Japanese
INORAN
Skream! マガジン 2022年11月号掲載
2022.09.29 @LIQUIDROOM ebisu
Writer 杉江 由紀 Photo by Yoshifumi Shimizu
自由で、力強くて、楽しくて。思春期の頃からロックンロールに魅了されたまま大人になってしまった人々にとって、この夜INORANがその場に生み出してくれた素晴らしい空間は、ひたすらに心地がよくて仕方なかった。
実に3年ぶりのツアーにして、INORANとしてのソロ活動25周年とも重なった今回の"TOUR BACK TO THE ROCK'N ROLL 2022"。何よりもこのツアー・タイトル自体に、INORANが抱いているのであろう感慨が託されていたのはきっと間違いないはずだが、ちょうど彼の誕生日でもあった9月29日に開催されたこのたびの東京公演は、昨年9月以来となるLIQUIDROOM ebisuでの帰還ライヴともなり、いろいろな意味でめでたいことが重なっていたと言えよう。
そして、そんなこのライヴの冒頭を飾ったのは、10年前に発売されたアルバム『Dive youth,Sonik dive』に収録されていた「One Big Blue」で、この曲の中では、いみじくも"What is lost can still be found when you stand here on the ground.(失われてしまったものもこの地に立てばあなたはまだ見つけることができます)"という歌詞が歌われることに。コロナ禍では意図してバンド編成での音楽制作を避け、いわゆる宅録スタイルで2020年9月の『Libertine Dreams』、2021年2月の『Between The World And Me』、さらに2021年10月の『ANY DAY NOW』と3部作を作ってきたINORANが、いよいよ3年の月日を経てバンド・スタイルでの全国ツアーを実現するところまで諸々の状況が整ってきたという事実と、ここで歌われた「One Big Blue」は実にいい意味で示唆的であったように思える。と同時に、10年も前に作られた歌が今現在にこそリアルなものとして響くことにも、興味深さを感じてしまったのは筆者だけだろうか。
"1年ぶりに恵比寿LIQUIDROOMへ帰ってきました! 今日はひとりひとりのみんなに向けてやっていくし、ひとつひとつの魂を精いっぱいためらわずに受け止めていくので......なんかごめん、感極まっちゃって言葉が上手く出てこないけど(笑)、みんなも最後まで楽しんでいってくれ!"(INORAN)
もちろん、こうしたINORANの感極まりぶりは、表情豊かな歌のトーンやエモいギター・プレイからも存分に感じることができた。また、INORANの"ソロ・ライヴでのドラマーは彼しか考えられない"という言葉通りに、このツアーのためにフランスから帰国したというドラマー Ryo Yamagata、MCではINORANから何かとイジられがちではありつつも、ひとたび弦に指が掛かればラウドな音で聴衆を圧倒するベーシスト u:zo、コンポーザーやプロデューサーとしても活躍する一方で、長年INORANのソロ・ワークスをサポートとしてきたギタリスト Yukio Murataといった、猛者たちが降りなすバンド・サウンドもひたすらにグルーヴィで、まさにそれはR&Rの醍醐味が凝縮されたものだったのである。
なお、本編中盤では「You'll see」の演奏を始めると思いきや、突如サプライズ的にINORANの誕生日を祝うべくステージ上にケーキが登場し、その唐突さにINORANが"え。(アンコールとかでもなく)今ここ!?"と苦笑するという微笑ましいひと幕もあったのだが、そこも含めてこの一夜は終始ハッピーであり、自由で力強くて、楽しい雰囲気に充ち満ちていたことは間違いない。このひとつの節目を経たINORANが、ここからさらにロックンロールしていってくれるのかと思うと、今から期待は膨らむばかりだ。
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