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INTERVIEW

Japanese

GLIM SPANKY

 

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Member:松尾 レミ(Vo/Gt) 亀本 寛貴(Gt)

Interviewer:山口 哲生

前作(2022年リリースの6thアルバム『Into The Time Hole』)から1年3ヶ月で、7thアルバム『The Goldmine』を完成させたGLIM SPANKY。自分たちの持ち味と可能性を拡張した『Walking On Fire』(2020年リリース)、『Into The Time Hole』という2枚のアルバムを経たことでより自由に、より開かれたサウンドを高鳴らしている本作。そしてそれは、コロナ禍を経て再び熱狂を取り戻したライヴという空間をより熱く、よりドラマチックなものにする楽曲がずらりと並ぶ作品に仕上がっている。すべてが主役級の楽曲たちの中から、リスナーそれぞれのお気に入りの"宝"を発掘してほしい──。そんな思いが込められた作品について、松尾レミと亀本寛貴に話を訊いた。

-7thアルバム『The Goldmine』、最高に気持ち良かったです! タイトルには"金脈が見つかる鉱山"という意味がありますが、そういった言葉が出てくるぐらい、作っている段階から手応えがありましたか?

松尾:そうですね。"The Goldmine"というタイトルが出てきたのは、半分ぐらいできていたときだったっけ?

亀本:うん。曲自体はある程度揃ってたけど、レコーディングはまだ全然やってる最中だった。

松尾:今回は、それぞれの曲のテイストは違えど、全曲主役と言えるものにしていこうということで、今まで以上に一曲一曲話し合いながら作っていたんです。これはいい悪いの話じゃないんですけど、いわゆる"アルバム曲"ってあるじゃないですか。そういうものを作るのではなく、全曲リード曲にしようって。

亀本:うん、全部シングルだと思いたいっていう。

松尾:例えばインスト(「真昼の幽霊(Interlude)」)とか、ちょっとフォーキーな曲も入ってますけど、それはそれでその方向性の中でメインになるクオリティや密度がある曲にする。以前よりもパワーアップしたものを見せられるアプローチをする、という確認をどの曲でもしていたので、全曲それぐらいの気合を込めたし、タイトルにもその気合が反映されるような言葉を探して付けました。

亀本:サウンドをどうするかっていうのはもともとやっていたし、今回もよりやっているんですけど、じゃあ主メロの部分はどうなんだろうとか、そういうところまで話し合いながら作っていったのは今回が初めてかもしれないですね。「ラストシーン」のサビとかは結構細かく連絡を取り合いながら、1小節単位で確定させていくぐらいの感じだったし。

松尾:そうそう。だからより高みを目指して作ったというか、自分たちができなかったことをできるようにしたかったというか。これまで開いてこなかったところを開いて作るということはかなり意識しました。

-"これまで開いてこなかったものを開いて作る"というモードは、近作『Walking On Fire』、『Into The Time Hole』からの流れでもありますよね。そこでの手応えがあったからこそ、より開かれたものになったんでしょうか。

亀本:そうですね。そこに関してはベクトルを変えずに、ひとつひとつ積み上げてこれたというか。僕としてはこの3枚(『Walking On Fire』、『Into The Time Hole』、『The Goldmine』)は、コロナ期間中に制作したものとしてひとまとまりぐらいに思っているところもちょっとあって。だからすごく一貫したテーマがあるというか。自分たちの音楽をこういうふうにしていきたい、という思いを持って作った感覚はすごくあるし、それが一番できた1枚かなって思ってます。まぁ、そこは当然ではあるんですけどね(笑)、3枚作ってきたわけだから。でも、本当にそういうふうに作れて良かったです。

松尾:あと『Walking On Fire』と『Into The Time Hole』って、自分では思い切ったつもりだったんだけど、ファンの人たちから"いやぁ今回も渋いね!"って言われることが多かったんですよ。いや、めちゃめちゃ思い切ったんだけどなぁ......って(笑)。

