Japanese
フレデリック
Skream! マガジン 2016年02月号掲載
2015.12.22 @LIQUIDROOM ebisu
Writer 蜂須賀 ちなみ
この場に集まった人たちの目を見て会話したかったのだろう。アンコールに入るとまず、三原健司(Vo/Gt)が照明スタッフにフロアをできるだけ奥の方まで照らすよう指示をする。それから"ワンマン・ライヴは家、集まってくれたみんなは家族だと思ってる。だからあなた方ひとりひとりと大事な話をしたい"と語り始めた。昨年9月にドラマーのkaz.が脱退したこと。人としてのリズムに穴が開いた感覚があって、何を歌っていけばいいのか不安になったこと。そんなときにkaz.からの"4人で(バンドを)やってきたけど、健司、康司、隆児のリズムを支えてきたのはリスナーやライヴに来てくれるみんなだから。4-1=3じゃない、4-1=4やで"という言葉に救われたのだということ。"フレデリックはどんどん大きくなると思ってる。間違いない音楽を持っていると思ってる。だからこそ、Zepp、武道館、東京ドームでもワンマンしたいと思ってる。そのためにはあなたの力が必要です。4-1を4にするために、これからもフレデリックを愛してやってください"――そんな言葉のあとに演奏されたのは、「ハローグッバイ」。"守ってあげなきゃいけない未来は一番近くで待ってる君なんだ"と"君"の目を見て歌える幸福を握りしめ、自分たちはそうやって生きていくべきバンドなのだという覚悟を腹に据えた彼らは、このツアーを通してまた一段、バンドにとって大切な階段を上ったに違いない。アルバム『OTOTUNE』のリリース・ツアー"フレデリズムツアー2015"の恵比寿LIQUIDROOM公演。ツアー各地で"4-1"の"1"を補う家族と顔を合わせながら音楽で踊ることによって、バンドの芯が揺るぎないものに育ったのだということが伝わってきた。
1曲目は、ベコベコと歪に跳ねる三原康司(Ba/Cho)のベース・ラインが不思議な昂揚感を誘う「SPAM生活」。間髪入れずにエッジの効いたギターのカッティングから「DNAです」に突入すれば、約1年前のツアーではクライマックスを担っていた「オドループ」を早くも演奏だ。"フレデリックは今を歌うバンド"と語る彼らだが、目玉を常に更新していくようなセットリストからもその姿勢は読み取れる。シンセサイザーなどの同期音を取り入れても決して機械的にならないサウンドは、康司&今回のツアーでサポートを務めたAnyの高橋武(Dr)によるグルーヴが絶えず底辺に潜み、赤頭隆児(Gt)によるキテレツだけど妙にキャッチーなフレーズがスパイスとして効いているからだ。"おい恵比寿、もっと行けるだろ!?"、"(フロアを指しながら)俺たちはあなたと踊りたいんです!"と健司は語気を強めて煽りまくっている。天井に散りばめられた豆電球が星空となった「もう帰る汽船」では康司の情緒あるヴォーカルが冴えわたり、「ほねのふね」の"約束したら果たすまで/骨の船は進む""未来の為ならドブでも/死ぬ気で超えるわ"というフレーズが奇しくも今のフレデリックの姿に重なる。そして「うわさのケムリの女の子」ではスモークで会場がいっぱいに。"今な、「うわさのケムリの女の子」っていう曲で、煙ごっつう焚いたんや。お前らの顔全然見えへんわ。どうせブッサイクな笑顔で待ってくれてると思う"と話す健司の顔がこちらからまったく見えないほどのスモークの量に、あちこちから笑い声が聞こえてくる。そんな中、"見てこれ!雲の上にいるみたい!"とはしゃぐのが康司、"リキッドルームだからキリッと頑張ります"とダジャレを組み込みながら意気込むのが隆児である。
"後半戦、踊れる曲しか残っていません。俺たちは踊る曲でひとつの答えを持ってきました。あなたたちはどうしますか?"と「さよならカーテン」で幕を開けた通称"ディスコ・タイム"。「ディスコプール」では高橋の遊び心溢れるリズム・アレンジがバンドをさらに加熱させ、「プロレスごっこのフラフープ」での掻きむしるようなギター音が聴き手の胸を熱くさせる。ひと口に"踊る"と言ってもこのバンドが持つ"踊らせ方"は幅広いのだということを改めて実感。彼らの言う"踊る"とは、一時の欲求を満たすための機械的な行為ではなく、生きている間に抱く感情の波に全身を預ける行為のこと。"今が楽しい人は両手を上げてください!あんたの両手と俺たちの両手で今を超えていこうか!"という健司の言葉に応えてフロア一面に広がるのは手のひらの海。その波ひとつひとつを生み出しているのは、瞬間的な快楽ではなく、カタルシスに近い歓喜であろう。さらに"俺たちフレデリックのリズムとあなたたちひとりひとりのリズムで日本一、世界一になりたくて「フレデリズム」という言葉を作りました!"という康司の言葉をそのまま体現するかのように、「幸せっていう怪物」ではオーディエンス5人をステージに上げ、ともにセッションを楽しんでいく。上昇し続けるテンションの渦中で、"ワンマン・ライヴは目の前にいる人と何を作るのかが大事やなって思っていて。今日は愛をもらいました。......俺がこんなカッコいいこと言ったらアカン(笑)? まあ言わせてや。ごめんな? ブッサイクな笑顔とか言って。自分らめっちゃきれいやわ。マジでスッゲー楽しい!"と、普段はSキャラとしてファンから親しまれているという健司も飾らない言葉で喜びを伝えた。そして、まるでこの会場に、いや全国各地の"家族"へ宛てているかのような「愛の迷惑」では "ホンマお前ら愛してるんです!"と歌詞をチェンジ。本編ラストを飾ったのは「オワラセナイト」だ。エレキ・ギターでの弾き語りから始まり、情感溢れるその歌声を増幅させるようにバンドの音が加わっていく。演奏後、視線はまっすぐ、オーディエンスの姿をしっかりと捉えながら"フレデリックはここから始まります"と宣言した健司。"ハロー"の先に広がる未来に"グッバイ"があることを身を以て体感したこのバンドは、ここからどんな"今"を歌っていくのだろうか。それは楽観的でも悲観的でもないだろうが、きっと、かけがえのない輝きに満ちているに違いない。
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