなど、気鋭の作家陣が本作に参加している。ニノミヤユイがひとりのアーティストとして、クリエイターたちと、そして自分自身と向き合い、内に秘めた"陰"と"反骨精神"を昇華したデビュー・アルバムに迫った。
-今回の作品を聴かせていただいた第1印象は、"ニノミヤユイ"というアーティストとして"自分のやりたいことを表現しよう"としている姿勢がハッキリと伝わってきて、すごくいいなってことでした。
ありがとうございます!
-言われるがままにやってる感じではなくて、自分の表現したいものを考えながら今回のアルバムを制作したのかなって思ったんですけど、実際はいかがでした?
そうですね。作曲家の方々ひとりひとりと会ってお話しさせていただいて、私の内面的な部分を聞いてくださってから全曲作ってもらっているので、本当に"指示されるだけの曲"がまったくないんです。全曲"自分が関わってるな"って思いながら作ったので、どれを表題曲にしてもいいなっていうくらい、思い入れがある曲ばっかりですね。
-たしかに、曲調も様々なので表題で迷いそうですね。ロック・サウンドもあればポップス調の曲もあって、そういう意味ではどの曲かは必ず誰かに刺さるような感じの印象を抱きました。
歌っていることは"自分の弱いところがあって――"みたいな感じなので、私と同じような性格の方というか、"陰キャ"っぽい人も"わかるわかる"って歌詞に共感してもらえると思いますし、曲調から好きになってくれる方もたぶんいるのかなと。そういう意味ですごくいいアルバムというか、いろんな人に好きになってもらえそうですよね。
-今回"声優 二ノ宮ゆい"が"アーティスト ニノミヤユイ"として活動をすることになったきっかけや経緯はなんだったんでしょう?
去年の暮れぐらいからいろんな先輩のライヴを観に行かせてもらったりするなかで、"いつかこういうことができたらいいね"みたいな話をスタッフさんとはしていたんですよ。そうしたら年明けぐらいに"Lantisからアーティスト・デビューします!"と突然言われて(笑)。すごくびっくりしたのは覚えてますね。そのときはまだ芸歴1年くらいだったので、"こんな私が......デビュー?"みたいな。でも、やるからには声優としてはもちろんなんですけど"アーティストもちゃんと本業だよ"って、胸を張って言えるようにしっかり向き合ってやっていきたいなと思いました。
-急に言われたとのことですが、ニノミヤさんに"陰キャ"な部分があることは、そのタイミングで周りの方も知っていたんですか?
そうですね(笑)。私の内面的なことはいろいろ知ってくださったうえでだと思います。
-そういう面も見て"もしかしたらアーティストとして表現するにはいいのかもな"って思われたのかもしれないですよね。先輩のライヴを観ていて"いつかやってみたい"と思っていたという話がありましたけど、実際にアーティストとしてやるんだったら"こういう表現をしたい"とか"こういう活動をしていきたい"みたいな具体的なイメージはそのころからあったんですか?
"心を突き動かす音楽"というか、痛いくらいに、聴いただけで苦しいって感じるぐらいの曲が好きなんです。擦り切れるような声とか、絞り出すような声とか、そういう身を削って自分の痛いところも曝け出すような表現ができたら、心を動かされる人がいるのかもしれないなって。自分の内面の弱さを削りだしていくような、そういうことを必死でやりたいなって思いました。
-アーティストとひと言で言っても、例えばバンドやアイドルみたいな形や、言ってしまえば音楽以外でも、画家みたいに、いろんなアーティストがあるじゃないですか。"ニノミヤユイ"というアーティストはシンガーに一番近いのかなと思うんですが、表現の方法として"歌"を選択した理由はなぜだったんでしょう?
歌を歌うことがすごく好きだったので"自分の歌で誰かの心を動かせたらなぁ"っていう気持ちはありましたね。
-では、歌において影響を受けたアーティストや、憧れているアーティストみたいな存在はいましたか?
私の音楽のルーツみたいなところがボカロ(ボーカロイド)から始まっていて。小学4年生くらいのときにボカロに出会って、そこからドハマりしていろんな曲を聴きました。ボカロに価値観も洗脳されているというか、自分の考えとかもボカロの曲で形成されている部分が大きいんです。ボカロってまだサブカルチックなところがあるので、"社会に反抗する"みたいな曲もすごく多くて。なので、そういう反抗心のようなところは(自分の)根底にあると思います。
-ボカロからスタートした音楽遍歴は、その後どうなっていったんですか?
