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INTERVIEW

Japanese

IRabBits

 

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Member:竹下 麻衣子(Vo/Pf)

Interviewer:山本 真由

横浜出身のピアノ・ロック・バンド IRabBitsが、5thミニ・アルバム『FREE YOURSELF』をリリースした。コロナ禍を経て、自身のバンドだけでなく、ライヴ・シーンや音楽業界そのものを支え盛り上げていく努力を続けてきた彼らが、前へと進むメッセージを伝えるために作った今作。IRabBitsらしいキャッチーなサウンドはもちろんのこと、パワフルなロック・サウンドや、オーケストラ・アレンジなど多彩な楽曲で聴く者を純粋に楽しませてくれる作品となった。今回は、そんな今作についてはもちろん、ここ数年のバンドの状況について、フロント・ウーマンの竹下麻衣子に語ってもらった。


"大丈夫、本当に大事なものは壊れないから"とお守りのように支えてくれる曲になれば


-5thミニ・アルバム『FREE YOURSELF』の完成、おめでとうございます! Skream!では2017年の『アイクロニクル』(4thミニ・アルバム)リリース時(※2017年1月号掲載)以来のインタビューとなりますので、まずは前作3rdフル・アルバム『IRabBits』(2019年リリース)について聞かせてください。こちらは、初のメジャー流通盤ということもあって、メジャー感のあるわかりやすくノれる楽曲が多かったように感じます。セルフ・タイトル・アルバムでもあるので、新しいリスナーに向けて、自身の名刺代わりというような位置づけのアルバムでもあったのでしょうか。

結成15年にして初のメジャー流通を決めた理由として、紆余曲折いろんな楽曲を作ってきた中で見えた、"全員で歌える"という譲れないポイントが明確に見えたからというのがあります。キャッチーさやわかりやすさはそこから来ているのかと。自ずとそういう楽曲が15曲揃ったので、メンバー4人全員一致で"IRabBits"というタイトルにしようと最後に決めました。そして"This Is IRabBits TOUR"というツアーを回りまして、まさに"これがIRabBitsです"と言えるアルバムになったと思っています。

-このアルバムの前にバンド名を"I-RabBits"から"IRabBits"に表記を変えていますが、これはどういった理由で変更したのでしょうか?

2018年に、たまたまレーベルにも事務所にも所属していない、完全フリーな状態になりまして。"何もないということはなんでも始められる"ってことだと思い、兎飛合同会社(現在は株式会社)というメンバー4人が代表の会社を作りました。そのときに、画数診断をきちんとやったのですが、ついでにI-RabBitsを調べてみたらめちゃくちゃ凶数だということに気づいてしまいまして(笑)。1文字減らすと、最強運数になるということだったので、一番リスクの少なそうな"-"を抜いたというのが実際のところです。ただ、その翌年に結果として今のレーベルと出会って、メジャー・リリースさせてもらうところまで来たので、あながち画数診断は侮れないなとより思っています(笑)。

-前作リリース以降、コロナ禍で世の中の状況は大きく変化しましたが、音楽に対するモチベーションや考え方に変化はありましたか?

コロナ禍は本当にバンドにとって根本から考えさせられる状況だったと思います。IRabBitsは全ツアーが中止や延期になるなかで何ができるかとことん考えて、結成の地横浜に"季ららYokohama"というライヴ・ラウンジをオープンさせました。ライヴをしに行けないなら、少しでも安全にライヴができる環境を作ろうという思考ですね。今となっては、自分たちだけではなくいろんなアーティストがライヴをしに来てくれて、ホール・スタッフもすべてバンドマンが集ってくれて、新しい音楽のコミュニティが立ち上げられたと思っています。ただ、経営に関してはこのご時世とにかく大変でしたけど(笑)。

-メンバーのみなさんは、それぞれ様々な方面のアーティストへ楽曲提供や演奏指導などもされているようですが、そういった活動がバンドにも与えている影響はありますか?

