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INTERVIEW

Japanese

GLIM SPANKY

2022年08月号掲載

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Member:松尾 レミ(Vo/Gt) 亀本 寛貴(Gt)

Interviewer:山口 哲生

自分が"この曲はいい"って思ったものじゃないと、リスナーに全部バレると思うんですよ


-「形ないもの」はドラマをイメージしたとのことでしたけど、こちらはミディアム・ナンバーで、ストリングスもしっかりと入れながらという。

松尾:これは弾き語りで作ったものを亀本に渡したんですけど、こういうロック・バラード的な曲を作るのって、私はたぶん得意なんですよ。自分的には作りやすいから、ついたくさん作っちゃうんですけど、同じものを作ってもしょうがないから、どんなふうに変化を見せられるだろうかっていう。それで、THE BEATLES の「Penny Lane」的なトランペットとか、クラシカルなブリティッシュ・ロックのドラム・ロールとかを亀本が思いついて、アレンジしてくれて。自分たちのルーツと、今までやっていなかったことと、ロックに特に興味のない人たちにも"壮大な曲だね"って聴かせられる要素が全部合わさったので、これはいいアレンジだねってことでレコーディングしました。

-歌詞も素敵ですね。変わっていくもの、変わっていってしまうもの、変わらざるを得ないものがあって、本当は変わってほしくないけど、でもしょうがないところもあって......という心の揺れ動きにすごくグっときました。

松尾:ありがとうございます。コロナ禍になって、なくなってしまったものがたくさんあるじゃないですか。例えば、お店もそうだし、ファンの子からメッセージで"すごく楽しみにしていた体育祭がなくなりました。すごく悲しいです"とか。そんなの今年は我慢しなよって思う人もいるかもしれないけど、学生時代の1年ってめちゃくちゃ大事だし、体育祭なんてめちゃくちゃ重要じゃないですか。

-本当にそうですよね。

松尾:そういういろんな声が聞こえてきたし、自分としても、好きだったSTUDIO COAST がなくなってしまうとかもして。そういうのってしょうがないことなのかもしれないんだけど、悲しいなと考えていたときに、形のあるものに固執していてはポジティヴな生き方じゃないなと思ったんです。例えば、街を歩いているときに、街灯がついたり月が出ていたりすることに気づいたり太陽とかなんでもいいんですけど、この日常の瞬間瞬間が、自分にとっての今がスポットライトを浴びている瞬間なのかもしれない、みたいな。"平凡な特別"と歌っているんですけど、それが本当に些細なことだとしても、それが自分にとってのスポットライトなんじゃないか、形のないものにすごく素晴らしいものが隠れているんだと思えたら、日常がより良くなるんじゃないかなと思って。そんな気持ちを込めて作りました。

-たしかに、生きているとどうしても物質的なものにとらわれてしまうところがあるというか。

松尾:そうですよね。見えるものとかを信じざるを得ないというか。だけど、大切なのは本当にそれなんだろうかという。そう問い掛けられる曲にしたいなと思って作りました。

-「ドレスを切り裂いて」もいいですね。ソウルな感じで、艶っぽさもあって。

亀本:この曲は、キックとかベースの低域がドカンと出ている、デカいポップスみたいな感じを作りたかったんですよ。リファレンスのイメージとしては、松尾さんは当然違うっていうのはわかってるんだけど(笑)、IMAGINE DRAGONS みたいなことがやりたくて。リズムが強烈で、歌もしっかり出ていて、世界観がデカいみたいな。そういうポップスってちゃんと作れればキャッチーだから、日本でも通用するだろうし、ちょっと挑戦したいなと思ったんです。そういう感じのオケを作って、じゃあどんな歌を歌おうか? って。

