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LIVE REPORT

Japanese

BAYCAMP 2013

Skream! マガジン 2013年10月号掲載

2013.09.07 @川崎市東扇島東公園

Writer 小田部 仁 沖 さやこ

2011年の初開催から数えて3回目、川崎市東扇島東公園で、今年も都市型オールナイト・フェス"BAYCAMP"が開催された。ステージの真向かいには海を挟んで工場地帯がみえ、飛行機が離着陸を繰り返している。非日常の景色......ロックンロールが鳴るのに、これほどまでにぴったりのロケーションもないだろう。ステージは"PLANT STAGE"、"EAST ISLAND STAGE"、"FREE THROW DJ TENT"の合わせて3つと決して多くはないものの、その分、自分のペースで観たいアクトを確実にみることが出来る。ウェルカム・アクト、新進気鋭の4人組バンドWiennersの掻きむしる様な演奏をバックに、まずはPLANT STAGEに向かった。


この日、PLANT STAGEのトップ・バッターを務めたのは、QUATTRO。真っ青な海を前に快晴の空の下あらわれた5人の爽やかな姿に、気分は完全にアメリカ・カリフォルニアのビーチ・パーティ。初っぱなから最高に盛り上がるサマー・アンセム「BIG BOY」を叩き付け、オーディエンスもステージも熱狂は最高潮に。"初っぱなからこんな全開で飛ばしていいの?"という心配はご無用。中盤からはQUATTROお得意のグルーヴィーな横乗りゾーンへ。最後は「FOOLS」で、観客を存分に踊らせ、夜通し続くこのBAYCAMPというパーティーの開幕を告げたQUATTRO。まさに"フェス男"という形容詞が相応しい、QUATTROらしい熱演だった。


"サンキュー、セックス!"という身も蓋もないシャウトでFREE THROW DJ TENTを盛り上げたのは、忘れらんねえよ。バンド名のインパクトもさることながら、ステージ・パフォーマンスも熱い。"あんたら1人1人のために歌っているんだ"という言葉を全力で体現しようと試みる、忘れらんねえよ以上に今、こんな言葉をこれほどまでに説得力をもって響かせられるバンドもいないだろう。"セックス"というキャッチーなフレーズもさることながら「CからはじまるABC」などギャグの様な歌詞の中に切実な想いが込もっていることが嫌が応にもわかるパフォーマンス。観客もそれに応え、忘れらんねえよの音楽と向き合っていた。剥き出しのパンクの現在形がそこにあった。


輝く太陽の下、この日のCzecho No Republicは、確かに虹色の光線を放っていた。武井優心(Vo/Ba)とタカハシマイ(Cho/Key)のツイン・ヴォーカルで生まれ変わった「Call Her」は、ブルックリン・ムーヴメントのフォロワーとしてのCzecho No Republicを容易に更新し、新たなロックの形をつくり出そうとしている姿を垣間みることができた。タカハシだけでなく、それぞれメンバーの存在感も凄まじいものがあった。「絵本の庭」では八木類(Gt)がヴォーカルをとり、全編を通して、砂川一黄(Gt)はギターを振り回しながら踊りまくる。この日、披露された新曲「NEVERLAND」は彼らのバンドとしての充実っぷりをあらわすかのようにカラフルな楽曲だった。ラストは初期の名曲「ダイナソー」で締めた彼ら。メジャー・デビュー・アルバムが待ちきれなくなる、そんなステージだった。


サウンド・チェックから、次のアルバムに収録されるという新曲を披露し会場を沸かせたのは、キュウソネコカミ。平井堅の「POP STAR」をバックに登場し、どぎつい関西弁のシャウトをキメる彼らの姿に、笑い声が会場に溢れる。ブラジル国旗が何故か会場で振られているのをみて"ここは日本じゃ、日本人やぞ!"と抜群のMCで1曲目の「JP」と繋げ、ライヴがスタート。挙げ句の果てに「お願いシェンロン」では"キントウン"なるビート板に乗って、クラウドの上をすいすいと滑る、ヤマサキ セイヤ(Vo/Gt)。やりたい放題とはまさに、このことだけど、おふざけで終わらないのがキュウソネコカミ。現代の若者が日々もやもやと抱えているものを、歌詞世界において具体化し、それを否定するでもなく肯定するでもなく、白日の下に晒していく様子にはクレバーなキュウソネコカミ流のロックネスを感じた。


