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INTERVIEW

Japanese

緑黄色社会

2022年02月号掲載

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Member:長屋 晴子(Vo/Gt) 小林 壱誓(Gt) peppe(Key) 穴見 真吾(Ba)

Interviewer:秦 理絵

緑黄色社会の進化と深化が止まらない。前作『SINGALONG』の配信から1年9ヶ月ぶりにリリースされる、緑黄色社会の3rdアルバム『Actor』は、メンバー全員が音楽家として着実に成長していくなかで、貪欲なチャレンジ精神と好奇心をもって様々なサウンド・アプローチと向き合ってきたリョクシャカ(緑黄色社会)の2021年が、結晶化されたような1枚だ。ドラマ"緊急取調室"主題歌「LITMUS」をはじめ、"アサヒスーパードライ ザ・クール"CMソング「ずっとずっとずっと」、アニメ"半妖の夜叉姫"エンディング・テーマ「結証」など、数多くのタイアップ曲も収録する今作だが、その根底には全編を通して"あなだたけの人生を肯定する"という力強いメッセージも漂っている。今年バンド結成10周年を迎えるリョクシャカのひとつの到達点とも言える『Actor』は、いかに完成したのか。メンバー全員に話を訊いた。

-『Actor』は、これまで様々なサウンド・アプローチを貪欲に取り入れてきたリョクシャカの集大成とも言える1枚になりましたね。

長屋:今まではずっと"食べて食べて"という感覚だったんですよね。いろいろな音楽をどうやったら緑黄色社会に取り入れられるかっていう研究だったんです。今回のアルバム『Actor』は、そうやって研究したものを生かすフェーズに行けたなと思ってます。

小林:僕らがバンドを始めた頃って、"とりあえず変なものを作ろう"っていう気持ちだったんですよ。それが難しいことだろうと、音楽が良くなるならやってみようみたいな。そこからだんだん長屋の歌にスポットを当てるようになっていって。

-前アルバム『SINGALONG』(2020年リリース)はまさにそういう作品でした。

小林:そうですね。そのうえで今回はみんなの作曲のスキルが向上したことで、音楽的にはまとまってるけど、変なこともやってるっていう両方が成立してるアルバムなんです。

穴見:今回は元ネタがわかりやすいんですよね。例えば「キャラクター」だったら、往年のソウル/ファンクっぽいものをやりたいねっていう話をして。

peppe:みんなで共通認識を持ってね。

穴見:そう。それこそpeppeが作った「アラモードにワルツ」はクラシックだし。

長屋:そういうのを計画的に作れるようになったんですよ。今までは"結果こうなった"みたいなことの連続だったんですけど。

-"これがやりたい"って思うものを狙って作れるようになっていった。

穴見:そう。まさに"やりたい"が先にあって、その音を具現化していってる感じです。『SINGALONG』のときはバンドっぽさに寄ってた中に「Mela!」とか「inori」、「一歩」っていう曲があって、少しずつバンドの外に出たみたいな感覚があったんですよ。そういう曲を好きって言ってくれる人たちが多かったのもデカいと思います。それを踏まえて、例えば「LADYBUG」(2021年2月リリースの3rdシングル『結証』収録曲)で南米調の音を取り入れるとか、さらにひとつずつ殻を破っていった先で『Actor』に辿り着いたところがあって。もともと俺らはバンド・ミュージックだけをやるために集まった4人ではないから、それ以外のところにどんどん挑戦していきたいんだぞっていう意思が、今回のアルバムを通して伝わればいいなと思います。

-peppeさんはどうですか? 今回のアルバムで感じる自分たちの進化としては。

peppe:今回は、自分たち発信でアレンジャーさんとのやりとりをできるようになったのが大きいですね。前回までは、提案をしてもらってから自分たちの意見をプラスすることも多かったんですけど。今は自分たちで"こうやりたい"っていうのを出せるようになったので。アレンジャーさんとの曲作りは、プラスアルファ&ニューみたいな感じに変わってきてます(笑)。

-ソングライティングの手法では何か変化はありますか?

小林:しっかりとわかりやすいアイテムを歌詞に入れたいっていうのはありましたね。一聴して、世界観がわかるような作り方をしたいなと思っていて。

-たしかに。今回のアルバムは歌詞が強い楽曲が多いなと思いました。壱誓さんが手掛けた「Landscape」の"君の焦点が/僕の盲点だ"とか上手いなぁって。

穴見:あそこはいいですね。

小林:実は、「Landscape」は1番のサビが一番いいと思って書いたんですよ。でもエゴサーチすると、そっちのほうが響いてる。それは嬉しい衝撃なんですけどね。僕の中ではもうちょっと1番のサビにスポットを当ててほしいなぁって(笑)。"眺える風景は君の背景だ"っていうところ。これは「凸凹」(吉岡聖恵(いきものがかり/Vo)に長屋が提供した楽曲)にも近いんですけど、人間って自分の知らないことを知ってる人や、自分の気づかないところに目を配れる人に惹かれるよなっていうのを表現したかったんです。その人じゃないといけない理由みたいなものを表せたらなって。

-今言ってくれた"その人じゃなきゃいけない理由"みたいなものって、アルバムのタイトル"Actor"にも通じるテーマですよね。

長屋:あぁ、そうですね。

-このタイトルは曲が出揃ってくるなかで見えてきたんですか?

