Japanese
sleepyhead × Ichika Nito
2021年09月号掲載
sleepyhead:武瑠
Ichika Nito
インタビュアー:山口 哲生 Photo by fukumaru
-Ichikaさんも、感傷的なものやメランコリックなサウンドってお好きだったりします?
Ichika:そうですね。自分の曲もそういったものが多いですね。
-自然とそういったフレーズを弾いていたりとか?
Ichika:そこは結構意図的でもあります。自分がギターでやりたいと思っている、いくつかある中のひとつのテーマとして、自分の感情をダイレクトに相手に正しく伝えられるような導線を作れる能力を得たいなと思っていて。例えば坂本龍一さんは、音楽で人を感動させるなんておこがましいことを言うなというスタンスの方なんですよ。音楽にはそんな力はないと巨匠が言い切るぐらい、言ってしまえばそんなものなんですよね、音楽って。でも、自分はそうじゃないというか。そういうファンタジックな見方もできるんだということを、楽器1本でやりたいなと思っていて。ただ、それはロールモデルがないので、自分で道を切り拓いていかないといけないんですけど、それを手当たり次第にやっていくのは難しいので、まずは"悲しい"という感情を突き詰めるところから始めようって。それがクリアできたら"明るい"という感情にも正しく向き合えるだろう、みたいな。そういうロードマップみたいなものが自分の中にあるんです。
-その最初が"悲しい"を突き詰める。
Ichika::そうですね。死ぬまでにできるかどうかわからない、結構難しいことをしようとしているので、不老不死になりたいなって感じですね(笑)。
武瑠:ははははは(笑)。
Ichika:そこは、医学部に行っていたという話でもあるんですけど、人間の寿命とか、脳と体力のベスト・パフォーマンスを維持したくて、その研究をするためには医学部に行かなきゃって思ったんですよ。でも、よくよく考えたら、世の中の天才たちがそういうことを議論し尽くして、まだできていないわけじゃないですか。それをいち学生の僕がやるのは無理だろっていうことに、入ってから気づいたんですよ(苦笑)。結構バカなんで。
-ただ、大きな目的があって、そのための順序を考えて進んでいくタイプではあるんですね。
Ichika:結構そういう感じではありますね。
-音楽的な好みもおふたりは近しい部分はあります?
Ichika:ありますよね? この曲いいねってなる感性は近い気がする。
武瑠:うん。時期的に難しくなってしまったんですけど、コロナになる直前、カバーYouTubeみたいなことをやろうっていう話になったんですよ。soine.っていう名前でやったんですけど、個人的に納得いかないまま出しちゃったところがあって(苦笑)。
Ichika:もうちょっとラフな感じで出したほうが良かったのかもね。
武瑠:うん。変にオートチューンでイジっちゃったら、音が外れちゃって。いつもと違うことをやってみようと思ったら、あんまり思うようにうまくいかなかったり、今はこの曲をアップしないほうがいいよね、みたいなことがあったり(笑)。
Ichika:そうそう(笑)。あんまりスケジュールをガチガチに決めないほうが良かったですね。
-あともうひとつ、前回のインタビューでお話しされていた曲についてお聞きしておきたいのが......バンドの解散ライヴを日本武道館で終えた2日後に大事件が起きたと。そのことがとにかく悔しくて、どこにもぶつける先がなかったから、"ムカつきすぎて曲を書いた"とおっしゃっていましたよね。それはどの曲なんですか?
武瑠:それが「死んでも良い」ですね。あの曲をまだ出せる自分じゃないなと思って、出すためのレベルアップ作業をしていたら、意外と時間がかかっちゃったなって(笑)。マネージメント的な発想でいうと、最初からやっておけば良かったなと思いますね。絶対に早く切り替えていたほうが良かった。でも、自分の中でバンド時代の気持ちを1回精算しないといけないなと思ったので、『DRIPPING』(2018年リリースの1stフル・アルバム)を出したんですけど。
-そういう意味では、常に過去の自分と決着をつけながら作品を作ってきたところもあるんでしょうか。
武瑠:そうかもしれない。あと、ある程度、ファンに気を使っている感じはありましたね。自分の感性をまっすぐ出すのであれば、「死んでも良い」とか「白痴美 prod.Mantra」を最初からやっていたと思うんですけど、過去の感じも入れておこうっていうのは、なんとなくあったんですよ。自分のことを好きでいてくれた人たちを喜ばせたい気持ちもあったので。そこからライヴで信頼関係が築けてきて、「heartbreaker」とか「akubi_girl」(共に2019年リリースの2nd EP『meltbeat』収録曲)とか、そのあたりの曲ができ始めてから、もうこっちだけでいけるなって。だから、ちょっとずつスイッチしていった感じもあったし、それこそ単純に人生の精算をしたかったところもあります。バンド時代の気持ちをちゃんと供養してあげないと、次に進めないと思ったので。