ボカロから入って、アニソンに行って、やっと今バンドに辿り着いたって感じなので、邦ロックを聴き始めたのは最近なんですよ。バンドの中でも、ボカロチックな部分があるバンドさんを好きになって聴くことが多いです。
-そうやって音楽の幅を広げていったものが今回のデビュー・アルバム『愛とか感情』に生きていそうですね。
そうですね。制作する期間は歌詞も書かせていただいたんですけど、自分が普段考えていることを客観的に見ないといけなくて。"自分ってなんなんだろう?"って改めて考える機会になったんです。そうして、自分を表現するためのツールというか、引き出し的なものが足りていないなって感じたんです。"引き出しを増やすためにもいろんな音楽を聴かないと"って、いろんな音楽とか歌詞を見たり聴いたりして"自分が本当に言いたいことってなんだろう?"ってすごく考えました。その経験がそのままアルバムに反映されてるんじゃないかなって思いますね。
-なるほど。インスパイアされた具体的なアーティストや作品って思い浮かびますか?
さユりさんを最近よく聴くんです。最初に聴いたときの印象が強烈で、あの擦り切れる声というか、叫びにも近い感じが、ちょっと痛々しいような感覚になると思うんですよね。そういう表現がすごく好きだったので、私も"聴いただけで痛くなるような声"というか、苦しくなるような声で、人の心をいい方向だけじゃなくて、時には悪い方向にも引っ張りたいなってすごく感じました。そういう部分はさユりさんの歌い方を研究してましたね。
-『愛とか感情』は音楽ジャンルのバラエティが豊かですけど、曲調については各提供アーティストと話していったんですか?
話していくなかでできあがっていく曲ももちろんあったんですけど、最初から一曲一曲のテーマみたいなのがあったんです。「愛とか感情」のようにTHEリード曲、カッコいい曲みたいなのもあれば、"ちょっと背伸びした女の子の曲"とか、ライヴでめちゃくちゃ盛り上がる曲、とか。一曲一曲のテーマを設けたうえでクリエイターさんをセッティングしてくださったので、最初からある程度の設計図があるうえでの制作でした。その設計図をもとに、どんどん形になっていくのがすごく面白かったですね。
-たしかに興味深い作り方です。全体の印象として"陰キャ"の性格が表れたような歌詞が多いなかでも、単純に"この人暗いな"というだけじゃない印象を受けたんですよ。ニノミヤさんの中での"陰キャ像"が表れているように感じました。
"陰キャ"って、気弱で、根暗で、ネガティヴで、オドオドしてるというか、いろんなことを心配しながら生きてる、みたいな暗い感じのイメージですよね。私もそういうところが多くて、ネガティヴで、心配性で、疑い深くて(笑)。私がこういう感じなので、周りの友達も同じ気質を持った子が多いんですよ。でも、その子たちと話してると、やっぱりみんな内に秘めてるものがしっかりしてる子が多いんです。"本当はこういうことが言いたいし、こういうことを不満に思ってるけど、自分の心配性とかネガティヴなところが邪魔してなかなか言い出せない"みたいな子が周りに多くて。私もそうだったからこそ、アーティスト活動という発信する場所を貰ったので、"こういう感情を発信できるのは私なんじゃないか"と思ったんです。
-アーティスト資料に書いてある"陰を代弁する"というのはそういうことなんですね。
持っている"芯の強さ"というか、"陰キャ"が抱えてる"本当はこういうことを思ってるんだ"という思いを代弁したいんです。弱くてオドオドしてるだけじゃないんだぞ、みたいな(笑)。そういうちょっとした反骨精神的なものはあると思います。
-作品のテーマとしてもそういうイメージでしたか?
反抗心がむき出しというか、"こんな世界は間違ってる!"みたいなのが私は好きなんです。うまくいかないことも多いし、私の経験的に"1番になりたい"って思ってもなかなか1番になれないことがすごく多かったんですよ。3位とか4位とかまではいけるけど、1位はとれないみたいなことを短い人生の中で多く経験しました。その悔しい思いが私の心の底にあって、だからこそ反骨精神がすごくあると思うんです。"私だって特別になりたいし、1番になりたいんだ!"っていう気持ちを持って、誰かにこの想いを衝撃として、インパクトとして届けられたらいいんじゃないかなっていうのは常に考えてました。
-そういう作品のイメージや伝えたいことは、各作家に対して話していったんですか?
そうですね。基本的に私のパーソナルな部分だとか、"普段こういうこと考えてます"というのは全員に直接お話しさせていただきました。そこからいろんな質疑応答とかをして作り上げていただいた曲ばかりですね。
-そういう話の中で、特に印象に残ってるエピソードはありますか?
うーん......全員印象深いんですけど、佐藤純一さん(fhána)に提供していただいた2曲は特に深く話し合いながら作った曲なんですよ。2曲とも私が作詞をさせていただいてるっていうのもあるんですけど、こんなに作家さんとお話ししながら作れるとは思ってなかったので、すごく嬉しかったというか。作詞のアドバイスもたくさんいただきました。自分では思いつかなかった歌詞の持っていき方とか、そういうことを教えていただいたので勉強にもなりましたし、すごく思い入れが強いですね。貰った曲をただ歌うというわけではなくて、自分がちゃんとアーティストとして、発信する人として関われてるんだなっていうのが感じられたので嬉しかったです。
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