季ららYokohamaに集う後輩バンドのプロデュースやリリースを、請け負うという活動を始めました。私的に、自分たち自身をセルフ・プロデュースで自主レーベルから出すというのは、あまり考えていないのですが、後輩のバンドたちをプロデュースしたり、リリースさせてツアーを組んであげたりというノウハウはあるなと思いまして。季ららYokohamaやIRabBitsの活動に本当によく力を貸してくれているスタッフ、バンドマンたちに、何かしらしてあげられることはないかと思って行き着いたことなんですが、結果として自分たちの音楽制作やライヴにもいい影響を与えていると思っています。

-続いて、新作についてうかがいます。新ミニ・アルバム『FREE YOURSELF』の制作はいつごろスタートしたのでしょうか?

2021年3月末に季ららYokohamaをオープンさせるまでは、正直曲を作る時間がほとんどなくて。衝動で店をやろうと始めたものの、経営や開業という未知の世界に挑むなかで、なかなか音楽に向かう時間が減ってしまった現実がありました。ただ、コロナ禍の厳しい状況に耐えられずに折れて辞めてしまうスタッフが出てきて、なんとかできることはないかともがくなかで自然と曲を作って伝えられることがあれば、と曲を書き出して。その第1号が、今作の最後に収録した「季らら」という曲です。そこから怒濤のように曲作りに入ったので、時期としては2021年の4月ごろからですね。

-"FREE YOURSELF"というタイトルに込めた意味や作品のテーマについて教えてください。

直訳すると"解放"や"開放"という意味です。ひとつはもう、この世の中の状況からいい加減解放されたいよねっていう(笑)。あとは、自分自身の開放。このコロナ禍でみんな追い詰められて、出会いも多かったけれど別れも増えてしまったと思っていて。IRabBitsは結成18年で、ドラムのユーダイ(山田祐大)だけ途中加入ですけど、それでももう約10年の付き合いになるんですね。なので、別れということにとにかく慣れていなくて。別れたくない、イコール自分を殺したり我慢したりしなきゃいけないのかなともがく時期もあったり。ただ、いくら我慢したって別れるときは別れるもので。逆に、もう会わないかなと思ってた人と再会してもう一度一緒に歩むことになったりもして。とにかくこれはもう、自分のマインドを開放してある意味開き直って、自分は自分、そのうえで出会いと別れが降り注ぐものだと。そう考えたらすごく楽になったんですよね。なので、それを曲とアルバムのタイトルにしました。

-アルバムのタイトル曲「Free Yourself」は、静かなピアノ・リフのイントロから入って、疾走感のあるバンド・アンサンブルが加わり、サビにかけて盛り上がっていく、アルバム冒頭に相応しい楽曲ですね。今作を制作するうえで、中心になった楽曲でもあるのでしょうか?

そうですね。上記のような経緯でもがくなかで生まれた曲なので、"大丈夫、本当に大事なものは壊れないから"とお守りのように支えてくれる曲になればいいなぁと思って、メイン曲にしました。

-個人的には、2曲目の「What a wonder」が、一番テンションが上がるというか、特に生で聴きたいなと感じた楽曲でした。シンガロングや掛け声もあって、ライヴ映えしそうですが、IRabBitsのポップなだけじゃないハードな一面がよく出ている楽曲とも言えますね。IRabBitsが幅広い層に支持されるのは、しっかりとロックな面があるからかなと思うのですが、いかがですか?

ピアノ・ロック・バンドと名乗っていますが、実際ライヴの3~4割は私がピアノを弾かずに歌う曲もあって。「What a wonder」はまさにそうなる曲ですね。ライヴはすべて発散できる場所だと思ってやっているので、こういう激しい曲はIRabBitsには欠かせない一面になっていると思います。

-今作は、そういったアップテンポで激しい楽曲もあれば、「サヨナラの向こう側へ」や「季らら」など、ポップで優しいトーンの楽曲もあって、振れ幅が広い作品となりました。演奏面やアレンジで苦労した部分や、特に注目してほしいポイントはどんなところですか?

