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INTERVIEW

Japanese

sleepyhead × Ichika Nito

2021年09月号掲載

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次のアルバムで、第1章がもう終わってしまう感じがある──2019年に発表したEP『endroll』のインタビュー時にそんなことを話していたsleepyheadこと武瑠。そこから約2年。コロナ禍で制作が一時ストップしていた2ndアルバム『センチメンタルワールズエンド』がついに完成した。"センチメンタル"という言葉を掲げている通り、アルバム全体を感傷的な空気が包み込むなか、アーティストとしてはもちろん、武瑠というひとりの人間の根源に横たわっている思想や美学といったパーソナルな面が詰め込まれていて、これまで彼が生きてきた人生においての集大成的な作品に仕上がっている。今回、Skream!では、本作に収録されている「rain one step feat.Ichika Nito」に参加しているギタリスト、Ichika Nitoとの対談を実施。かねてより親交が深いこともあり、ふたりが交わし合う飾らない言葉たちから、お互いへの信頼やリスペクトが十二分に表れるものとなった。

sleepyhead:武瑠
Ichika Nito
インタビュアー:山口 哲生 Photo by fukumaru

-おふたりが初めて会ったキッカケというと?

武瑠:Tom-H@ckさんの繋がりでライヴを観に行ったのが最初だと思うんですけど、紹介される前から存在は知ってました。たぶんTwitterで知ったんですけど、すごい音色を弾くギタリストがいるなって......あ! TANAKAさんだ。

Ichika:あぁ! 僕の作品のジャケットを書いてくれている、AZUSA TANAKAっていうイラストレーターがいて。

武瑠:今回のアルバム『センチメンタルワールズエンド』の通常盤のジャケットも書いてくれている人です。

-最初にライヴで会ったときにいろいろお話もされたんですか?

Ichika:そのときはご挨拶したぐらいだったんですけど、そのあと僕が個人でEPを出すときに、武瑠さんにゲスト・ヴォーカルで出てもらおうと思って。そのときにコンタクトを取ったのが本格的に仲良くなるキッカケでした。

武瑠:で、キャンプに行って。

Ichika:そうそう。そこからズルズル。

武瑠:ズルズルって(笑)。泥沼の男女関係みたいな。

Ichika:そんな感じですね(笑)。

武瑠:ははははは、そんな感じじゃねぇ(笑)。

-お話にありましたが、IchikaさんのEP『I』(2019年リリース)に収録されている「in the morning」という曲に武瑠さんが参加されていますね。

Ichika:各曲、日本のヴォーカルの方、しかも個性的な歌の力を持っている方と一緒にやりたいなと思っていて。1曲目は疾走感があって、ロック感もありつつ、ダークな要素もあるというところで、武瑠さんの声が合うだろうなと思ったのが最初ですね。

-曲的にはポスト・ロックな感じというか。

Ichika:そうですね。ポスト・ロック/マス・ロック感がありつつ。

武瑠:あの曲、めちゃくちゃ難しかった。

Ichika:僕、自分で歌わないので、たぶんヴォーカル・メロディが無茶苦茶というか。レコーディングのときにずっと"すみません"って(苦笑)。

武瑠:めっちゃ練習したんですよ。これは無理だぞと思って。H@ckさんはSuGのときから知ってくれてるから、"めちゃくちゃ練習してきたでしょ?"って言われた(笑)。

Ichika:それでもやってくださってありがたかったです。自分の考えていたものよりも全然良かったですし。

-その後、Ichikaさんはsleepyheadが主催したイベント"BEAT GAMBLES"にも出演されていて。

武瑠:懐かしいな(笑)。

Ichika:めちゃめちゃ変なライヴでしたね(笑)。

武瑠:ただの遊びだったよね(笑)。

-"カジノ型ライヴ"というかなり特殊なライヴに誘われたときにどう思われました?

Ichika:ぶっちゃけ、自分のキャラクター的に雰囲気と合わないかもしれないからどうだろうって思ったけど、面白そうだなって思いました。

武瑠:あれは面白かったな。テレビ番組にできるぐらいの感じだったし。

-あのフォーマットはいろいろ使えますよね。

武瑠:WACKの渡辺(淳之介)さんに話を持っていったら、"面白そう、観にいく"っていうことになって(※渡辺氏はIchikaも出演した回にコメンテーターとして出演)。本当はあのイベントを共有したかったんですよ。このイベントをあげるので、BiSHでやってくださいとか。そうやっていろんな人たちで回していく感じにしたかったんですけど、コロナが来ちゃって。あれは誰がやっても面白い企画だと思います。バンドだけじゃなくてDJでもいけると思うし。

-また開催されるのを楽しみにしてます。Ichikaさんとしては、親睦を深めていくことで、武瑠さんの人間性とか、いろんな面が見えてきたりしました?

