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INTERVIEW

Japanese

澤田空海理

 

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-そんななかで新曲のみを収録するのではなく、「魚と猫」「望春」「またねがあれば」を再録したのはどういう思いから?

「与太話」を向けた人に関わる曲だからです。新曲も、とにかくその人のことを書こうと決めてから書き始めたもので。

-紙資料には"アルバムを通して明確に一人の女性のことを書いています"とありますね。

今回のコンセプトに関しては、リスナーの方には目をつむってもらえたらなと思うんですけど。僕はその人のことを曲にしなかったら、アルバムのことにしなかったら、本当に何をしているんだろうと思うし。

-つまり、"人からどう思われようとも、これを出さないと自分がどうにかなってしまいそうだから出しました"というアルバムだと。

そうですね。

-そんなアルバムを作り終えたあと、どんな気持ちになりましたか?

"無"でした。このアルバムを作り終えたら、心がふっと晴れて、どうにかなるんだろうな......と思っていたんですけど、いざ作り終えてもまったく変わらなかったです。虚しさのほうが勝ったくらいです。

-そうなんですね。新曲のうち、特に「愛猫」が気になりました。

今回の8曲の中で最後にできた曲ですね。「愛猫」の歌詞はフレーズとして気に入っているものがたくさんあります。例えば、終盤に出てくる"あなたが当たり前に生きていることが/どれだけ価値のあることか。"という言葉は、アルバム全体に散りばめられているものが明文化された1文だなと思っていますね。

前作のインタビュー(※2020年10月号掲載)で猫=女性像のイメージとおっしゃっていましたよね。そういう意味では、最後の4行もかなり重要なのではと思いますが、いかがでしょう。

その部分は、歌詞カードには入れない予定なんですよ。たしかにそこは重要な部分だけど、これを歌詞カードに載せてしまうと、この曲にすごく勝手な意味が生まれてしまうので、載せないことにしました。

-そうなんですね。前作の『魚と猫』というアルバムを聴いたとき、澤田さんは、恋や女性という存在をすごく美しいものとして捉えている方なんだなと感じたんですよ。コンプレックスも手伝って、自分のことは下げる一方、相手のことは美しい言葉で表現する。なのですごく言いづらいんですけど"いや、女は猫じゃないよ"、"相手も人だよ?"と思っていたのが正直なところで......。

刺さるな~(笑)。本当にそうなんですよね。僕大学くらいまではずっと野球をやっていて、すごく男っぽい人生を生きていたんですよ。だから女の子を見て"こういう生き物になりたかったな"と思う瞬間が多くて。女の子は、常に薄暗い塊みたいなものを持っていて、それが発露する瞬間があるじゃないですか。僕はそういうものを美しいと思っていたし、"フラッといなくなるその感じ、好きだな~"と思っていたんですけど......"こういう生き物"と言っている時点で、相手とあんまり向き合っていなかったんだろうなぁということが徐々にわかってきて。友達からも"澤田はもうちょっと人と向き合いな"と言われましたし、今言ってもらったことはすごくわかります。

-でも"実は人でした"ということが今回の経験を経てわかっただろうし、だからこそこういうアルバムが生まれているんだろうし。

そうですね。すごくわかりました。

-今の澤田さんは、自分なりにその事実と向き合おうと頑張っている感じですか?

どうでしょう......。向き合おうとしているのかな? 書いた瞬間は"こういうことなんだな"と思いましたけど、逆に言えば、"じゃあ僕が今後の人生で女の子と関わっていく意味って何?"という疑問が出てきたというか。

-別の生き物だと思っていたから興味深かったし、興味深いから関わりたいと思うし、関わっていくなかで自分の心が動いたり変化したりしたけど、そうじゃなかったら、それは自分の人生に必要なのだろうか、ということですか?

まさに。でも、人の口から聞くとすごいですね(苦笑)。

-そうなるとやっぱり、"ひとりひとりの人間として向き合おう"という結論に行き着くのでは? そもそも同じ思考の人間なんてひとりも存在しないわけで、女だろうと男だろうとどちらでもなかろうと、言ってしまえば全員が"別の生き物"なんですよ。

そうなんですよね。そこですよね。人からも散々言われたので、これはさすがに僕の欠点だなと思っているんですけど、"じゃあ今から直すか!"と言って直せるかといったら、そんなわけはなくて。

-そうですね。

直すためには人と向き合っていなきゃいけないけど、今は向き合う気力がないので、"助けてくれ"って思いながら生きています。

-ははは(笑)。最後に、今作には収録されていませんが、昨年9月にリリースされた「じょー」についても聞かせてください。愛犬への想いを書いた曲ですよね。

そうですね。リリース日の9月1日が命日だったんですよ。2020年の9月と言えば、ちょうどSkream!で『魚と猫』のインタビューをしてもらった時期だったんですけど、インタビューを受けて、実家に帰ってお葬式をやって、そのあと新幹線で東京に戻ってきて......という感じで。歌詞もお葬式の日の夜とかに書いたんですけど、しばらく寝かせることにして、自分の中でちょっとずつ思い出になってきたときに、ようやく曲にしようと思えたので、形にしていきました。

-YouTubeのコメント欄を見ると、同じような経験をしたことのある人もいれば、"動物を飼ったことはないけど、気持ちがすごく伝わってきた"とコメントしている人もいて、澤田さん自身の気持ちを書いた曲だけど、様々な受け取り方をされたと思います。リスナーの反応を見て何か思うことはありましたか?

この曲に関して言えば、素直に嬉しかったです。そういう届き方をしてくれて良かったなと。他の曲のコメント欄でも、みんなが思い思いに自分の過去の恋愛を書き綴ってくれていますけど、僕は基本"好きにしてくれていい"と思っていて。言ってしまえば全員他人だし、僕も自分のことを書いているから、僕に同情とかせず好きに受け取ってくれればいいという考えなんです。だけど「じょー」に関しては、"僕はこういうことがあって、こういう気持ちになった"、"もしかしたらあなたたちもそうなのかもしれない"って目線がたしかにありました。

-そう考えると、ちょっと異質な曲でしたよね。

異質でしたね。あれはもう愛ですから。たぶん、趣味で音楽を続けていたら、「じょー」のように愛にまみれた曲ばかり書いていたと思うんですよ。昔はもうちょっとぼんやりしたところから曲を作れたのに、今はもう、実際の経験からじゃないと曲が書けない状態になっている。悲しきモンスターみたいになっていますよね。

-ひたすらに葛藤している今作収録曲は、澤田さんの心から出てきた曲だからこそ響くものがあるのは確かですが、一方、「じょー」のように愛情に満ちた曲も同じく澤田さんの内から出てきたもので。そのあたりに自分に課した"業"を越えていけるヒントがありそうな気がしますけどね。ちなみに、今は犬を飼っているんですか?

いや、動物は好きなので"もう一度飼いたいな"という気持ちもあるんですけど、"もう二度とあんな想いをしたくない"という気持ちもあって......。でも、姉と両親は耐えきれずに新しい子を迎えたみたいです。だから今は、実家にいる1匹と姉の家にいる1匹、その2匹をまたぐようにかわいがって心を満たしています。