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INTERVIEW

Japanese

照井 順政(sora tob sakana音楽プロデューサー/ハイスイノナサ/siraph)

2019年03月号掲載

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個性的な4人の歌声とそれらが混ざり合った美しいユニゾンで、聴き手をノスタルジックな世界へ誘うガールズ・グループ、sora tob sakana。彼女たちを支えるポスト・ロック、エレクロトニカを軸にしたサウンドのプロデュースを手掛けているのは照井順政(ハイスイノナサ/siraph)だ。今回、sora tob sakanaのメジャー1stアルバム『World Fragment Tour』が完成したことを受けて照井順政にインタビューを敢行。彼の口から語られたメンバーの過去と現在、今作の制作エピソードを知ることで、本作をより深く堪能できるのではないたろうか。

ハイスイノナサ/siraph/sora tob sakana音楽プロデューサー:照井 順政
インタビュアー:宮﨑 大樹

-2月17日にZepp Tokyoで開催された主催イベント"sora tob sakana presents「天体の音楽会 Vol.2」"を拝見しましたが、音楽性の高いアーティストが揃った見応えのあるイベントでした。ガールズ・グループが主催するイベントとしては異質なラインナップだと思いますが、そもそも"天体の音楽会"には何かテーマのようなものがあるんですか?

イベントのテーマというよりは今のsora tob sakana自体のテーマみたいなところで、"越境する"とか"ジャンルを飛び越えていく"みたいなところを大事にしていこうと。sora tob sakanaというユニットの立ち位置的に、当然アイドルのファンの方たちもいるし、バンドのファンの人も結構聴いてくれていたり、TVアニメ"ハイスコアガール"とのタイアップもいただいて、徐々にアニメのファンからも注目され始めたりというところもあって、そういった3つのジャンルを繋いでいける立ち位置ってあまりないのかなって思うので、そこを推し進めていこうという形でイベントにも反映した感じですね。

-"天体の音楽会"という名前にはどういう意味が込められているんですか?

sora tob sakanaはノスタルジーをテーマにしたところから出発しているので、モチーフが夜空、星空、天体観測とか、そういういわゆる青春みたいなところがスタートとしてあって、そのイメージをずっと一貫しているのと、星を線で結んで星座になる感じで、いろんなジャンルを繋いでいくイメージもありました。

-ブッキングは、いろんなジャンルを繋いでいくという基準でしているんですか?

そうですね。あとは主催ライヴということで、繋がりとか今までの関係値とかっていうものを大事にしたいとは思っていて、例えばJYOCHOさんだったら今回のsora tob sakanaのアルバム(2019年3月13日リリースのメジャー1stフル・アルバム『World Fragment Tour』)の曲を提供してもらっていたりとか、YURiKAさんだったら僕が以前楽曲を提供していたりとか、そういう繋がりも加味しています。

-JYOCHOは音源では聴いていたんですけど、"天体の音楽会"で初めてライヴを観させていただいて。それはもうめちゃくちゃカッコ良かったです。

カッコいいですよねぇ。そういうふうに新しく出会っていただくっていうのが目的なのですごく嬉しいです。

-sora tob sakanaはsora tob sakana band setとしての出演でした。バンド・セットとの相性の良さを改めて感じるライヴでしたが、照井さんの手応えはいかがでした?

バンド・セット自体はもう4、5回はやっているんですけど、何度かバンド・セットのメンバーの入れ替えがあったんです。今回に関しては3回連続くらいでほぼ同じメンバーでやってきたので、sora tob sakanaのメンバー4人も含めてバンド感というか一体感が高い、ライヴ感のあるステージができたのかなと思っています。

-続いて、今回のアルバムについて聞いていきます。まず、アルバムのテーマはタイトルの"World Fragment Tour"から感じるとおりの"旅"とか、そういうものですか?