Ichika:SuGのことは知っていて、そのヴォーカルっていうめっちゃふわっとした感じしかなかったんですが、よく遊ぶようになってからは、本当にいい意味で、雑にしゃべれる人だなって。あんまりそういう人がいないんで、すごく楽ですね。

武瑠:うん。(Ichikaは)見た感じは無口そうじゃないですか。でも、意外とめっちゃしゃべるんですよ。最近は行けてないけど、飲みに行ったときとか、何時間も飲んでそろそろ解散だなっていう頃にスイッチが入って、"もう1軒行きましょう!"みたいな。

Ichika:インターネットで自分の私的な部分をあまり出したくないんですよ。曲のみを純粋に評価してほしいと思ってそうしているんですけど、人としゃべるのは好きですね。あとは、何かを突き詰めて考えることとか、わりと真面目なところも似ていて。そういう意味で、哲学とまでは言わないけど、人生観が似ているところもあるし、武瑠さんは年齢的にも活動歴も上なので、話していると参考になることもあるし。

武瑠:俺も相談したりするんですよ。単純に知識量もあるし、考え方に柔軟性もあるし。ちゃんとロジックを持って、動画を出していたりもして、そこは自分の時代にはあまりない戦い方だから、わからないことは普通に聞いたりとか。でも、そもそも年下っていう感じがしない。最初はちょっと気を使っている感じはあったけど。

Ichika:今は気を使ってないみたいな言い方(笑)。

武瑠:いや、使ってないじゃん(笑)。

Ichika:まぁまぁ(笑)。

武瑠:(初めて会ってから)もう意外と経ってるもんね。3年ぐらい前か。高頻度で遊んでたときもあったし、akubiによく遊びにきてくれたりしたし。で、GOMESSと会って。あ、でもその前にたなか(前職 ぼくのりりっくのぼうよみ/Dios)と会ってるのか。Ichikaと会ったあとに、たなかと会うことになってたから、ふたりとも気が合いそうだなと思って、3人で遊んだんですよ。そしたらバンドになってたんで、おーっ! って(笑)。

Ichika:たなかと会ったのはそのときが初めてで。そこからめちゃくちゃ仲良くなって、よく遊ぶようになって、バンドやろうぜっていう流れになったんですけど。きっかけは武瑠さんの紹介でしたね。

武瑠:あと、こういう雰囲気だから、ちょっととっつきにくい感じがするけど、本当は人に甘えるのがうまいんですよ。俺も結構怖いと思われるタイプだから、あれだけバンドの世界にいたのに、後輩がほとんどいなくて。そもそもそういう付き合いにあんまり興味がなかったっていうのもあるし、外の世界に友達はいるけど。そういう中で、家に来てくれて、ご飯作ったりして、喜んでくれたりするのが嬉しかったりするんですけど、そのもう一歩、奥に来るっていうか。"これが美味しいので、これでもう一品作ってください、お願いします"って(笑)。ちゃんと甘えられるのってかわいいな、すげぇなと思って。

Ichika:そういうつもりじゃなかったんだけど(苦笑)。

武瑠:いやいやいや、ばっちり言ってたよ。

Ichika:あのとき普通に腹減ってたんですよ、すごく(苦笑)。

武瑠:ははははは(笑)。でも、恐縮せずにそういうことができるのがいいなって。あと、全然ストイック感を出さずに、めちゃくちゃ努力してるし。最近、ハープとかもやってるんですよ。最初はみんな"マジで? ギターやってるのにハープに行く?"って言ってたけど、どんどん弾けるようになって。

Ichika:自分の音楽のルーツに、3歳ぐらいの頃に読んだ海外の児童文学があって。その文章の一節に、竪琴についてめちゃくちゃ綺麗な描写があったんですよ。その美しさに惹かれて音楽を始めたのもあったんですけど、小さいときに"ハープ欲しいから買って"って言っても、なかなか買ってくれないじゃないですか。

武瑠:買ってあげられないよね、なかなか。

Ichika:そうそう。だからそのときはギターを弾いてたんですけど。

武瑠:渋々ギターを選んだの(笑)?