亀本:だからもっと思い切っても大丈夫だっていう。

松尾:そうそう。自分が思っている以上に開けていいんだということを知れたので、そういう部分でも恐れることなくできましたね。

亀本:近年よりそう考えることが増えましたけど、やっぱりリスナーってすごく柔軟で。ファンはアーティストの鏡って言うけど、自分たちが持っていない価値観や視点を、ファンが持っていることがすごくあるんですよね。そういうところはすごく刺激になるし、作品を出したときのリアクションを見ることもすごく刺激になりましたし。そういう意味でも、自分たちもより思い切れたし、突き詰められた作品ですね。

-『Walking On Fire』を制作したときはコロナ禍真っ只中でしたが、そうやって開かれた楽曲たちのリアクションを、ライヴという場所で直接受け取りながら進んできたからこそ、この開放感というか。

松尾:やっぱりライヴは大きかったし、ライヴでより映える曲、みんなで楽しめる曲を作りたいという気持ちも大きかったですね。それこそタイトル曲の「The Goldmine」もそうですし、「Innocent Eyes」もライヴを超意識して作ったので、そういう自分たちのモードも出てます。ライヴができるようになってきて、声出しも解禁されるタイミングで、新しいアルバムをどういうふうに作っていくか、どうやってここから音楽をみんなで楽しんでいく時代を作るか、というところも感じながら作っていきました。

-タイトル曲の「The Goldmine」は、亀本さんがプログラミングまですべて手掛けていますが、それこそタイトルを決めたあたりに作りだしたんですか?

松尾:タイトルはそのタイミングだったんですけど、曲自体は一番最後に作りました。トドメの一撃みたいな感じのロック・チューンを作ろうと、自分たちの最後の力を振り絞って。

亀本:アルバムを作っていくなかでも新しい発見があったので、それを全部注ぎ込んで、パンチのあるものを作ろうと。とはいえ、フレーズとかビートの音色みたいなアイディア自体はもうずっと前から貯めていたものでもあったので、それを引っ張ってきて仕上げる感じでしたね。しかも数日で(笑)。

松尾:そのアイディアにメロディをつけて、歌詞をつけてというのも数日しかなかったから、もう本当にギリギリで。歌録りの日の朝にまだサビができてない状態だったんですよ(苦笑)。でも逆に、火事場の馬鹿力じゃないですけども、自分が持っているものとか、伝わるロック・メロディってなんだろうと思いながら作っていったら、そういったものにしっかりとできて、とても気に入った曲になりました。急いで作りましたけど(笑)。

-時間的にはギリギリだったとのことでしたが、最後の最後に作った曲に"僕らやりたいことばかりで/枯れないゴールドマイン"という歌詞が綴られていることに、改めてグッときました。"時間がない! もう無理! 出涸らしです!"ではなく、まだまだ全然やれるという。

松尾:はははは(笑)、ありがとうございます。まだまだこれからだという気持ちはやっぱり伝えたいし、そこは"The Goldmine"というタイトルに込めたものでもあって。宝の埋まっている鉱山を誰もが絶対に持っているんだけど、それを見つけられる人もいれば、見つけられない人もいるんですよね。でも、見つけられないかもしれないけど、それは絶対に自分の中にあって、消えることはないんだっていう。そう考えるだけで、生活の中に安心感みたいなものをすごく感じられると思うんです。やっぱり嫌なことはあるし、もうダメだと思うこともあるけど、自分の中のゴールドマインを発掘することによって、何かまた新しいことをやりたくなったりとか、進んでいけるというメッセージを、この時代だからこそ伝えたいなと思って。

-歌詞で言うところの"辺りは掘り尽くされた跡ばかり"になっている時代だからこそ。

亀本:音楽なんて特にそうですもんね。

松尾:そうそう、まさに。ここからどうやって進化していくのか、どういう時代にしていくのかなんて、もうすべて掘り尽くされて穴ばかりになっている感覚があるけど、そのなかでも発見できていない宝があるというか、そういうところに希望を持ちたいので。だから、このメッセージはみんなに伝えたいことでもあるし、自分にも、GLIM SPANKYにも言い聞かせたいことでもあって。そういったものをすべて含めてこういう歌詞になりました。

-そんなタイトル曲から始まるアルバムですけども、様々な曲がありながら、改めてどの曲もギターがシンプルにめちゃくちゃかっこいいなと。

亀本:おぉー。でも逆に言うと、一番こだわってないのがギターなんですよ。"まぁ、なんでもいいや"みたいなところもあって(笑)。

-マジですか!?

