Japanese
Mrs. GREEN APPLE
Skream! マガジン 2017年06月号掲載
2017.05.19 @東京国際フォーラム ホールA
Writer 石角 友香
Mrs. GREEN APPLEというバンドをなぜ大森元貴(Vo/Gt)が構想したのか? そのヴィジョンが明らかになったツアー・ファイナルだった。彼らのライバルはバンド・シーンというより、有名なテーマ・パークだったり、日々、速度制限を気にしながら使うスマホだったりするのだ。音楽ライヴという未知の場所をティーンエイジャーにとってのナンバーワンにすること。そのために献身し、もちろん自分たちが最高度に楽しめるライヴをするというどデカい志が見えたステージだったのだ。
国際フォーラム ホールAの会場に入るとお馴染み"M"マークとミラーボールが場内を彩る。会場のざわめきは暗転とともに嬌声に転じ、ステージ背後にセットされたヴィジョンはまるで宇宙船のコックピットを思わせる宇宙の映像を映し出す。なんともワクワクするオープニング。登場したメンバーの衣装も、すでにツアーの写真がInstagramやTwitterにアップされてるとはいえ、ナマで見るといわゆるアメリカン・アイドル的な派手さが新鮮だ。特にプラチナブロンドに真っ赤な口紅の山中綾華(Dr)や、ショッキングピンクの髪色の髙野清宗(Ba)は、ステージでそのキャラクターをいかんなく発揮する。彼らのキャラが派手に進化していくのも、ステージ映えというプロ意識に裏打ちされているんじゃないだろうか。エレクトロニックな登場SEのビートからそのまま、じれったいような切ないような瑞々しいティーン・ポップ「Just a Friend」がスタートを告げる。大森のピン・ヴォーカルももはやデフォルトだ。シンセやSEも含む音像のバランスを勘案してか、はたまたホール・ライヴならではのアンサンブルのバランスからか、大音量のロックのライヴというより、歌を軸にすべての楽器が聴こえる音響で、ライヴ自体が初めてのオーディエンスも曲とステージングそのものを楽しんでいる。これは今回のツアー後半が初のホール・ツアーであることの大きな意義だし、ミセスがチャレンジしたかったことの実現でもあるだろう。
最初にポップなブロックでチアフルなムードを作り上げたあとは、ニュー・アルバムの1曲目「Lion」で、"誰かを知って"、"イェイイェイイェイイェイ"のコール&レスポンス、藤澤涼架(Key)のループするピアノ、転調に大森の地声からファルセットへとエモーショナルに展開するヴォーカルがスリリングな「ツキマシテハ」、三拍子なのに全然、牧歌的じゃない、髙野のスキルフルなベース・ラインはマスロック的ですらあり、求心的なアンサンブルも相まって心の奥へ奥へと迫っていき、バンド・Mrs. GREEN APPLEの軸と言える「絶世生物」までの流れで強烈なタフネスを刻みつけた。初見のファンへの気遣いを見せるMCを挟んで、映画"ポエトリーエンジェル"の主題歌でもある「soFt-dRink」が、音源以上にジェンダーレス且つ肉声の枠を超えるユニークな大森のヴォーカルで届けられ、続く「Oz」ではオートチューンも効果的なダンス・ロックで会場中が自由なアクションで満たされていく。一転、ストリングスを同期で導入し、そのドラマチックなサウンドに負けない若井滉斗(Gt)のリフ、そしてエンディングに向かうギター・ソロはNoel Gallagher顔負けの太くエヴァーグリーンな説得力を聴かせた「鯨の唄」。楽器の音色と演奏が生み出すケミストリーが、大森のヴォーカルをさらに劇的なものに後押しし、王道のロック・バラードというよりも、めくるめく展開を見せながら上昇する音楽の楽しさや強さを鳴らしきったという方がしっくりくる。ニュー・アルバムからのチョイスが占めたこのブロックは、同時にミュージシャンとしての5人の進化も印象づけるブロックでもあった。
その重厚感から一転、アコースティック・セッションでの大森のR&Bシンガー的な表現力にも瞠目したが、メンバー全員がしっかり腰を落ち着けてセッションに臨んでいるのも頼もしい。進行はスピーディだが、あくまでメンバーが牽引している。それもこの1年間の大きな成果だろう。
