ポスト・ロック・シーンで不動の地位を誇るバンド、UKはグラスゴー出身のMOGWAIの3年ぶり、通算9枚目となるアルバム。彼ららしい、混沌から光へと連れていくようなドラマチックな展開や、インストゥルメンタル中心とは思えないほど雄弁に響く緻密な構成に惚れ惚れとさせられる。その一方で、軽やかさや柔らかさ、抜けのいい聴き心地も印象的だ。特にTrack.2「Party In The Dark」は、きらきらとしたポップ・センスが発揮されている。1999年に発表された傑作『Come On Die Young』のプロデュースを務めたDave Fridmann(MERCURY REV)と再びタッグを組み、Daveの所有する"Tarbox RoadStudios"でレコーディングしたことも、大いに関わっているのだろう。
この新作はそもそも昨年8月にBBCで放送されたドキュメンタリー"Atomic: Living In Dread and Promise"のサントラをリワークしたもの。もちろん、そこには彼らが過去、来日した際に広島平和記念公園を訪れた経験も反映されている。アルバム・タイトル通り、核に対するシンプルな恐怖心に始まり政治利用としての側面、そしてチェルノブイリや福島で起こった原発の悲劇、もちろん広島・長崎に投下された原爆も下敷きになっている。と同時にレントゲンやMRIスキャンなど医学面での貢献というネガ/ポジ両面の性質を持つ。良くも悪しくも人間自身が自分の手に負えないものを作ってきた現実。錯綜する感情と一歩引いた視点が混在する、彼らの中でも透徹した美しさを持つ音像の理由は、テーマを思うと腑に落ちる。
MOGWAIの緊張感と内省的な世界観を愛するファンにとっては、今回の轟音ギターこそ鳴り響いていないこの作品もバンドのDNAをより集中して堪能できるという意味で味わい深いのではないだろうか。SONIC YOUTHがサントラを手がけた映画「Simon Werner A Disparu」の監督が脚本を手がけるフランスのTVドラマのために書き下ろした新曲からなる本作の特徴は、生ピアノ、エレピ、キーボードをメインに据え、曲によっては精査され尽くした単音のギター・フレーズや控えめなドラムが配置されている点で、中にはチェロとギターのアンサンブルも。また、逝去したJack Roseへのトリビュートとして録音した「What Are They Doing In Heaven」のカヴァーでのシンプルなフォーク・テイストも慈愛に満ちて美しい。
ライヴに非常に定評がある彼らが満を持して単独ライヴCD+DVDを初リリース。2009年にニューヨークのブルックリンにあるMusic Hall Of Williamsburgで行なわれた3公演から厳選された楽曲と映像を収録している。MOGWAIを語る上で必要不可欠な"轟音"と"静寂"。MOGWAIが創り出す静と動に浸れば浸るほど、音に取りつかれて何も出来なくなってしまった。人は本当に美しいものに触れると、意識も力もどんどん抜けてゆくことを痛感した。極限まで洗練された硬質で繊細な音像のスケール感は、まさしくポスト・ロック第一人者の風格だ。フランスの気鋭映像監督Vincent MoonとNathanaël Le Scouarnecが手掛ける臨場感溢れるライヴDVD も必見。