コロナ禍のひとつの野望として、"ホールでライヴをする"というのがあって。どうしてもライヴハウスに足を運ぶお客さんの数が減ってしまっているなか、少しでも安心してライヴに来てもらうために、ホール公演は絶対にやりたいと考えていました。そして、ホールをやるならば、オーケストラを入れたり、普段できない構成にも挑戦したいなと思っていて。「季らら」はそんなイメージを膨らませながら、初めてオーケストラ・アレンジに挑戦しました。ベースの猪野(進一)が、もともと映画音楽の提供の仕事などもしていて。オーケストラ・アレンジを勉強していたので、この機会にIRabBitsでもやってみよう、と。

-楽曲のキャッチーさはもちろん、歌詞も伝わりやすい言葉選びが印象的です。作詞に関しては、どんなことに注意して考えていますか?

作詞をするうえで一番大事にしているのは、まさに"伝わる"ということで。特にライヴ・バンドなので、爆音の中できちんと伝えるためには、小細工をしている余裕がないんですよね(笑)。直球な言葉や、いわゆる手垢のついた言葉と呼ばれるシンプルな言葉も、発する側の覚悟や想いが乗っていれば、きちんとその色で伝わると信じているので、昔よりどんどん言葉はシンプルになっていると思いますね。

-リリースに先駆けて、「Free Yourself」のミュージック・ビデオが公開されていますが、ジャケット・アートワークと同様、空の美しさを全面に出した映像になっていますね。演奏するメンバーが逆光になって表情があまり見えない演出になっていますが、オープンエアな環境で海風を受けながらの演奏はどういう感じだったのでしょうか?

今回初めてYUTARO監督(ART LOVE MUSIC)にお願いしたのですが、曲のイメージを瞬時に読み取ってくれて、"開放感"というテーマを存分に表現してもらった映像になりました。横浜の名所 大桟橋で撮ったんですが、とにかく海風がすごくて。震えながら、でも震えが伝わらないように撮るのが大変でしたね。空と夕日と横浜の解放された風景がメインなので、それが伝わればOKです。

-3月18日と4月1日には、リクエスト・ワンマン・ライヴ("IRabBitsリクエストワンマンライブ~生ROAD TO HALL")を急遽開催することになったようですが、このタイミングで、リリース・イベントとは別にこういう企画をやることになったのはなぜでしょう?

きっかけはリリース前ツアーのセミファイナルとして予定していた、3月5日のホーム新横浜LiTでのライヴが、メンバーのコロナ感染により延期となってしまったことでした。その際にライヴハウスの社長と連絡を取るなかで、ファイナルでもありレコ発でもある横浜関内ホール・ワンマン前に、まったくライヴがないというのも悲しいので、ホール・ワンマンへのプロモーションも兼ねて、空いていた日程で無料でのワンマンを開催させてもらえることになりました。

-そのレコ発ホール・ワンマンですが、4月15日には横浜関内ホールにて開催予定ですね。こちらは、キャリア初となるホール公演ということですが、いつものライヴハウスでのライヴとは何か違った演出などはあるのでしょうか?

先ほども話題に上がりましたが、オーケストラでの構成に初めて挑戦する予定です。セットリストもやはりホールならではの特別なものを組めたらと作戦を練っているところです。

-レコ発後は、ツアーも企画されているのでしょうか?

大きめのツアーを企画中です。コロナ禍にできなかったぶん、とにかく全国たくさん回る予定なので、発表を楽しみにしていてもらえればと。

-今後の目標やバンドとして挑戦したいことなどありましたら教えてください。

自分たちだけで音を鳴らすだけではなく、ひとつのシーンを作りたいという野望があります。2009年から"響姫祭"というガールズ・ヴォーカルのフェスを主催していましたが、仲間がみんな解散や活休してしまったことで終了していました。ですが、シーンは次から次へと生まれているので、今のシーンを捉えて新しく大きなムーヴメントを起こしたいなと考えています。期待しててください。

-最後に、Skream!読者へメッセージをお願いします。

これを読んでくれているということは、きっと音楽やライヴが大好きでいてくれてるということかなと。その気持ちに本当に感謝します。音楽業界にとってとても厳しかった時期がやっと明ける兆しが見えてきました。生のライヴでしか伝えられないものがあると思い知ったので、ますますライヴ・バンドとして生きていこうと思っています。会場でぜひお会いしましょう。

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