"好きに踊って!"という大森の一声から、初期からの定番「VIP」のイントロが鳴ると、ライヴハウスを想起させる盛り上がり。またエレクトロ・ダンス・チューンの「うブ」がむしろラウドロック風なノリを醸し出して、小さなヘドバンが起こっていたりも。"隣の人が手を上げたからとか、クラップしたからとか気にせずに、好きなようにノッてほしいんだよね"と、さらに大森がファンをフックアップ。藤澤も立体的なセットの上を縦横に踊りながら移動、ついにはフロアに降りて"自由に踊るってこんな感じ"と身をもって体現する。そこで演奏されたのは「うブ」に連なる印象のダンス・チューンで新曲の「WHOO WHOO WHOO」。低音も出ていて、かなり本格的なダンス・アンセムだ。パリピ感満載の2曲に続いては「スマイロブドリーマ」。大森、若井、髙野はステージ上に寝転がったままプレイし、なかなか起きない。もうなんだか漫画みたいだし、ステージ上がここまで自由ならこっちはどうやって応えてやろうか? と、だんだん気持ちのタガが外れていく。そこにザクザクとコード・カッティングに呼応するように大きなクラップが鳴り響き、泣き笑いしながらサビを歌い、ジャンプする人もいれば、腕を上げる人もいる「Speaking」へ。そういえば、この日のライヴ、フラッシュを使わないスチール撮影ならOKだったのだが、スマホをステージに向けている人をあまり見なかった。今、自分が見て感じていることがすべてであって、というか、スマホなんか取り出す気持ちになれない濃密さだったことを裏づけているように思う。
終盤にセットされた「In the Morning」はアッパーなナンバーではあるけれど、同時に"あなたにとっての本当を簡単に手放すな"というメッセージも含み、楽しみながら最もお腹に力が入ったのも事実。セルフ・タイトルのニュー・アルバムには海外のトレンドとも共振する楽曲も収録し、2010年代後半のキャッチーという武器で日本のバンド・シーンを切り崩す姿勢も見せたミセスだが、彼らへの信頼の根っこには、狂おしいほどの悩みや逡巡への共感があり、さらに言えばその渦中にある若い世代の心の深いところに寄り添い続ける覚悟に由来している。本編ラストをニュー・アルバムのラストであり、ここからまた始まるミセスのストーリーを告げる「JOURNEY」で力強く、ある意味、淡々と締めくくったのも非常に意志的だった。
喜び、楽しさ、そして少しの切なさ。そうした感情を音楽ジャンルを超え、洋楽、邦楽の壁も超え、一線級のアトラクションも顔負けの体感でめまぐるしく展開していくミセスのライヴは、このホール・ツアーでその選択に間違いがなかったことを確信させたことだろう。"今日、本当に感動しています"とまっすぐに言葉にした大森を始め、メンバー全員が自分たちの選んだ表現をやり遂げた清々しさをその表情に浮かべていた。
エレクトロ・ダンス・ミュージックも"ザ・日本の歌"たる「どこかで日は昇る」も、同じ生身の5人で体現して違和感がない20代前半バンドなんて、実際世界広しと言えどいないんじゃないだろうか。これからもMrs. GREEN APPLEは常識を超えていく。
[Setlist]
1. Just a Friend
2. HeLLo
3. アンゼンパイ
4. Lion
5. おもちゃの兵隊
6. ツキマシテハ
7. 絶世生物
8. soFt-dRink
9. Oz
10. 鯨の唄
11. 我逢人
12. Hug
13. VIP
14. うブ
15. WHOO WHOO WHOO
16. スマイロブドリーマ
17. SwitCh
18. Speaking
19. サママ・フェスティバル!
20. In the Morning
21. JOURNEY
en1. StaRt
en2. どこかで日は昇る
en3. 庶幾の唄
- 1
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
ASP
Skream! 2024年09月号