Japanese
ユプシロン
2024年06月号掲載
-その「ダイアル」は1曲目ですね。"ダイアルで喜怒哀楽を選ぶ"という発想が興味深かったのですが、これはどういったところから生まれたのでしょうか。
これはズバリ、SODA KITですね。
-(SODA KITが)3月にリリースされた2ndミニ・アルバム『ロングラン』では、喜怒哀楽を描く群像劇がテーマになっていましたもんね。
「ダイアル」の"ダイアルで喜怒哀楽を選んで/どうだい?"っていうサビのド頭は、メロと歌詞が同時に出てきたんですけど、ちょうどSODA KITの『ロングラン』の制作が終わって、ライヴのリハとかをしているときで。ずっと喜怒哀楽シリーズを歌っていたので、そこからのインスピレーションがあったと思います。それと、ユプシロンの、このキャラデザができる前に、ちょっとだけ歌を(インターネットに)上げていた"胎児時代"があって。そのときは本気で音楽活動するつもりもなく趣味だったので、無料のアイコン・メーカーでアイコンを作ってYouTubeやXで使っていたんですよ。そのアイコン・メーカーは、喜怒哀楽を選ぶことができて。髪の色はピンク、目の色は水色、服装はパーカーとか選んだり、顔も怒っている顔、困っている顔ってガチャンガチャンと選べるんです。それがすごくワクワクしたんですよね。この表情で何を歌う人になろうかな? とか。まさに自分だけのストーリーを妄想しながらアイコンを作っていたことを思い出しながら、この曲を書きました。
-音色からも「ダイアル」的な遊び心を感じますが、そのあたりは作編曲のsachiさんと相談して決めたんですか?
2番のところですよね。これはsachiさんが入れてくれた気がします。1番が完成して、2番からは展開をガラッと変えたいとだけお伝えしたんですけど、そうしたら、こうなって返ってきて。だから、2番にピポピポって入っているところはオケ先行だったんですけど、そこに僕が語りを入れて、さらにミックスの渡辺洋介さんが、特にオーダーしていなかったのに電話の声っぽい音色にしてくれて、これじゃん! って思いました。
―ある種、コラボですね。
そうですね。sachiさんと渡辺さんは、もう4年ご一緒しているので、ふたりとも"ユプシロンらしさ"をわかってくれていて。まさにシニフィエですよね。
-"ダイアル"で電話を連想する懐かしいものになっていますし、"教室"とか過去を思い出すようなワードもありますし、総じてエモーショナルな楽曲になっていますよね。
そうですね。ユプシロンらしさもありつつ、一方で変化を感じた曲にもなりました。強い音の楽曲をアルバムの1曲目に入れたいと思ってこの曲を作ったんですけど、(始動から)4年経って、自分、明るくなったな~って思いましたね(笑)。歌詞の内容自体は全部が明るいわけじゃないんですけど、わりと前向きというか。明るい曲を作ろう! って意識して作ったんじゃなく、自然とそうなっていましたね。
-しょっぱなから成長を見せつけられる気がします。
ありがとうございます。あと、聴きやすさみたいなところは考えましたね。今まで、そういうことは1回も考えたことがなかったんですけど、いろんな人に届くように意識しました。『ガタカ』のときに、趣味とプロの中間にいるみたいな話をしました(※2023年9月号掲載)けど、今は、もっと世の中に届くようなものを作りたいっていう意識になっています。
-「白夜」を制作した際には、すでにそういう想いはあったんですか?