亀本:そこに関しては、僕は本当にギターが好きで、ずっと考えてるんですよ。例えば、ファスト・ファッションのお店に行ったりすると、めちゃくちゃ派手で強そうな、イケイケな感じの洋楽とかが流れてるじゃないですか(笑)。

-(笑)そのイメージあります。

亀本:でも、そういう曲の中にも、キラリと光るギター・フレーズがあったりして。ああいう曲って、世界のトップ・クリエイターたちが作っていて、ちょっとだけ入っているギター・フレーズも意味があって入れているから、レベルが高いんですよ。しかも、基本的にはアメリカ人とかイギリス人が作っていて、ロック、ブルース、カントリーとかがDNAに染みついている人たちだから、そういうフィーリングがフレーズに入っていて、こういう生かし方があるのかって思ったり。そういうのを聴いていて......僕としては、ロックは最早ルーツ・ミュージックだと考えているんですよ。現行のポップ・ミュージックじゃなくて、伝統音楽。ブルースとかジャズとか、そういうカテゴリーのひとつだと僕は思っていて。

-なるほど。

亀本:自分としては、いかにそういう伝統音楽を現行のポップスに落とし込むかっていうことだけを常にしているから、ギターをうまく入れているものを見つけると、別にロックだけじゃなく、どんな音楽でも耳が反応するというか。そうやってここまで自分がインプットしてきたものと、自分が生きていくなかで培ってきた日本人としてのメロディ・センスというか、その感覚をくっつけて、いかに自分にしかできないものにするかっていうのはすごく考えてます。だから、ギターに関しては小手先ではなく、本当に自力の勝負みたいな感覚でやっているし、テクニックだけでどうのこうのみたいな演奏スタイルでもないから、やっぱり作曲性で勝負しないと自分は勝てないところがあって。なので、"音色作りと作曲面で勝つ!"っていう感じではありますね。

-そういった音色や耳に残るフレーズは今作でもかなり目立っているし、近作の中でも一番強く出ている気がしました。

亀本:そこはよりシンプル化したし、自分もそういったところによりフォーカスしていったので、そう言ってもらえると嬉しいですね。

松尾:よく話していたんですけど、今ってギターをめちゃめちゃフィーチャーしている曲ってランキングにあんまないよねって。

亀本:ない。マジでない。

松尾:だからこそ、今ギターを使っていい曲を作ることに意味があるという話をしていて。ギターとヴォーカルのユニットだから、自分たちにしかできないものを考えたときに、やっぱりそこをちゃんと見せられる、聴かせられる楽曲を作ろうと思っていたので、そう感じていただけるんじゃないかなと思います。

-シンプルゆえに存在感ありますよね。

亀本:どうせ入れるなら意味がないといけないんで。ここ数年やめていて、今回も超意識したことがあるんですけど、ロックだし、バンドだし、松尾さんもギターを弾くのが前提だったから当たり前にやっていた、ロー・コードのストロークをとりあえず入れるのはやめようと。だから、ほぼやってないんですよね。サビで"ジャーン"って弾いてるところは1個もないと思う。

-おぉ。なぜまたそういうものに?

亀本:あの"ジャーン"って、音としては空間が埋まるんだけど、そのフレーズに情報はないし、その"ジャーン"が歪んでいた場合、音程としてもあんまり情報がないから、下手したらシンバルの音をめっちゃ歪ませて入れるのとあまり変わらない可能性があるんですよ。そういうのを一切やめて、ちゃんと耳に来るフレーズとか、音程が来るものしか入れないっていうのは、ここ最近はかなり意識してます。"ジャーン"をやるときは、本当に"ジャーン"の必要があるときにしかやってないと思う。

松尾:バッキングはある程度してるじゃん。「Odd Dancer」とか。

亀本:「Odd Dancer」はね、実はサビはストロークしてないのよ。1本はミュートで、もう1本は単音だから、1個も"ジャーン"がないんだよ、音源には。