夜も更け、埠頭に灯が静かに瞬く頃、ステージにThe Mirrazが登場した。サングラスとオリジナル・キャップでクールにキメた畠山承平(Vo/Gt)があらわれると大勢の観客が歓声をあげる。6月にドラムの関口塁が脱退し新体制として生まれ変わったThe Mirrazはいかに......という観客の期待をよそに、1曲目の「check it out! check it out! check it out! check it out!」から全力で高速ビートを叩き付け、そんな小さな問題など吹っ飛ばす様なプレイをみせてくれる。サポート・ドラム、ゲンキのタイトでヘヴィーなドラムスもバンド・アンサンブルを一層、強靭なものに。歌詞の赤裸々さとキャッチーなサビが印象的なサマー・アンセム「真夏の屯田兵」では、クレイジーなギター・ソロも披露してみせる畠山。"目の前にみえる景色が気持ちいいね"と呟いた彼の言葉に違わぬ、最高のロケーションとThe Mirrazの最高のロックンロール、なんて素敵な夜なんだ! この日、最後に演奏されたのは「僕らは」。畠山の"誰かとつながっていたい"という強く切実な想いは、しっかりとオーディエンスに届いていた。


紫色の照明がスモークを血の色に染め、The Birthday、チバユウスケ(Vo/Gt)のスモーキーな歌声がEAST ISLAND STAGEの空気を変える。細身のパンツに身を包み、ステージに立った4人の姿はこれ以上ない程、スタイリッシュ。生けるロック・レジェンドがここにいるというその事実に、観客の期待も否応なく高まっていく。鉄と火薬の匂いのするようなグラマラスなギター・リフが空気を切り裂き始まったのは「オオカミのノド」、この上なくアダルトな雰囲気だ。「SATURDAY NIGHT KILLER KISS」で会場のボルテージを最大限まであげた後"Good Evening"と挨拶し、チバはギターを置いた。次の、軽快なカッティングが心地よいスカ・ナンバー「Red Eye」では、ハンド・マイクで身体をくねらせながら歌い、曲中ではブルーズ・ハープで、ギターのフジイケンジとソロ合戦も繰り広げる。最後に演奏されたのは「涙がこぼれそう」。チバは冒頭の歌詞を変え"今、ちょっと海の側に来ています"と、川崎の海を望む景色の想い出を楽曲に織り込む。観客は、もちろん熱狂。最後まで彼らを見送る拍手が止むことはなかった。いつも一夜一夜を特別なものに変えてしまう、The Birthday。その魔法にBAYCAMPもまんまとかかってしまったようだった。


この日の夜半を盛り上げる、最大の核弾頭になる......はずだった、[Champagne]は、残念ながら川上洋平(Vo/Gt)の交通事故によりキャンセルに。幸いにも大事には到らず、ツアーも無事行える予定だそう。主催者からの発表に"えー!"という残念そうな声をあげながらも、川上を気遣う観客の姿が印象的だった。なにはともあれ、BAYCAMPははじまったばかり、この後も朝まで続くパーティーは終わらない! (小田部 仁)