はい、ありました。
-これは東野圭吾さんの小説"白夜行"からインスパイアされて制作したそうですが、あのストーリーが直接的に歌詞に関わっているわけではないですよね。
そうですね。あの小説を読んだときに感じたことを思い出して、それを養分にさせてもらったというか。あとは、主人公(桐原亮司)の気持ちをイメージしたりしました。
-とても長い、複雑な背景が入り乱れている小説だと思うのですが、ユプシロンさんはあの小説の、どの部分を養分にしたんでしょうか。
主人公の歪な恋愛感情ですかね。想う人をどういう気持ちで見守っていたのか。だいぶ歪んだ愛情の示し方だったと思うんですけど、そこから逆に純粋さとか、ストレートに伝えられない想いが見えてきて、要は、恋愛に限らず言葉で伝えるのが一番難しいっていう。その言葉で合っているのか? っていうのを自分で判断するのも難しいし、だからこそ、届けるのも難しいし。あと「白夜」に関しては、曲を制作する前からMVの構想もあって、"言葉屋さん"っていうのが裏テーマになっているんです。MVでは、その言葉を売っているお店を表現しました。自分にしっくりくる言葉、自分の感情を表す言葉がわからなくって、お店に買いに来るっていう、ファンタジーなストーリーをイメージしていて。なので「白夜」は仮タイトルが"言葉"だったぐらい、言葉がテーマですね。でも、直接は言っていない、言いたくないっていう(笑)。
-歌い出し"「たとえばどこにいても/きみのことをずっとかんがえている。/だけどこのきもちを/かたちにするものがみあたらないんだ。」"が、すべてひらがなで、鍵括弧がついているじゃないですか。この形にした意図をうかがいたかったんですが。
そのまんまなんですけど、言葉が見つからないんですよ。それを伝えている4行の手紙っていうイメージで、鍵括弧をつけてひらがなで書いたんです。かしこまった感じではなく、感情がほんっとに見つからないっていうのを、漢字すら使わず、無垢な感じで。子供だからひらがななのかな? って思ってもらってもいいし、漢字を書く余裕すらないと思ってもらってもいいし。でも、見当たらないから、何も飾っていないっていう。
-なるほどね。3曲目「サイレントトリープ」は、早い段階で制作したのでしょうか。
これは去年作った曲ですね。「白夜」もそうだったんですけど、今作はファンタジーの要素を入れたくって。「サイレントトリープ」は、ラップや遊び心が入っている曲で、(MVやジャケットの)イラストはメイド戦士みたいな感じになっています(笑)。
-そういう楽しさもありつつ、"笑ってる遺影 最後はイェイ"とか、ドキッとするワードもありますよね。
オブラートで包まず、頭の中に浮かんできた言葉を、そのままバンバンバン! って入れた感じです。その歌詞に関して言うと、遺影って、みんな笑っているじゃないですか。"死んじゃったのになんでめちゃくちゃ笑顔なんだろう? イェ~イって顔しているな"って思って。一番いい笑顔使いますよね。だから、どうせ最後には死ぬのならっていうのを僕なりの解釈で書かせてもらいました。
-たしかに! 小気味いい曲調の中に死生観とか、深い意味があって。そう考えると、この楽曲は、"シニフィエ"というタイトルに決定する前に制作したっておっしゃっていましたけれど、シニフィエ感がありますね。
そうですね。"サイレントトリープ"も、言語では表せない感情や本能が湧き上がっちゃうのを歌にしているので、シニフィエっぽい、ユプシロンっぽいと思ってもらえるかなって。
-次の「RED」は、初音ミクさんバージョンで以前から公開されている楽曲ですよね。
そうですね。2021年に、初音ミクちゃんに歌ってもらった、僕が初めてボカロで作った曲です。
-それを今作に、自分のヴォーカルで入れたっていう理由は?
今なら自分で歌えるかなっていう挑戦がまずあって。あの......すっごく難しいんですよ。
-ですよね。
今回のアルバムで一番歌うのが難しかったのは、間違いなく「RED」です。何回も録り直したし。実は、2021年に出したあと"本人歌唱バージョン出さないの?"ってファンのみんなに言われて、歌ってみたりはしたんですけど、満足のいくレコーディングができなくって。だから、自分ヴォーカル・バージョンを出さなかったのは、実力がなくってお蔵入りしていたからなんです(苦笑)。でも、3年経っていろんな経験をさせてもらって、少しは歌唱力も上がったと思うので、今なら成長を見せられるかな? ということで、この曲を入れさせてもらいました。
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