秋をテーマに14人の物語を歌った14曲。恋に落ちる瞬間を描写しながらも哀愁漂うサウンドの「Magical」、小気味良いリズムとは裏腹に重く沈んだ心を映す歌詞が胸に迫る「Plastic Bag」、微笑ましいふたりの些細な幸せを切り取った「American Town」、別れを受け入れられず行き場を失った愛をエモーショナルに歌い上げる「Punchline」、ひとりで過ごす誕生日を切なくも軽やかなメロディに乗せ描いた「The Day I Was Born」など14のリアルなストーリーが、少し感傷的な秋の空気感を纏いパッケージされた。随所に深い悲しみを覗かせる歌詞は前作から通ずるところだが、綴られた美しい言葉たちはより文学的に。ぜひ歌詞カードを片手に聴いてほしい1枚だ。
Ed Sheeranは時代の空気を読むのがうまい。というか彼自身がもはや時代の空気そのものなのかも。2011年の『No.5 Collaborations Project』リリース時は、ADELEなど歌唱力の高いSSWが台頭すると同時に、ヒップホップやEDM系の尖ったアーティストたちがヒットを飛ばしていたが、彼はそんなトレンドに片足引っ掛けながらも大衆に媚びすぎない音楽で支持された。そして今作。Justin BieberやBrunoMarsをはじめとしたスーパー・スターを迎えてはいるが、売れ線コテコテのいやらしさはなく、自然体な姿勢が見て取れる。この10年で音楽の消費のされ方は劇的に変化したが、そんななか気軽に消費される完璧なシングル曲を集めて、語り継がれるアルバムを作るというのは奇跡だ。