時刻は23時15分。夜も深まるEAST ISLAND STAGEに色とりどりのアフロのカツラをかぶったthe telephonesが登場すると、観客たちは一斉に踊るための臨戦態勢に入る。石毛輝が甲高い声で"BAYCAMP!みんなでディスコの向こう側へ行こうぜー!"と叫び1曲目「It's Alright To Dance(Yes!!! Happy Monday!!!)」。ノブのダンスのキレもさることながら、トランス的に脳天へぶち込まれる音が心地よい。ドラム・カウントから「Urban Disco」に入ると、クラップ、掛け声、ダンスにシンガロングでフロアのテンションも高騰する。"夜ってもっと盛り上がっていいんじゃないの?"と煽り、シリアスなイントロからの緩急が痛快な「A A U U O O O」。みんな人文字を作って踊りまくり、彼らの刻む鋭いビートに身をゆだねる。the telephonesの持ち味のひとつでもある憂いを感じさせるメロディとコードが夜の空気とぴったりで、「HABANERO」の独特の色気にゆらゆら揺れる人の群れは壮観だ。"猿のように踊ろうぜ!"でキラー・チューン「Monkey Discommodious」へ。石毛は海老反りでギターをかき鳴らし、観客も思い思いに感情を爆発させる。ラストは夜空に突き抜けるマイナーなメロディが印象的な新曲「Don't Stop The Move, Keep On Dancing!!!」。ステージとフロアが本音で対話するような、ピュアな時間だった。


"BAYCAMPの皆さん、よろしくどうぞ!"と、MCいつかとDJゴンチが声を揃える。噂のOLラップ・ユニットCharisma.comが日付を越えた0時半にFREE THROW DJ TENTに現れた。まずライヴは7月にリリースされた『アイ アイ シンドローム』の1曲目を飾る「HATE」からスタート。いつかもゴンチもビートに身を委ね、踊りながら軽やかに音を届ける。スカした空気を醸しつつもキレのあるパフォーマンス、キュートだが芯のある声と鋭いリリック。たちまち辺りはカリスマ色に染まってゆく。"去年は普通に見に来てました"とMCで語るいつか。"みんな朝まで元気残ってますか!?"とクールなぶっといビートをはじき出す。その低温の太さは、彼女たちのメンタルやアティチュードを物語っているようにも見えた。"わたしは弱い人間が嫌いです"と宣戦布告とも取れるMCの後に「メンヘラブス」。2人が歌って踊るとPUFFYのような老若男女に受け入れられるポップさがあるのにも関わらず、そこにはふんだんに舌を突き刺すような辛味のある毒が詰め込まれている。この毒こそが、普段胸に抱えている大きな感情であり、彼女たちの強さなのかもしれない。"BAYCAMP声を聞かせてー!"といつかが高らかに叫ぶ。彼女たちと観客の心臓の奥に潜む感情がどんどん解放され、夜空高くまで舞い上がった。


"起きてー!!"といういちろーの切実な(?)呼びかけからスタートした東京カランコロン。レーベルの先輩であるTRFの「survival dAnce」をSEに登場し、再びいちろーが"起きてますかー!"と呼びかける。時刻は2時15分を回ったところ。夜中のハイ・テンションのピーク・タイムに乗り込んだカランコロンはまず「少女ジャンプ」を届けるが......ん?なんだか今日は一味違うぞ?ここまでエッジが効いたバンドだったっけ?と驚くほどのシャープな音像。その勢いのまま「16のbeat」「フォークダンスが踊れない」を畳みかけるが、この日のカランコロンはとにかく冴え渡っていて、完全にロック・バンドだった。"お昼は大阪のイベントでライヴをしてきて、0時過ぎにこの会場に着きました"と語るいちろー。きっとここまで大がかりなハシゴもなかなかないだろうし、おまけに時間も時間。きっとメンバーにもアドレナリンが出ていたのであろう。「ラブ・ミー・テンダー」はせんせいの浮遊感のあるヴォーカルと、夢の殻をこじ開けるようなパワーにみなぎるアンサンブル。そこから見上げた夜空の美しさは格別だった。「true!true!true!」でタガが外れたようにハンドマイクでステージを動き回り甲高い雄叫びを上げるいちろーの姿は非常に頼もしく、今後のバンドがどう進化していくのか楽しみになるライヴだった。


