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FEATURE

Overseas

MUTEMATH

2016年02月号掲載

MUTEMATH

Writer 石角 友香

MUTEMATH、約4年ぶりのニュー・アルバム『Vitals』の日本盤がいよいよリリースされる。その内容について書く前に、前作『Odd Soul』リリース後の2011年の単独来日ライヴに行けなかったことが、今さら悔やまれる。マス・ロックばりにテクニカルなリズム隊と、ブルース/ガレージからサイケ、ダブのニュアンスを融合したあのアルバムの実験性はもとより、フロントマンのPaul Meany(Vo/Pf/Syn)は、ゴムボート状のものに乗ってフロアに突っ込んでいったとか(キュウソネコカミより早いんじゃないでしょうか)、そもそもオープニングからメンバーがプロレス入場したとか......とかく、きっちり演奏しておしまい、もしくは単にカオスになりがち、といった海外アーティストへのイメージがあるとしたら、MUTEMATHはそうした先入観をきれいにブチ壊してくれるバンドなのだ。
 
さて、今作には新しいギタリストが加入している、そのわりにはさほど生音寄りのサウンド・プロダクションは施されていない。そしてあのバカテク・ドラマーDarren Kingのドラミングも楽曲を支える屋台骨として確かな存在感はあるにしろ、かつての変態プログレと称された手数の多いプレイは影を潜めている。じゃあ何が特徴的なのか?と言えば、ご多分にもれずシンセ・サウンドである。しかも冒頭のTrack.1「Joy Rides」はNile Rodgersばりの16ビートのカッティング・ギターと懐かしめの80s風シンセだ。このファンクネス/ソウルの世界的な潮流は、COLDPLAYの新曲「Adventure Of A Lifetime」(2015年リリースの7thアルバム『A Head Full Of Dreams』収録)然り、日本のネオ・シティ・ポップその最大公約数とも言える星野源にも通じる感覚だと思う。まあ、MUTEMATHに関しては、ファンク云々以上にメンバー全員が、より様々なシンセ・サウンドに積極的にコミット、担当楽器もスイッチするバンド・スタイルが生み出すケミストリーによる部分が今回は大きい。
 
Track.2の「Light Up」はいい加減、四分キックに飽きつつも、EDMのサウンドスケープが好きなリスナーにも十分リーチしそうな楽曲としてのエンタメ性の強度があるし、ブルースやソウルのフィーリングを持ったPaulのヴォーカルをうごめくシンセ・サウンドの空間演出で、新しいポップ・ソングとして聴かせるTrack.8「Used To」、ハイテクな生ドラムやベース・プレイをあえてミュートした音像で淡々と聴かせるTrack.10「Bulletproof」など、"変態プログレ"を通過して、パッと聴き、非常にポップに聴こえつつ、各々の楽器の役割を再構成したようなサウンド・プロダクションを構築しているあたり、さすがMUTEMATHと言わざるを得ない。しかも、アルバムの最終章に向かうにしたがってホーリーでメランコリックなTrack.11「Safe If We Don't Look Down」、恐らくシンセで作ったサウンドなのだろうが、ハープシコード的な神々しさが印象的なラスト・ナンバー「Remain」(Track.12)で、このバンドのもうひとつの大事な側面である浮遊感やメランコリーが醸成されてゆく。また、タイトル・トラック(Track.6「Vitals」)はインストで、オルガン、生ドラム、シンセ、声のサンプル的なコーラスが脈動のようにグルーヴするナンバーになっているのも、彼らが今回のアルバムに特定のテーマを掲げず、"Vital"なイメージを共通認識として制作に取り組んだのでは?と想像してしまう。
 
因みにすでに本国USではオルタナティヴ・チャート2位、ロック4位、総合で49位を獲得している本作。自主レーベル"Wojtek Records"からの初リリースだが、むしろ以前より美しくエモーショナルなヴォーカルを軸に据え、歌を聴かせるプロダクションとして、どんなエレクトロニック・サウンドが今のMUTEMATH、ひいては幅広いリスナーを魅了するのか? いい意味で計算された王道なき時代のひとつの指標になりそうなアルバムに思える。

 

MUTEMATH
4thアルバム
『Vitals』
Mutemat_jak.jpg
2016.02.24 ON SALE
HSE-6038 ¥2,400(税別)
[Hostess]
amazon | TOWER RECORDS | HMV
※日本盤はボーナス・トラック、歌詞対訳、ライナーノーツ付(予定)
 
1. Joy Rides
2. Light Up
3. Monument
4. Stratosphere
5. All I See
6. Vitals
7. Composed
8. Used To
9. Best Of Intentions
10. Bulletproof
11. Safe If We Don't Look Down
12. Remain
13. Somewhere Right(ボーナス・トラック)
14. Fine After All(ボーナス・トラック)

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