松尾:うん。そこにメロディと歌詞をつけていった感じでしたね。この曲は日本語を入れるのがめちゃくちゃ難しくて。

亀本:コード進行とかリズムがストイックな感じだからね。ガシっとしてるから、日本的なメロディが乗りづらいかも。

松尾:そうそう。あまり考えずに日本語を入れちゃうと、カクカクして聴こえるんですよ。それを滑らかに聴こえるようにしつつ、意味のある言葉を選んでいったんですけど。

亀本:さらにメロディをキャッチーにするっていうね。

松尾:そこはかなり難しかった。でも、難産だったけど、特に楽しかったです。Amy Winehouseみたいな、ちょっとソウルフルな人が歌っている感じのイメージでコーラスワークも組み立てていて。これも裏の話なんですけど、コロナ禍で家にいたときに、吉田美奈子さんの「ラムはお好き?」っていう細野晴臣さんが作った曲をずっとコピーしてたんですよ。細野さんが作っているので、コードもすごく複雑でちょっとジャジーというか、おしゃれな感じで。コーラスもすごくクラシカルというか、海外のオールディーズな感じなんですけど、それを1日中ずっと聴いて、コーラスを全部耳コピしてギターを弾きながら歌うって遊びをしていたんですよ(笑)。それもあって、ちょっとオールディーズ的な渋めのコーラスワークを作るのにハマっていたから、「ドレスを切り裂いて」の冒頭部分のコーラスとか、「レイトショーへと」のコーラスも、完全に自分のブームです(笑)。

-この歌詞も難産だったとのことで。

松尾:これは、現代のSNS事情というか。インスタとかTikTokとかって、フィルターがかかって、きれいに見えるわけじゃないですか。それはそれですごく楽しいし、面白くていいと思うんですけど......今ってノーマル・カメラがNGな子が結構増えてきていて。

-らしいですね。

松尾:例えば、ファンの人から"すみません、写真撮ってください!"って言われて。いいですよって撮ろうとしたら"あ、私ノーマル・カメラ、ダメなんです"みたいな。"ノーマルで私を映さないでください"って言われて、画面を見たら、私のところに猫の耳ついてるんだけど......みたいな(笑)。そういうのって学生の中では当たり前になってると思うんですよ。それはそれでめっちゃ楽しいんだけど、ちょっと怖いよねと感じて。

亀本:怖ぇよ......。

松尾:そうそう。本当の自分がわからなくなっていくような感じがするんですよ、この時代って。そこはもう性別関係なく、本当の自分というものを見失ってない? って思うことがあっるんです。それこそフィルターって、着飾るというか、自分自身でかけているものなんですよね。例えば、「シグナルはいらない」は、"誰かが放ったシグナル"なんですよ。誰かにかけられているものなんですけど、フィルターは自分で自分にかけている幻だし、それを振り払うのが一番難しいと思うんです。

-ある種の自己暗示のようなものというか。

松尾:そうです。誰かにされているのであれば、嫌だ! って振り払えるけど、自分でかけているものってなかなか気づかないと思うんですよね。だからこそ、ドレスを脱ぐんじゃなくて、切り裂く。脱いだだけだとまた着れちゃうから、心の中のナイフで切り裂くぐらいの覚悟じゃないと、自分を見失ってしまうような気がして、こういう歌詞を書きました。

-SNSを例に出されていましたけど、それもありつつ、世間一般で良しとされているものを1回疑ってみようという意味にも取れるというか。

松尾:そういう意味も全部込めてますね。例えば、サブスクでもそうなんですけど、私たちは画面を開いて出てきたものの中から選ぶじゃないですか。だから、選ぶものがその中でもう決まってしまっているというか。検索したものの中から選ぶし、それしか知らないこともたくさんあるし。だから、自分で開拓していく力とか、そういうことに挑戦するのが難しい時代だなと思っていて。そういうものも、自分から切り裂くというか、自分から動いていかないとなと思って、そんなテーマを選んでますね。

-あと、アルバムの曲順について。「形ないもの」で壮大に終わるのかなと思いきや、そこから「Sugar/Plum/Fairy」に行くという流れも、今作の中ではひとつポイントだったのかなと思ったんですけど。

松尾:この曲が最後にできたんですけど、レコーディングをするときはまだ曲順が決まっていなくて。で、この曲の仮タイトルが"最後の曲"だったんです。最後に作った曲だから(笑)。それを見た、ドラムを叩いてくれた伊藤大地さんから"これはアルバムの最後の曲なの?"って言われたんだよね?

亀本:そうそう。"最後の曲なんでしょ?"って言われて、それはありだなと思って。

松尾:今回のアルバムは短編映画集みたいなものをイメージしていたので、そこと合致するなと。映画によくある、最後にまた日常に戻っていくようなエンディングがいいなと思って、この曲を最後にしました。

-まるで短編映画集みたいに、いろんな方向に振り切った楽曲を作ろうというコンセプトもあったんですか?

