Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

Skream! 公式X Skream! 公式YouTube Skream! 公式アプリ

INTERVIEW

Japanese

嘘とカメレオン

2018年09月号掲載

いいね!

Member:チャム(.△)(Vo) 渡辺 壮亮(Gt/Cho)

Interviewer:秦 理絵

-アルバムを作るうえで、休止期間が影響した部分も大きかったですか?

渡辺:休止とかアルバム発売延期っていうなかで、いろいろな選択に迫られることがあったんですよね。特に印象的だったのが、全部書き直した曲もあるんです。実は、事故のときはレコーディングと並行しながら、アルバムを作ってる途中でもあったんですよ。だから、いったん僕も(ギターを)弾けなくなってしまったので、曲作りもストップして。で、休んで、鬱憤が溜まった状態で、改めて作りかけの曲を聴いたら、果てしなくダサかったんです。こんなもん世に出せねぇぞっていうぐらい。それで、レコーディングが迫ってたんですけど、メンバーに直談判して、"イチから作り直させてくれ"って言ったんです。

-書き直してできたのは、どの曲ですか?

渡辺:「手記A」と「青玉レンズ」、「テトラポットニューウラシマ」です。これができあがってみたら、群を抜いて自分の好きな曲になったんですよ。やっぱり自分の感性を信じるべきだなと思いましたね。周りに迷惑をかけたかもしれないですけど、自分が納得のいかないものは出さないぞ、と。そういう気持ちを思い出したんです。その前は、忙しすぎて、そういうつもりはなかったんですけど、多少の妥協があったかもしれないなって。

-交通事故みたいなことがあると、死を仮体験しちゃうんでしょうね。

チャム(.△):命にかかわる事故でもあったから。何も変わってないようで、価値観とか死生観が変わるんですよね。自分が本当に大事に思うものを見直す時間になったんです。

-チャム(.△)さんは車には乗ってなかったんでしたっけ?

渡辺:彼女だけ乗ってなかったんですよ。

チャム(.△):前日に地元の広島に帰っていたんです。

渡辺:いつもはツアーもインストアもずっと一緒に回ってて、今まで1回も一緒に来なかったことがなかったんだけど、その日だけ乗ってなくて。男子全員が乗ってて、俺らはケガを直すのに専念してたけど、なまじ彼女はケガをしてないから、考えることが多かったみたいです。その間に感じたことを書いたのが、1曲目の「百鬼夜行」ですね。見た瞬間に一発でわかるぐらい、治療期間の嘘とカメレオンのことが描かれてるんですよ。

-そうなんですか? そこまでリアルなことは感じませんでしたが。

チャム(.△):「百鬼夜行」は、嘘カメが作った初めての妖怪の歌っていうポップな感じでは言ってるんですけど、この曲に込めてるのは、世の中の魑魅魍魎を一蹴してやるっていう気持ちなんですよね。事故のあとで作った「手記A」も同じことをテーマにしていて。"ジキル博士とハイド氏"をモチーフにして、人間の表と裏の二面性を書いたんです。黒い面を持った人たちがいるけど、それでも世の中を楽しんでいけたらいいなっていうところに落とし込みました。

-今言った"ジキル博士とハイド氏"もですけど、チャム(.△)さんの歌詞には文学作品がよく出てきますよね。「N氏について」は、星 新一(※著書に"エヌ氏"という人物が頻繁に登場する)のオマージュですよね?

チャム(.△):それ、よく言われるんですけど、違うんです。あんまり意識してなくて。

-じゃあ、「モームはアトリエにて」は、サマセット・モームからきてるんですか?

チャム(.△):そうですね。私の音楽のルーツは本からきてるんですよ。

渡辺:結局、音楽がMichael Jacksonだけなので、それ以外の芸術作品、映画とか絵画からインスピレーションを受けることが大きいんですよね。

チャム:あの本の、あの1ページの、あの1行の煌めきを曲に落とし込みたいなっていうので歌詞を書いてるので、"文学性がある歌詞ですよね"って言われることが多いですね。

-あと、「JOHN DOE」に出てくる"はないちもんめ"とか、「フェイトンに告ぐ」の"かごめ かごめ"とか、童謡が歌詞に出てくることも多いですよね。

チャム(.△):それも好きなんですよね。『ヲトシアナ』のひとつ前のアルバムが『「予想は嘘よ」』(2017年リリースのミニ・アルバム)という初めての全国流通盤だったんですけど、日本語ならではの言葉遊びを作りたいなと思って、タイトルは回文になってるんですよ。わかる人だけがわかる暗号みたいなのが私たちの曲にはいっぱい入ってるんです。

-そのうえで、チャム(.△)さんの歌詞は単なる言葉遊びで終わってないような気もします。

渡辺:意志があるんですよね。

チャム(.△):たしかに言葉遊びだけで作ったものは1曲もないですね。

渡辺:雑談の中で話してる人の価値観とか人生観が見えるシーンがあるじゃないですか。それとまったく同じことが歌詞にも入ってますからね。普段のチャム(.△)が考えてることが、そのまま歌詞に出てるなっていうのは、近くにいるとすごくわかります。