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FEATURE

Japanese

ピロカルピン

2012年11月号掲載

ピロカルピン

Writer 大島 あゆみ

松木智恵子(Vo/Gt)、岡田慎二郎(Gt)、スズキヒサシ(Ba)、荒内 塁(Dr)からなるギター・ロック・バンド、ピロカルピン。5月にアルバム『蜃気楼』でメジャー・デビューを果たした彼らが、早くも2ndアルバム『まぼろしアンソロジー』をリリースする。あえて全曲新作で臨んだ前作に対して、本作は自主制作時代からバンドが大切にあたためておいた楽曲から最新の楽曲まで、“幻の存在”を軸に描かれた7曲を収録。コアなファンにとっては待望の音源化となる、まさに“幻”とされていた楽曲も盛り込まれた、バンドの歴史と今を感じられる蜜の濃い作品となっている。

バラエティに富んだ7曲の中でもリード曲の「桃色のキリン」は、バンドのルーツとも言える本作最重要曲であり、浮遊感漂うバンド・サウンドに、誰もが追い求めている理想を問いかける松木のノン・ビブラートの突き抜けた歌声が高らかに響くバラードだ。可憐さと切迫感が滲んだメロディは、ルーツと言うに納得のエモーショナルな思いと勢いが強く感じられる。続く「人魚」は、荒内が軽快に打ち鳴らすスネアと、踊るようにリズミカルなスズキのベース、松木の伸びやかな透明感のある歌声が交錯し疾走していく。ミドル・テンポのバラード「白昼夢」は、都会暮らしの末に生まれた虚無感を埋めるように、見たこともない景色を空想し思いを寄せる、痛々しいほどの思いを美しく表現している。

作品全体を通して日に日に寒さを増し、澄んだ空気が景色を美しく映す“冬”とシンクロして心に沁みる楽曲が多いのだが、その中でも「カンパネルラ」は、静寂のなか流れ星を探すようなキラキラとした壮大なサウンドスケープを描いた、この時期にぴったりの曲だ。ライヴでも披露されたことのない新曲「獣すら知らぬ道」は、なにか童話の一片を描いたようなストーリー性のあるリリックが、リアルさも同居した小気味よいアンサンブルを生み出している。それは言葉の響きを徹底的にこだわる、松木の独特の言語感覚があってこそだ。子守唄という意味の「ララバイ」もまた、幼い頃の謎を未だ抱えながら大人を生きる日常と、今忘れずにいたいという等身大の思いが込められており、聴くものをどっぷりとバンドの世界観に浸からせてしまう。7月に赤坂BLITZで行なったワンマン・ライヴで本作リリースの発表とともに披露された「火の鳥」は、ザクザクと刻まれる松木と流れるように奏でられる岡田のギター・アンサンブルが心地よい、表情豊かなポップ・チューンだ。キラリと輝く音も響かせるメロウなサウンド。“誰でも過去があり 今がある”と、生きる意味と未来を力強く問う、本作を締めくくるに相応しい1曲になっている。

11月19日(月)には、渋谷CLUB QUATTROにて本作の発売を記念したレコ発ワンマン・ライヴを開催。タイトルは“幻想シンポジウム vol.2〜まぼろしがまぼろしではなくなる日〜”。そう、この7篇におよぶ短編詩集はまだ“幻”なのである。ピロカルピンのバンド名の由来の1つである、“見えなくなった視界を取り戻す”ように、4人が自らの手で創造してきた目には見えない思いを、音を通して幻から現にする瞬間を、ぜひその目で見て感じてほしい。

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