Japanese
Poet-type.M
2015年04月号掲載
カギカッコ付きの「自由」から、意志のある闇へのいざない
門田匡陽が抱く現行の日本のバンド・シーンへの違和感、もっと言えば嫌悪感から、オルタナティヴな道を示そうとしていることは、インタビューである程度伝わったと思う。そこで興味を持った人は実際にこれから1年に渡って展開される、曰く"これは1番新しいお伽話。夜しかない街の記憶。"という示唆的なコピーが打たれた連作『A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-』に、じっくり付き合ってもらえればと思う。
門田はGood Dog Happy Men(以下:GDHM)の連作『the GOLDENBELLCITY』の主人公が"その後どうしたのか?""彼は今、どこで何をしているのか?"も念頭にあったというが、もちろんこの作品から彼の音楽に出会う人もいるだろう。そこにTrack.1の「唱えよ、春 静か(XIII)」は打ってつけなのではないだろうか。"XIII"と名付けられて恐らくPoet-type.Mとこの時代を旅することになる人物はリスナーであるあなたを投影しやすいと思う。そして特筆すべきはなぜ、今回の連作を四季に分けて発表し、この第1作が"春盤"であるのかは、サウンドが作り出す温度感や風の匂いのようなものを最も端的に表わしているこの1曲目を聴いた途端、腑に落ちると思う。何といっても軽やかで、メロディが伸びやかだ。ポップスとしての強度すら感じさせるニュアンスはTrack.2の「痛いな、この光(Ticket To Nowhere)」にも受け継がれ、ピアノ・ポップ的なアプローチに新鮮な驚きも。そして音像の輝度はそのままに80'sのニュー・ウェイヴ感を更新したような、アルバムのサブ・タイトルでもある「観た事のないものを、好きなだけ(THE LAND OF DO-AS-YOU-PLEASE)」へと。そして冒頭に書いた門田が抱く現行のシーンに対する"NO"は続く「救えない。心から。(V.I.C.T.O.R.Y)」で明確な言葉として発される。トレンドから振り落とされまいとして、共感や感動を捏造しようとする姿勢や、モノ作りをする人間やそれを流通させる人間を含めた薄っぺらさや、それに端を発する窮屈さ。しかも門田のヴォーカルは憎悪や軽蔑の感情すら漂白されたようにニュートラルなのだ。そのことに痛快さを覚えずにいられない。そして後半にはGDHMでのジャンルレスで自由な楽団めいたアンサンブルが楽しい「泥棒猫かく語りき(Nursery Rhymes ep3)」。そしてラストにはZiggy Stardust時代のDavid Bowieを思わせるスウィンギンな「楽園の追放者(Somebody To Love)」が、まだ書かれていない、あなた自身の勇敢なストーリーへの1歩を思わず踏み出させてくれるだろう。言葉を容易に信じるなと言いつつ、厳選した言葉で聴き手の感情に異化作用を起こす、その手さばきの見事さたるや! ちなみにレコーディングは門田がギターやベース、シンセからパーカッションを手がけ、曲ごとに楢原英介(Gt/Pf/VOLA & THE ORIENTAL MACHINE/YakYakYak)、GDHMの元メンバーでもあり、SAKEROCKや盟友でもある星野源バンド、奥田民生と岸田繁とのサンフジンズなどで大活躍の伊藤大地(Dr)、門田とともにこのアルバム楽曲のアレンジを手がけた水野雅昭(Dr)が異なる組み合わせで共演していることも作品の自由度の要因になっていることは間違いない。(石角 友香)
窮屈な答え合わせはもういらない。取り戻そう、音楽と想像力を
Poet-type.Mというアーティストはとてもナイーヴなのだろうと思う。彼が綴る言葉の数々は過剰なくらいに繊細で、オリジナル。彼が紡ぐ音楽は雄弁で、芸術的。それはロックが、ポップスが作品たりえるうえで最低限の約束事でありながら、多くのアーティストの音楽はそれを裏切ってしまう。アーティストとして求められることと、創作主である自分自身との乖離。情報過多により麻痺した感性、鈍化したピュアネス。Poet-type.Mは、光を消すことでその一切を遮断した。
春夏秋冬でリリースされていくというコンセプト・ミニ・アルバム、"太陽が昇らない、夜しかない街の物語"4部作。その第1章、『A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-』は、夜空を駆けるようにきらびやかな音の星屑が飛び交う、ファンタジックな楽曲「唱えよ、春 静か(XIII)」がオープニングを飾る。この曲のキーワードはXIII=13歳。Poet-type.Mは中学1年生の感性をもって、物語をスタートさせたのだろうか。続く「痛いな、この光(Ticket To Nowhere)」では、前曲で"優しいよ 雨 雨 その音符"と歌ったはずの雨が"痛いなこの光 雨?"と歌われている。通り過ぎてきた思春期の記憶のような、瑞々しさと憂鬱さを併せ持った歌たち。そのひとつひとつが、小さな星の瞬きのように輝いて並べられていく。「泥棒猫かく語りき(Nursery Rhymes ep3)」では、副題にある通り童謡のような可愛らしくアコースティックなアレンジを配して爽やかに歌われるシニカルな歌詞で、アルバム全体になんともいえない絶妙なスパイスを与えている。ラストは「楽園の追放者(Somebody To Love)」で歌われる"無様な統制に許された自由など 無視して行こう"と明らかな意思表明で作品の方向性を示している。
このアルバムが提示するテーマは"今夜 未来の準備をするのさ 観たことのないものを そう 好きなだけ"と歌われる表題曲にあるように"想像力"。目にするものが多すぎて、脊髄反射で反応してしまいがちな日常。夢の中ですら、現実社会の煩わしさに侵されている。想像力の入り込む余地がないことは、創造力を失うこと。Poet-type.Mは"太陽が昇らない、夜しかない街の物語"を描き出す今作で、音楽に身を委ねることで得られる想像力、人々の心の拠り所になる音楽を取り戻すための創造力への挑戦をスタートさせた。
1年を通してコンセプチュアルな活動を展開していくというPoet-type.M。ミニ・アルバムのリリースとライヴを併せ、物語が進んでいく。情報のネオンを遮断した夜の世界で見る夢、想像。1曲1曲の小さな光を放つ星たちが集まりこの物語が完結したときに、夜空は明るくなっているだろうか? 目の前に何が見えるだろうか? あなたもこのミニ・アルバムを聴きながら、いろいろなことに想いを馳せることになるだろう。想像は自由。それは、間違っていても構わないはず。窮屈な答え合わせはもういらない。取り戻そう、音楽と想像力を。きっと、自分自身が生み出していく作品に、彼自身が1番期待を持っているのではないだろうか。果たして音楽で綴られていくこの物語が、この先どんな展開をしていくのか? 我々リスナーもわくわくしながら物語のページをめくっていこう。(岡本 貴之)
Poet-type.M
consept mini Album D&D 1st story
『A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-』
[I WILL MUSIC]
PtM-1030 ¥1,620(税込)
2015.04.01 ON SALE
amazon | TOWER RECORDS | HMV
1. 唱えよ、春 静か (XIII)
2. 痛いな、この光 (Ticket To Nowhere)
3. 観た事のないものを、好きなだけ
(THE LAND OF DO-AS-YOU-PLEASE)
4. 救えない。心から。(V.I.C.T.O.R.Y)
5. 泥棒猫かく語りき (Nursery Rhymes ep3)
6. 楽園の追放者 (Somebody To Love)
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