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FEATURE

Japanese

the HIATUS

2013年08月号掲載

the HIATUS

Writer 山口 智男

the HIATUSが7月31日、新曲3曲を収録したシングル『Horse Riding EP』をリリースする。3作目のアルバム『A World Of Pandemonium』以来、約1年8ヶ月ぶりとなるオリジナル音源ということもさることながら、足掛け1年半に及んだプロジェクトを完結させた彼らによる“新章の幕開け”、あるいは“新たなプロジェクトのスタート”を印象づけるに違いないとリリース前から期待されていた注目作だ。
振り返ってみれば、『A World Of Pandemonium』はアコースティックな質感のサウンドとポスト・ロック的とも言える音の響かせ方を取り入れる一方で、ジャズ、フォーク、ラテン、チェンバー・ポップといったさまざまな表現を試すことでバンドの意欲を印象づけた作品だった。そして、その試みがアルバムを完成させただけでは終わらずにオーケストラとの共演に発展したことを考えると、『A World Of Pandemonium』はエモーショナルなロックから舵を切ったまさにターニング・ポイントだったわけだが、今回の『Horse Riding EP』からはそこからのさらなる前進が聴きとれる。
細美武士(Vo/Gt他)、masasucks(Gt)、ウエノコウジ(Ba)、柏倉隆史(Dr他)、伊澤一葉(Key)というラインナップで完成させた今回のシングルはアコースティック・ギターのトリッキーなフレーズが印象的な「Horse Riding」で幕を開ける。フォーキーかつ、どこかクラシカルな響きも湛えたアンサンブルがその後、かき鳴らすエレキ・ギターも交え、ダイナミックに展開するポップ・ソングだ。1年8ヶ月ぶりにリリースする新曲という意味で、そのインパクトは十二分に感じられるが、パワフルな演奏や曲が持つ明るい調子とは裏腹に牧童が何らかの戦いに参加する――というふうにも読める歌詞のストーリーがイノセンスの喪失を思わせ興味深い。そのせいか、陽だまりの中で冷たい空気の流れを感じるような緊張がある。
ドラムの変拍子を軸にメンバーたちが静かに火花を散らしあうTrack.2「Don’t Follow The Crowd」。そのアンサンブルはジャズも連想させるが、感情表現と曲の展開を抑えることで醸しだした緊張感に、歴戦のプレイヤーが顔を揃えたミュージシャン集団としてのストイックかつクールな魅力が表れている。
『A World Of Pandemonium』に始まる一連のプロジェクトを通して、the HIATUSのメンバーがバンド・アンサンブルやそれが生み出すケミストリーに新たな可能性を見出したことは想像に難くないが、今回の作品もさらなるバンド・アンサンブルの追求とその結果、より有機的に絡み合うアンサンブルのおもしろさが大きな聴きどころになっている。
熱度満点のバンド・アンサンブルに現代のダンス・ミュージックにも通じるサウンドとエディットを加えたTrack.3「Waiting For The Sun」は、the HIATUSの大きな魅力である歌さえもアンサンブルを構成する1つの要素として、曲に取り込んだアレンジが今回の試みの集大成を思わせる。インプロ・パートが作り出す混沌に、流麗なピアノのフレーズが割りこみ、ギターとともに空間を広げていく終盤の展開がとてもスリリングだ。
3曲ともに密度の濃い仕上がりながら全体の印象は軽やかというところがいい。この夏、数々のフェスに参加後、the HIATUSはこのシングルをひっさげ、全国4ヶ所計6公演のショート・ツアーを行う。“新たなプロジェクト”で彼らが目指すところは?バンドの絶好調をアピールする滑り出しが今後の展開への期待を大いに募らせる。

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