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LIVE REPORT

Japanese

moke(s)

Skream! マガジン 2019年02月号掲載

2019.01.18 @西荻窪FLAT

Writer 吉羽 さおり

町田直隆(Vo/Gt/ex-BUNGEE JUMP FESTIVAL)、海北大輔(Ba/LOST IN TIME)、小寺良太(Dr/ex-椿屋四重奏)によるバンド、moke(s)が1月18日に西荻窪FLATでスタジオ・ライヴを行った。この日のライヴは、ミニ・アルバム『BUILD THE LIGHT』のレコ発ファイナルであり、2月リリースのミニ・アルバム『GIVE MORE GEAR』発売前哨戦となるもの。ファイナルにして次の一手を打つ大事なライヴだが、その会場になぜスタジオを選んだのか。その話を訊くためにライヴ前の楽屋に向かうと、同スタジオで『GIVE MORE GEAR』収録の「デスバイサウンド」のMV撮影を行い、すでにライヴ1本分の汗を流した3人の姿があった。ちなみにこのスタジオは、町田がBUNGEE JUMP FESTIVAL時代に毎日のように通い、曲作りをしていた場所だという。

"バッチリ照明も音響も決まった、かっちりしたものを見せたいバンドだったら、スタジオ・ライヴはデメリットしかないと思うんです。でもmoke(s)がやっているのは生々しいロックで。ライヴハウスよりも下手したらスタジオ・ライヴの方が、バンドの持つ生々しさを伝えられるんじゃないかなと思ったのがきっかけですね"(町田)

"moke(s)は大手を振って世の中に、「moke(s)です!」と出ていくというよりは、耳の早い人が見つけてくれている現状だから。そういう人たちとこの会場の名前じゃないけど、フラットな目線で一緒にここからまた始めていこうよっていうのは、パンクのDIYの精神もあるし、グランジのようなある種整っていない歪なものの面白さを感じてもらえると思う"(海北)

スタジオ・ライヴと言えば、ロック・バンドより、DIYなパンク、ハードコアのバンドに馴染み深いもの。3人とも自身のバンドでこうしたスタジオ・ライヴを行うのは初めてだ。

"せっかく楽しいバンドをやっているから、いろいろチャレンジしたい気持ちがあるんです。今まで各々がやってきたバンドでは、きっとできなかったことなんですよね。僕は、パンクのカルチャーに影響を受けてきて。それこそ僕が好きなアメリカのハードコアのバンドって地元にライヴハウスがなかったりとか、音楽性ゆえに出演できなかったりもして、地元のガレージを借りたり、公民館の空室でライヴをやったりしていたんですよね。そういうのにどこかで憧れがあって。かしこまった場所じゃなくて、お客さんとバンドの距離が近い感じでライヴをやりたいなっていう憧れが、ずっとあったんです"(町田)

2014年に結成し、2015年11月にドラマーとして小寺良太が加入したmoke(s)。町田を中心に、LOST IN TIMEではフロントマンを務める海北がベースに徹し、椿屋四重奏以降は様々なアーティストのサポートのほか、ジャズ系のバンドでも活動をする小寺が、これまでのイメージとはまったく違うガレージ的なシズル感溢れるドラムをプレイする。

"例えばDave Grohl(FOO FIGHTERS/ex-NIRVANA)のような、ああいう洋楽のぶっ放すドラムの感じって、なかなか日本のロック・バンドのスタイルにはなくて。ああいうドラムの音って、技術じゃなくて人間の馬力が違うんですよね。僕もこういうドラミングはこれまでなかったんですけど、moke(s)はそういうことを試せる場でもあって。僕が入ってからふたりのアンプの音もどんどんデカくなって変わってきたので、俺は試そうと思っていろいろと研究していますね"(小寺)

"3人で最初に音を合わせたときに、町田君の音に合わせるかのように、小寺君がドッカン、ドッカンとドラムを叩いて。そこからグランジ・サウンドに寄っていって。3人で話していくうちに、「90年代」がひとつの共通項だねっていうところから、「あのころはこんなの聴いてたよね」、「もう、それやれば楽しくね?」っていう感じで。町田君はソロで活動していて、そこではソングライターとしての活動があるし、僕は僕でLOST IN TIMEの活動もあるし、小寺君もいろんな現場でいろんなプレイ・スタイルで叩いているので。そんな僕たちが集まったときはシンプルに楽しく、当時の僕らがかっこいいなと思って騙されちゃったロックを、騙されていたころの自分たちが、どうやったらできるかなっていう。そういうバンドにどんどんなっていった感じですね"(海北)