そうですね。先ほど言った"越境する"というテーマはアニメだったり、バンドだったりっていう具体的なものもあったんですけど、今回は人生みたいなものも意味としてあるんです。自分の今まで見てきた世界の範疇じゃないところにどんどん顔を出して、境界を越えていくみたいなことをひとつのテーマにしつつ、大きなテーマとして、sora tob sakanaのメンバーが成長して、自我を持ち始めたなっていうのが僕の立場からしても実感できていて。

-自我ですか。

メンバーに出会ったのはまだ彼女たちが13歳とかのころだったので、"言われたことをしっかり頑張る"みたいな感じでした。自分たちの意見がそんなにはないという状態から始まったから、バチっと作り込んだ世界を渡して、その中で自由に振る舞ってもらうという形だったんです。その後、だんだん成長していくなかで今まで与えてきた世界観と齟齬が生まれ、自我がはみ出し始めたというのを感じていました。彼女たちって、自分たちの意思と反して大きくなってきたというか。もちろん頑張っている子たちだったんですけど、なんとなく順風満帆にいつのまにかここまできちゃったみたいなところがあって。だから与えられた世界の中を見てきたっていう感じだったんですけど、今回は自分の目と足で改めて世界と出会い直していくというのが、一番のテーマなんです。それを旅というか、ツアーという形に投影して落とし込んだというイメージですね。

-経験を積んで自我が芽生えて、曲とかに意見も出るようになったということでしょうか。

そういうところもありますし、音楽とか表現の内容っていうよりも、自分が何をしたいのかとか、自分が何をできるのかっていうことがだんだんわかってきたというか。やっぱり好きじゃないことを押しつけてやらせるっていうのはこっちもきついので......。今回は"こういうふうにやったら楽しいね"とかを見つけてもらうっていう、そういう意味では実験的な部分も多いんですけど。いろんなタイプのことをやってみるという意味合いが強いんです。

-少女らしい透明感のある声が合わさったときの、ユニゾンの美しさがsora tob sakanaの武器だと思っていて。でも、少女から大人になるにつれて声も変わっていくもので、グループにとっても変化が必要になる時期がくるのかもしれないな、と感じていたんです。そういう部分で、いろんなものを見て、見つけて、変わっていこうという感じから、"旅"というテーマなのかなと思ったんですよ。

ユニゾンについてはそう言ってくださる人が多くて、それは僕の手の及ぶところではない奇跡みたいなものですよね。4人の歌声にはそれぞれ個性があるんですけど、合わさったときに補完し合う関係というか、あれは本当に武器だなと思ってます。テーマについては、まさしくそんな感じです。やっぱりいつまでもノスタルジーじゃいられないっていうのがあって。1stアルバムから全部彼女たちの成長に合わせた地続きのものになっていて、今回が一番自分の足で出ていくような、そういう開けたものにできたらなって思ってましたね。

-そういうなかで今後の方向性みたいなものって今でも探っているんですか?

今回のアルバムを制作するときは、"彼女たちの育ってきた自我を生かしていく方向かな"って思っていたんですよ。彼女たちのマンパワーというか個性ありきで、自分がそれを輝かせるための装置を作るみたいなイメージだったんです。だけど、アルバムを作ったあとのミーティングで"今後どういうことをやったら楽しいか"という話をして、この方向を推し進めるというよりは、このアルバムを経たうえで、今までの方向をより一段階上で出すのがいいのかなって今は思いますね。

-曲についても聞いていきたいと思いますが、このアルバムはインストの「whale song」から始まります。

ライヴの出囃子でずっと使っているんですけど、それをどこかで収録したいなとは思っていたんです。EPとかだとあんまり入る隙がないし、全体の作品としての物語性みたいなものっていうのは、フル・アルバムの方がしっかり出せるので、このアルバムに入れようという話は最初からあったんですよ。そうして、アルバムのテーマが固まってきたときにそこに合わせて作り直したりとか、いろんな効果音を足したりとかしました。タイトルもその当時はまだなかったんです。

-この曲が1曲目に入ることによって、作品全体の物語性みたいなものが生まれているような感じがして。

そうなんですよね。壮大な物語が始まりそうな、そういうふうにしたいなっていうのはありました。