Ichika:渋々ではない(笑)。

武瑠:ははははは(笑)。

Ichika:いや、でもまぁそういう意味では渋々なところもちょっとあったのかもしれないけど(笑)、原体験というか、自分が音楽をやりたいと思った初期衝動はハープだったんですよ。最近、昔読んでいた本を読み返しているんですけど、そうだったなと思って。それで、その場でネットを開いて買って、毎日12時間ぐらい練習してて。

武瑠:すごいよね。

Ichika:もともと海外のファンが多くて、その中に、ボストン・フィルとか、ベルリンのオーケストラのハープ奏者の人がいて、オンラインで教えてくれたんですよ。やっぱりプロの人たちって教えてくれるのもうまいので、それでモチベーションもあがって、うまくなってきたっていうのもありました。

武瑠:そこは見習おうと思いましたね、頑張ってる感を出さないで頑張ってるところ。俺、頑張ってる感をすぐに出そうとしちゃうから。頑張ってるよー! ってやっちゃうタイプだから。

Ichika:ちょっとわかる(笑)。

武瑠:見てもらえないとしんどいメンヘラ気質なんで。でも、何時間も練習してるとか、淡々と言うから、それすごいなって。最近結構走ってるって言ってたよね?

Ichika:そうそう。半年前ぐらいからダイエットのためにランニングを始めたんですけど、だんだんタイムをあげることが楽しくなってきて、今、ガチランナーの方に教えてもらってます。月間走行距離がだいたい150~200キロメートルぐらい。

武瑠:標準装備で努力する才能みたいなものを持っているのかな。海外の人と英語でブッキングするのも、俺もやってはいるけど、やっぱ珍しかったんですよ。でも、必要だったらやるじゃないですか。"やっぱできない"って止まる人も多いけど、めちゃくちゃ使いこなしてるし。だから、そういうプレイとか音楽的なことだけじゃなくても、話していると勉強になるなっていうこといっぱいありますね。

-なるほどなぁ。素敵な関係ですね。

武瑠:俺、(Ichikaを)人に紹介するときに、"俺が女だったら一番付き合いたいやつ"って言ってて。

Ichika:いつもそれ言ってくれるよね(笑)。

武瑠:完璧なんだけど、たまに太っちゃったりするところとかあるし、それがなかったら鼻につくっていうか。だって、医大にも行ってるんですよ?

Ichika:医大というか医学部。そこからいろんなきっかけがあって、音楽を始めたんですよ。

武瑠:なんかアニメ・キャラ感あるじゃないですか。でも、そのうえで、自分を守りすぎないというか。若いときって、完璧にしておきたい、弱みを握られたくないって思ったりすることがあるけど、ちゃんと自分を曝け出したりするから、すごいバランスだなぁって。

-それを総称した言葉が"女だったら一番付き合いたいやつ"。

武瑠:そう。あと、さっき"雑にしゃべれる"って言ってたけど、こっちが言葉を選ばなくても、ちゃんと受け取ってくれる能力があるんですよ。今って結構デリケートだから、ネットもそうだけど、急に相手が怒ったりすることあるじゃないですか。"違う違う、そういうこと言ってない"みたいな。そういうのを気にしなくていいところもある。曲解されたりしないし。

Ichika:そういう意味では、届いてくれというのが第一にあるとしても、少なくとも曲解しないでほしいとか、そういう願いを込めた作業みたいなものがあると思うんですけど。そういうのをパスして、テキトーにしゃべれるっていうか。

-お互いのことを信頼していないと、そういう話もできないですしね。変なことを言ったら、"あの人、この前あんなこと言ってたよ"って、他所で変なこと言われたりするんじゃないかって思ったりしますし。

Ichika:あるある(笑)。ありますね。そういう意味では、普段は他所で言えない話ばっかしてます。

武瑠:ははははは(笑)! そうだね。ちょっと学校の友達っぽいところもあるのかも。こんなアホなことがあったとか、失敗談とか、結構言いたくなったりするじゃないですか。けど、言う人を間違えると事故るから。

Ichika:そうそう。大人になると、それは言わなくてもいいふうになっていくというか、言わないものなんだろうけど、やっぱり言いたくなるときあるし(笑)。

武瑠:そうだね(笑)。そういうアホな話ができるのもいいなって。

-似た者同士な感じありますね。

武瑠:燃料の使い方が似てるのかもしれないですね。ちょっとねじ曲がった感情みたいなものを、そのままにしないで、発酵させて、沸々としたものをちゃんと表現に変えているイメージがあって。ずっとポジティヴなだけでもなくて、陰と陽の陰の部分が見え隠れするところがあるんで。だから、原材料みたいなものがリンクしているのかなって思います。