3人の新鮮な絡みが大車輪となって突き進んでいるのが今のmoke(s)。今回のスタジオ・ライヴは、そのソリッドなスピード感に肉薄したライヴだ。

"僕が昔やっていたバンドも、最初のころはmoke(s)がやっているサウンドに近かったんです。変わった理由は、その当時の時代の変化というか。いわゆるギター・ロックと呼ばれているタイプの音楽が台頭してきて、そういうのに影響を受けて自分がやっているバンドも歌に寄っていったんですよね。それはそれで結果的に良くて、自分のルーツになっているんですけど。心のどこかで、「あのときやりたかったことをやりてぇな」って気持ちがあったんですよね。なんで今、俺はこのバンドをやっていてすげぇ楽しいのかって思い返すと、あのときやりたいと思っていたけど中途半端になっていたことを、思い切りやれているから楽しいんだろうなって、最近気がつきました(笑)。あのとき、自分がやりたいことを貫くのか、それとも時代に合わせて変化していくのかという道があって。本当ならひとつの道しか行けなかったのを、奇跡的に今もうひとつの道を行っている感じがある"(町田)

70~80人入ればパンパンになってしまう会場を、やや緊張の面持ちの観客が埋め尽くす。おそらくは、観客にとってもこれが初のスタジオ・ライヴという人も多かっただろう。通常のライヴハウスのようなステージとフロアの段差や境目もない場所で、始めのうちは会場内にそわそわとした雰囲気が漂っていたが、moke(s)の3人が登場し、「BOY MEETS NERD」でライヴをスタートすると徐々に場内の温度が上がっていった。

事前のインタビューで小寺が"このスタジオはアメリカンな感じというか。通常のライヴハウスは吸音材が貼ってあるので、音を吸って「ガッ、ゴッ」みたいな硬い音がするようになっているんですけど、このスタジオは音がカンカン跳ね返る感じで。ガレージ感というか。「マキシマム!」みたいな感じがするよね"と語っていたのだが、まさにそのとおりの音場で、特にドラムのダイナミズムが最高に映える。ほんの1メートルくらいの距離から放たれる馬力ある爆音に、ビリビリとリアルに肌がシビれる感覚がある。同じ場所で他のバンドのライヴを観たことがないので比較はできないが、こんなにいい音がするものなのかという印象だ。

"DIYなステージで照明も固定だし一切飾りがないぶん、バンドがかっこ良くなければ全然かっこ良くないんですよ"(町田)

"そういうことでは試されるかもしれない。でも何も考えず、ロックをぶっ放せばいいんじゃない?"(小寺)

その言葉どおり、『BUILD THE LIGHT』収録曲を中心に3ピースのほとばしるエネルギーを直球で投げるmoke(s)。90年代オルタナ/グランジやハードコアという、彼らのルーツを濃縮して結晶化したピュアなサウンドは、圧倒的なパワーがある。グランジな陰影のあるコード感でヒリヒリと暴走する「F.F.O」から「THORNS&PAINS」、そして「ログアウト」へという流れは前半のハイライトで、あまりのパワーに"ものすごい勢いで叩いたら、ドラムがズレたので直します"と小寺が笑顔を見せる場面もあった。海北がベース・プレイをしながら観客の中へとグイグイ突き進んでいくと、興奮と歓声が跳ね上がる。新作から「IDIOT HUMAN RANKING」、「デスバイサウンド」なども披露された。

町田はこのスタジオで曲作りをしていたころの話をし、また海北は20歳のころによく西荻のライヴハウスに来ていたという話をする。このmoke(s)は、それぞれの青春期から10余年を経た今、当時の音楽への衝動に立ち返ったバンドだ。いちリスナー、オーディエンスとしてかっこいい音楽に出会ったときの衝撃、爆音でギターをかき鳴らしたときの爽快感、グッド・メロディを生み出したときの全能感や稲妻に貫かれるような感覚を、音に宿すバンドである。ミニ・アルバム『BUILD THE LIGHT』、続く『GIVE MORE GEAR』は、そうしたmoke(s)という形を明解にしていった2作だ。だからこそ、彼らの今のリアルな温度感をすぐ側で味わえるスタジオ・ライヴという形をとった。こういった場所との相性の良さは抜群だ。

ライヴ後半は、町田、海北ともに観客の中へと飛び込んでいき、湯気の立ち上りそうな熱い汗を振り飛ばしながらプレイし、観客は拳を突き上げ、シンガロングする。会場内のロック、パンク濃度が上昇し、ラストの「果て」、そして熱いアンコールに応えての「ヒムス」まで全22曲。水浴びでもしたように全身汗だくの3人と、興奮で顔に笑顔が張りつきっぱなしの観客の姿が、このライヴのすべてを物語っていた。町田は、"この年齢になっても初めてのことができるのは嬉しい。このバンドだからこそできることだ"とMCし、moke(s)初のスタジオ・ライヴを締めくくった。シリーズ化もしたい、なんていう話も出ていたので、その際にはこのいい大人たちの、泥臭い青春の痺れを体感してもらいたい。

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