亀本:もともと僕らはアルバムを作るときに、テイストを統一するというよりは、いろんな曲調で、楽器のサウンドも様々なものにしようって心掛けているので、今回もそうなった感じはありますね。

松尾:そうだね。あまり気にせずに作ってました。でも、たまたま映画というキーワードが歌詞にあったり、そういう景色が多かったりしたので、映画がテーマとしてうっすらあるのかな? ぐらいの感じは、ふたりとも共通して序盤から思ってましたね。

-短編映画集ってある意味、ちゃんとした流れがあるプレイリストというか。ざっくばらんにとりあえず曲を詰め込んだというよりは、セレクターの人がテーマや流れを真剣に考えながら作ったものみたいな感じもあって、そこは現代的なのかなとも思いました。

松尾:あぁ、たしかに。でも、言ってもとりあえずやりたいことをやってた感じはありますけどね(笑)。

亀本:個人的には、ロック・バンドのアルバムってあんまり聴けなくて。自分もロックをやってて、ロック・バンドのアルバムが聴けないっていうのもおかしな話だけど、特に日本のギター・ロック・バンドのアルバムって、なかなか聴けないんですよ。2、3曲同じ感じで録って、それをそのままミックスしているものが多いから、3曲ぐらいギターの音が同じだったりするし、ドラムのピッチも3曲ぐらい一緒になっていたりして。そうなると、まぁ聴けないわけですよ、全部同じ曲に聴こえちゃうから。となると、だいたいアルバムで聴けるのはポップスの人になるんですよね。ポップスって編成も毎回違うし、曲によって楽器も全然違うんで。それが自分の基本になっている感じがあるから、自分が作るアルバムも、ドラムのチューニングも全部違うし、ギターも同じ設定で弾いているものはひとつもないし、同じ編成の曲もないし。そうしているのは、自分のそんなメンタリティから来てるっていうか。

松尾:へぇー。

亀本:松尾さんは違うかもしれないけど、僕はそうだよ(笑)。

松尾:私はロックと言っても自分の好きなテイストしか聴かないというか。もちろんいろんな曲が好きですし、いろんなバンドが好きなんですけど、宝箱をひっくり返したようなロックがすごく好きなんですよね。個人的に好きなのは、1965~1971年までのロックで、その中でもサイケデリック・ロックが好きなんですけど、それってもう実験音楽なんですよ。例えば、THE BEATLES の『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』も、逆再生とか変な音が入っているとかして。そういうのって、宝箱をひっくり返したかのようなイメージがあるんです。そんなものが好きだから、いろんなことをするのに抵抗がないというか。逆にこういうの面白くない? みたいな。

亀本:うんうん。

松尾:今までのGLIM SPANKYは、ロック的なサウンドはもちろん好きなので、そういうものをやりつつ、細かい部分でいろいろ違うことを試していたんです。だけど、今回はさらにっていう感じですね。あと、他の人に楽曲を書き下ろす機会が増えたのもあって、自分が今まで使ったことがない言葉やメロディを、あまり躊躇なく使えるようになってきたんです。殻が破れていったというか。なので、よりポップな曲があったり、ヘヴィな曲があったり、その差が見えやすいのかなと思います。

-今作でさらに挑戦をしたけれども、そういった実験精神がベースにあるとなると、これがGLIM SPANKYの通常営業みたいなところもあるんでしょうか。

松尾:はい。もちろんいろいろこだわっていますけど、そうでありたいよね?

亀本:そうだね。常に今までとは違うことをやるっていうのが基本的にはあるんです。だけど、聴いてくれている人たちもたくさんいるわけで、言っても仕事ではあるから(笑)、ある程度の制限は念頭に置いておかないと、しっちゃかめっちゃかになっちゃうんで。自分たちの歴史があるうえで、今やりたいことを入れていくっていうのがずっと普通だよね?

松尾:そこは学生時代の頃から変わってないね。やっぱり自分が"この曲はいい"って思ったものじゃないと、リスナーに全部バレると思うんですよ。だから私は、自信がないと思っているやつのステージなんて観たくもないし、そんな曲は聴きたくもないって言い続けてきたんです。そういう自分の美学に則って、いろんなことをやったとしても、どんな言葉を歌ったとしても、私が歌って亀本がギターを弾けばGLIM SPANKYだっていう軸がブレない自信があるから、いろんなことができる。

亀本:うん。

松尾:そこを信じてやっているからこそ、このふたりでやる意味があるし、また新しい挑戦ができたなっていう感じですね。