長屋:今回はタイアップ曲がたくさん入ってるんですけど、そろそろアルバムを作ろうかっていうときに、タイアップ曲を並べてみた状態で出てきたテーマだったんです。それぞれの楽曲の中にいろいろなキャラクターがいるなというところから、"Actor"って言葉が出てきて。そこから「キャラクター」っていう曲も生まれたんです。

-「キャラクター」の作曲は真吾さんとpeppeさんですね。

穴見:アルバムの全体像が見えてきたときに、作品の冒頭でぶち上がれる、踊れる感じが欲しかったんです。オシャレだけど、ちゃんと歌が立つみたいな、そういうのを探ってて。peppeとスタジオに入って作ったよね?

peppe:うん。アメリカのスクールで何人も踊って出てくるみたいなのを想像して。

小林:"ハイスクール・ミュージカル"みたいな。

穴見:あ、俺もおんなじ。

peppe:「Mela!」を作ったときと同じように、スタジオに入る前に何パターンか作っていったんですけど、ちょっと考えすぎちゃったみたいで。自然に出てきたというより、作り込んだ感じになっちゃってたから、"ひとりで作りなおしてみたい"って言ったんです。

穴見:ちょっと遊びに来たみたいなテンションでやったほうがいいから。"俺、今からコンビニに行ってくるから、その間に作ってて"って、ひとりにしてね(笑)。

peppe:そのときに"私たちが楽しまなきゃダメだよね"っていう話をしたんですよ。

穴見:そう、仕事になっちゃダメだよねって。

peppe:で、その日、雨の中で歩いてくる道中ですごく濡れてブルーな気持ちになっちゃったから、その感情をそのまま音にしちゃおうぐらいのテンションに切り替えたんです。そしたらふっとイントロを閃いて。そこからは一気に作っていけましたね。

長屋:この曲を作るにあたって、"説得力が欲しいね"っていう話もしたんですよ。今までは(聴いてくれる人と)"一緒に楽しもう"だったけど、もうちょっと私たちがみんなを扇動できるような曲を作りたいねって。この曲はブラック・ミュージックの要素があって、ドシンと構えた感じがあったから、そういう歌詞も乗せられるなって思ったんです。

-サビの"誰だってneed you"がまさにそういうフレーズです。

長屋:わかりやすくてキャッチーなフレーズになってますね。それもたぶん数年前に出していたら、私たちの思っているメッセージとして届かなかったと思うんです。もうちょっとふわふわしたというか、軽いテンション感で伝わってしまうんじゃないかって。あと、私たちにも照れがあったかもしれないと思うし。でも、今ならちゃんとまっすぐな意味合いで届けられるんじゃないかなと思って書きました。

-作詞は長屋さんと壱誓さんの共作ですね。

小林:歌詞も「Mela!」と一緒の作り方にしようというのがあったので、僕がこんなことを書いてみたいなってざっくりとした道筋を書いて、長屋に言葉にしてもらう作業だったんですけど......。

長屋:「Mela!」はそれでうまくいったけど、今回はうまくいかなかったんですよ。

小林:歌詞を抜いてメロディだけで再生してみてほしいぐらいなんですけど。「キャラクター」って日本語が入るのかな? っていうメロディ・ラインなんです。そこに唯一の解を出したのが長屋だったんですよね。ここに他の言葉は入らない。

長屋:うん、難しかった。でもその言葉が出てからは曲のテーマも明確になったんです。

-このサビはメロディにハマる言葉であると同時に、テーマとしてアルバムにハマってることも重要だったんでしょうね。誰もが生きてるだけで意味があるっていう。

長屋:そうですね。これを届けたいっていう気持ちもあるんですけど、まず私がこれを言ってほしかったんですよ。そういう言葉を掛けられたかったのかなって。

-そこは聞きたいところでした。「キャラクター」の歌詞は、長屋さんが自分に言い聞かせたい言葉だったのか、それとも今自己肯定感が低いと言われる世の中の人たちに対して、掛けてあげたい言葉だったのか、どっちなんだろう? って。

長屋:どっちもだと思います。今はSNSが複雑になったこともあって、すごく生きづらくなっちゃったなっていう想いもあって。いろいろな人のキラキラした部分しか見えないじゃないですか。本当はそうじゃない部分もあるはずなのに。だからこそ、比べちゃったりして悩む人もたくさんいる。周りの友達を見ててもそうだし、特に日本はそうなのかもしれないなと思います。自己肯定感が低いし、自尊心が保ちづらくなってるし。

小林:長屋自身、今デビューするなら顔も名前も出さないって言うんですよ。

長屋:うん、出さないですね、絶対。

-それはどうしてですか?

長屋:そのほうが、自由度が高いんですよ。本名でやっていると、楽曲について何か言われたときに自分まで否定されてる気がしちゃうんです。それを本当の自分じゃないものに置き換えられてたら、もうちょっと怖いものがなくなるのかもしれない。だけど、本当の自分だからこそ書ける歌詞もあるとも思うので、どっちがいいとはわからないですけどね。

-ええ、「揺れる」なんかもそういう曲じゃないですか? 今回のアルバムにこの1曲があるのとないのとでは、アルバム全体の意味合いがまったく変わると思います。

長屋:うん、そうですね。ちょうど「揺れる」を書いたのが、タイアップ曲の制作が落ち着いたタイミングだったんです。いったんみんなで自由に作ってみない? って話して。だから、本当に何も考えずに書きました。"みんな不幸になっちまえばいいのにな"っていう歌詞が出てくるんですけど。タイアップ曲にそんなことを書けないじゃないですか。

-たしかに。日常生活の中で、自分は無敵だ! って思える瞬間と、生きてる価値なんてないんだって塞ぎ込んでしまう心の振り幅を繊細に歌った曲ですね。

長屋:めっちゃ素直に書きましたね。