Japanese
あいみょん
Skream! マガジン 2019年04月号掲載
2019.02.18 @日本武道館
Writer 石角 友香
武道館の名前は知っていたものの、初めて場所を知ったのは昨年の銀杏BOYZのライヴで、"そのときここに立ちたいなと思った"と中盤のMCで話したあいみょん。14,000人が囲む八角形のセンター・ステージで2時間、弾き語りだけで18曲を届けたライヴは、この日のたった2ヶ月前に決定した。だが、彼女は浮き足立つことなく、曲ごとの情景を120パーセント、この日の彼女の心と身体で表現していた。むしろ弾き語りであることがシンガー・ソングライターとしての核心部分を伝えていた。イエローのセットアップを着こなし、背筋を伸ばしてアリーナ北側の扉から登場した彼女は、14,000人の視線の中心で「マリーゴールド」を歌い出す。最初は興奮から起こったクラップが曲の途中で止むほど、みんながあいみょんの歌に集中していた。軽く挨拶してグルーヴィな「愛を伝えたいだとか」をアコギのカッティングやブレイクで表現する彼女のギターのセンスにも瞠目する。歌と連動したギター、その身体性が一貫しているから成立する弾き語り。激しさや声量を競うような曲ではない。表現することがあるからここに立っている、その佇まいの凛々しさに圧倒される。可動式のステージに照れながらも、一方向ばかり正面なのも不公平だという意味合いで北側を正面にしたとき、筆者は彼女の後ろ姿を見ながら「恋をしたから」を聴いたが、背中でも呼吸しながら歌に魂を吹き込む彼女を確認した。弾き語りならではの自分のペースと1曲入魂の真剣勝負。そのぶん、MCではファンにはおなじみの"〇〇ちゃん"が会場に来ていること、関西での路上ライヴ時代では観客が10人いないことも多々あったことなどをユーモラスに話す。そんなエピソードを交えての「〇〇ちゃん」や「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」は、表現の原点を感じる生々しさを今に伝える。
途中、約20分の休憩。休憩を挟んだ意義を思い知ったのは後半の1曲目である「憧れてきたんだ」。ワンコードのストロークが加速してガツンと一発食らう。「今夜このまま」の終盤の転調でカポタストの位置を動かし、スムーズに歌う荒技(!?)にも参った。「どうせ死ぬなら」は彼女の影響源がずらっと並ぶ曲だが、後半のTシャツはJOHN LENNON & YOKO ONOの『Double Fantasy』のジャケットをプリントしたものだった。さらに「いつまでも」ではアドリヴで"ゴッホは死んだあとで天才と呼ばれたけど"と語り調で歌詞を突っ込み、生きている今、感知したことを歌い続けたいというあいみょんの軸が曝け出された瞬間だった。どんな評価も批難も生きてるからこそ実感できる、そんな想いに浸されたあとの「生きていたんだよな」は、目の前を通過する電車の風を身体に受けるような感覚に襲われた。弾き語りでこの映像喚起力は凄まじい。言葉と音が他者の中で画を描くことを、彼女は自分の経験を通じて知っている。本編最終盤には、このライヴのタイトルで彼女が生まれた年である"1995"について語ってくれた。西宮市生まれの彼女は阪神淡路大震災の2ヶ月後にこの世に生を受けた。誰の命も奇跡の結実だが、あいみょんが今生きていることを当たり前のことと思えない理由の一端を知った気がした。今ここに存在していることに感謝するほど、もっと作品を作りたくなる。生きたくなる。そんなメッセージに思えた。そしてラストは「君はロックを聴かない」。彼女が様々なロックで乗り越えてきた何か、それは確実に今ここで彼女の作る歌にバトンが渡されているように見える。あっという間で、二度とない2時間が終わった。
[Setlist]
1. マリーゴールド
2. 愛を伝えたいだとか
3. わかってない
4. 満月の夜なら
5. 風のささやき
6. 恋をしたから
7. 〇〇ちゃん
8. ハルノヒ
9. 貴方解剖純愛歌 ~死ね~
10. 憧れてきたんだ
11. 今夜このまま
12. ふたりの世界
13. どうせ死ぬなら
14. GOOD NIGHT BABY
15. いつまでも
16. 生きていたんだよな
17. 1995
18. 君はロックを聴かない
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