やはり夜中には魔物が棲んでいるのだろうか。カランコロンと同じく、昼に別イベントに出演していた0.8秒と衝撃。。"みなさんおはようございます! 声出えへんくらいがんがんいくぞみんな!"と塔山忠臣が挑発し、1曲目は「POSTMAN JOHN」。吐き捨てるようなJ.M.のシャウトも絶好調で、メンバー全員が己の楽器でノイズをぶち込んでゆく。続いての「シエロ・ドライブ 10050」では全員がナイフを突きつけてくるような緊張感。そこには笑顔がきらきらしたハッピー・ムードなんてものは存在せず、ひたすらにシリアスだった。殴り掛かるような衝撃的な音が襲い掛かる。「「町蔵・町子・破壊」」の後"もっといけるやろみんな、夜中のテンションそんなもんか!?"と叫ぶ塔山の目の鋭さ。本気の目だ。「ビートニクキラーズ」「Brian Eno」と投下し、その攻撃的な姿勢は更に強まる。全力というよりは体そのものを削るようなステージで、パンイチにハンドマイクで歌う塔山は殺気立っている。ラストの「02490850230・・・」までその空気が貫かれ、終演後もしばらくステージから目を離せなかった。


時刻は3時45分。夜でも朝でもない時間に現れたのはLOSTAGE。だいぶ睡魔に襲われていたのだが、ノイズから現れた1曲目「BROWN SUGAR」のイントロで眠気が一気に飛んでいった。なんて美しくて、素直な音色なのだろうか。骨太で、しっかりと地に足がついた、強かな音像。続いての「僕の忘れた言葉達」は、ひとつひとつの音が輝き、胸に飛び込む。まだ辺りは暗いのだが、朝日を臨むような衝撃が全身を襲った。"起きてる?"と五味岳久。ぶっきらぼうではあるが、彼らの音はどの曲も透明感があって、綺麗で優しくて真摯だ。冷たい風が肌を突き刺す中で聴く「SURRENDER」はふくよかさとシャープさが同居していた。「楽園」の後、五味岳久は"こんな時間まで残って僕らのライヴを見てくれてありがとうございます"と感謝の弁を述べる。そのあとに"この時間は深夜手当があるからギャラが多くもらえるらしい"と小さく不敵な笑みを浮かべた。少々の機材トラブルがあったものの、終始自分たちのペースを崩さない。瑞々しさに吸い込まれる「BLUE」の空気から一転、五味岳久の挑発的なベースのイントロに身震いする「カナリア」では3ピースならではの研ぎ澄まされた音で切り込む。新曲「Good Luck」を最後に披露。包容感のある楽曲で、じっと聴き入るオーディエンスの姿も印象的だった。時刻は4時過ぎ。希望と焦燥を抱える夜明け前が、ここまで似合うバンドもまずいない。


ドキドキとロックだけの18時間のトリは髭。須藤寿が"ここまで残ってくれてサンキューね、ヘッドライナーの髭です"とふわりとした語り口で挨拶をして、「ダーティーな世界 (Put your head)」で幕を開ける。そして代表曲のひとつである「ロックンロールと五人の囚人」になだれ込み、キャッチーなメロディが眠気をほどくように飛び回ってゆく。個性溢れる7人の作る音圧に魅了される「ドーナツに死す」、まさしくロックンロールという言葉の通り転がるような「黒にそめろ」と、須藤をはじめメンバー全員とにかく楽しそう。"おはようございます!BAYCAMP初めてなんですけど最高です!"と須藤。少しずつ空も明るくなってきて、それと共に場内の空気もやわらかくなってゆく。須藤がハンドマイクで歌う「ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク2」ではフロアでワイパーが起こり、須藤は嬉しそうに"愛してます!"と叫ぶ。「Acoustic」「ボーナス・トラック」と人懐っこいメロディとアンサンブルで魅了し、そしてまさしくタイムリーな「サンデー・モーニング」で朝日のような希望や明るさを届ける。その開けたサウンドは痛快で心地よく、「虹」「テキーラ!テキーラ!」と更にハッピーな空間が広がる。「それではみなさん良い旅を!」で本編をしめ"生まれて初めていちばんいい朝をみんなと迎えられたよ"と笑う須藤。アンコールの「ギルティーは罪な奴」まで、ステージからもフロアからも終始笑顔が絶えなかった。 (沖 さやこ)


Photo by 市村 岬 / 釘野孝宏 / Viola Kam (V'z Twinkle) / 後藤壮太郎

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