Japanese
カノエラナ
2019年12月号掲載
-カノエさんの曲は、フレーズや言葉に裏があって。あるいは、自分を客観視していて、第三者的にどこかで嘲笑っているような自分が存在していたりしますよね。
シンガー・ソングライターの勉強を始めたときに、私にいろいろと教えてくださった先生から"とにかく奥行きを考えろ"と言われて。サウンド面も歌詞の世界観に関しても、どれだけ一筋縄でいかないようなアプローチをできるかによって、そのソングライティングの力が下がっていくのか、上がっていくのかに明らかに差が出てくるから。とにかく相手の裏をかけっていうのは常に言われてきていたんです。そこはずっと続けていこうというのがありました。
-そこがカノエさん自身の性格ともマッチした感覚ですね(笑)。
はい、うまい具合に寄り添っていってしまうという(笑)。
-また、「嘘とリコーダー」は青春期を描いている曲で、これも一見あるある的な曲ではあるんですけど、ものすごい背徳感がある曲になっていて。
誰しもが通る道っていうのは歌っておこうかなと思ったんです。そのアプローチの仕方として、青春って眩しいだけじゃないし、みんな間違いを犯してどこかしらそれを秘めて大人になっていくというのがあるなと。自分自身では全然大人になれていないと思っているので、そういう懐かしさというか、ちょっと苦い想い出とかもスパイスとして入れてみた曲なんですけど、まさかリード曲になるとは......という。
-こんなにザワザワさせる曲がリード曲なんですか。
聴き手によって受け取り方が違う曲だと思います。嫌だなっていう人や、そんなこともあったなっていう人、あとはこれから体験するだろう人、それぞれ全然違う聴こえ方をする曲だろうなって。
-もっと笑い話的な共感ソングにもできそうですけど、それを違う角度から突いて、聴き手に密かな心の握手をさせるような曲になっちゃいましたね。
これって本人にとってはめちゃくちゃ深刻なことじゃないですか。もしかしたら、明日から学校に行けなくなるかもしれないという感覚でやらなきゃいけないので。レコーディングのときも、めっちゃ先生に怒られたこととか、苦しいことをたくさん思い出しながら、それをヴォーカルに落とし込むっていうのが難しかったんですけど、役に入り込むという意味では楽しかったですね。
-これは何が曲の発想の始まりだったんですか?
テレビで金管楽器の特集みたいなのをやっていて、その中でアルトリコーダーが出てきたときに、そういえばリコーダーでいろいろ事件とかあったなと昔を思い出して。私リコーダー結構得意だったなとか、分解するのめんどいんだよなとか、ティッシュめっちゃ詰め込んでたなとか、くだらないことをなんとなく思い出しながら、そういうエピソードを書いていったんです。そうやって昔こんなことがあったなとか、リコーダーから連想されるものを連想ゲームみたいにしてバーっと書いていったとき、これで1曲したためてみるかって、ルン♪っていう感じで書いたものなんですけど、意外と毒々しくなってしまって。
-(笑)
これ、世間的に大丈夫かなって思いながら恐る恐るスタッフに送ったら、"なんちゅう曲作っとるんや"って言われて(笑)。でも、この曲は意外といい立ち位置の曲になるんじゃないかっていうのは、音源を上げたときから感じました。ライヴで歌ったときのみなさんひとりひとりの表情が気になっちゃいますね。
-そうですね。そして「jOKER」は、これこそいろんな意味合いを含ませられそうな曲です。
そうですね。これは不思議のひと言で片づけられるように作った曲なんです。もともと自分の夢の中に出てきたエピソードから作り上げた曲なので、すべてがあべこべというか、本当じゃないという曲ですね。すべてが嘘でできているという意味合いでは、矛盾というところに近い曲なんじゃないかなと思います。
-以前映画"ジョーカー"のメイクをして、この「jOKER」を弾き語りしている動画も観ましたけど(笑)。
はははは(笑)。
-こうしてアルバムで仕上がったサウンドはジャジーな香りがするアレンジで、且つビザール感もあって、不思議なムードが満載ですね。だいぶ印象も違います。
気分によってはちょっと楽しげにも聴こえるんですけど、落ち込んでいるときに聴いたら暗い曲なんじゃないかなとか、なかなか面白い作り方だなと思います。この曲は基本的な骨組みは自分で作って、アレンジャーさんにそれを聴いてもらってブラッシュアップをお願いしたんです。それで返ってきたのがこれで。旅をたくさんしたような曲ですね。
-最初のデモ段階でこの匂いはあったんですね。
出だしのフレーズとかも自分がやっている通りになっていたので、やりたいことが伝わってるなというのがあります。
-カノエさん自身のアレンジ力というのもついてきた感じですかね。
そうですね。たくさんライヴをやっているから、やりたいこととライヴではやれなさそうだなということとの判断が、なんとなくつくようになったのかなと思います。
-そのなかでも今回は、ライヴということにより意識を置いたわけですね。
そうですね。メインがライヴなので、CDの録音を頑張るのは当然なんですけど、今の時代はやっぱりどれだけ生で見せることができて、クオリティが高いものができるかが一番じゃないかと思っているので。ライヴで歌が転んでいたり、演奏が転んでいたりするとやっぱり、もう1回観にいこうとは思わないじゃないですか。何回観にいってもいいなって思ってもらえるようにサウンド面でも頑張るんですけど、ライヴを視野に入れながら作っていくというのが、これからは重要なんじゃないかなと思います。
-まず動画で、アコギ1本で聴かせていて、それがいいなと思ってライヴに行くと、また違うバンド的なアレンジが施されるという発見があるものになっていて、且つ音源ではさらに緻密で世界観のあるアレンジになっている。ここはかなり曲の強度はもちろん"アレンジの良さ"、"面白さ"っていうのを試されるところですよね。
私の場合みなさんと作り方というか、見せ方が違っていて。先に音源が出るわけじゃなくて、先にアコースティック・バージョンの動画とかがあるんですよね。そういうデモ・バージョンが先に出ちゃうので、何回も楽しめるというか。アコギでこういう感じのアレンジがあるんだな。じゃあ次は音源でどうなるんだろうとか、アコギが旅してこんなに変わっているんだなとか。そういうのって、あまり他のアーティストさんはしないと思うんです。
-先に作り込まれた作品ありきで、そこから逆にアコースティック・バージョンというように変換していくことは多いかもしれないけど。
そうですよね。だから、そういう駆け引きを楽しめるんです。そこもまた普通とは違った矛盾をしている、面白いことができているので、知らない方にはそうやっているんだよというのを知ってほしいなっていうのはありますね。
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