-『endroll』のときにも言ったことではあるんですが、そんな怒りと絶望の淵にいたときに出てきた曲がメロディアスだったのも面白いですね。
武瑠:俺、そもそも音楽の才能がなかったから、自分の気持ちとか感情を正しく表現できるようになるまで、10年ぐらいかかってるんですよ。例えばバンドの初期の頃とか、過去に自分がやってきたことを否定すると、悲しむ人がいるじゃないですか。でも、自分としては、シンプルに成長過程すぎて、やりたいことができていなかったんですよ。そこからちょっとずつスキルがついてきて、パっと歌ったときに、自分の感情をメロディに乗せられるようになってきて。
-自然と自分の感情を出せるようになってきた。
武瑠:そうですね。だから、歌詞とメロディが同時に出てくることもすごく増えました。そういうボイスメモが今は何百もあって、そこから本当に気に入ったものを選んで、投げて、あとはよろしく! っていうのを、自分の中でいい意味でやってます。やっぱり自分の頭の中だけで完結させてしまうと面白くないので。という言い訳です。
-"言い訳"って(笑)。でも、そこで掛け合わせて生まれるものがあるから、それはそれでいいんじゃないかなと思いますけどね。
武瑠:本当はもっといろんな人とやろうとしていたし、動いてもいたんですよ。でも、コロナでいろいろずれこんじゃって。
-なんか、改めて、なんだよコロナ......って思いますね。
Ichika:結局そこに行き着くんだよね(笑)。
武瑠:俺、向こう側に入りました(笑)。ルールは変わっちゃったけど、楽しいことをやるっていうことはどうせ変わらないから、今できる楽しいことをやろうって切り替えましたね。
-気をつけるところは気をつけつつ、向こう側に。
武瑠:うん。悲しみの向こう側ですよ。去年、本当にいろんなことがあって鬱状態になっちゃってたんですよ。そのときにIchikaが家に来てくれたりしたんですけど。すごく沈んでましたね、とにかく。
-歌詞には、武瑠さんの根幹の部分が出ていつつも、そういったリアルタイムで感じていたことも表れていますよね。
武瑠:そうですね。前に作った曲もあるんですけど、歌詞はほとんど書き直してます。何十曲も用意したのに、結局5、6曲は新曲になっちゃったから、まぁ、人間ってそうなるよなって(笑)。時間が経つと、新しいものにしたくなるよなって思います。入らなかった曲にもいい曲がすごく多かったから、どうしようかなとは思うんですけどね。でも、今は来年のヴィジョンが見えてきたので、まずはこれをやっておこうかなって。
-来年のヴィジョンのお話が出てきて良かったです。前回のインタビューでは、"いったん全部出してみて、すっからかんになったら、どっか旅にでも出る"と言っていたので。
武瑠:あぁ。でも、旅人にはなってると思う(笑)。
-そこは揺らがない(笑)?
武瑠:うん。
-締めの方向に行こうと思うんですが。これからふたりでやってみたいものってあります?
Ichika:そこは音楽の形じゃなくても面白そうですよね。なんでもできるなっていう感じはある。僕としては、今、オーケストラを作ろうとしているんですよ。それは日本だけじゃなくて、世界各国にクラスというか制度を作って、一応僕がそこのトップでまとめる感じになるんですけど。今ってSNSで表に出ていかないと音楽で食っていけないという風潮があるけど、それって発展途上国だと難しかったりするので、そういった人たちをピックアップして、生活の保証をして、音楽だけで生きていけるような支援をする団体にゆくゆくはしようと思っていて。それを長いスパンで見て、いろんな人に協力してもらっているんですけど、そういうのにもいろいろひと噛みしてもらうとか。いろいろやりようはあるのかなって。
-本当にいろんなことができそうですよね。武瑠さんはいかがですか? 先ほど「rain one step」のPVを撮りたいというお話もされていましたけど。
武瑠:なんか、PVが撮りたいというよりは、話が良すぎて映像にしたいんですよ。もはや俺は出なくていい(笑)。とにかく(Ichikaと)合いすぎてるし、いいストーリーができちゃったから、そういう絵が撮りたいだけっていう。でも、いい相手役が思いつかないんですよ。看護師さん役の人が必要なんだけど、イメージに合う人が全然いなくて。なんかすごい有名な人を呼んでくるとかでもいいんだけど。
-面白そうですね。
武瑠:なんか、リクープを考えなくなってきちゃったんですよ、めんどくさくて(笑)。今年はもうマイナスでもしょうがなくね? って。あまり先のことを考えすぎると、いいことないな、というか。そういう精神的余裕を保てているのが良かったです。
-たしかに大事ですね、気持ちの余裕って。
武瑠:正直、sleepyheadがやってきたことってめちゃくちゃじゃないですか。「ぼくのじゃない」(2019年リリースのデジタル・シングル)で、みんなに曲をシェアしたいとか、毎回挑戦ばっかりして。でも、それでも残ってくれているファンがいて、今まで買ってくれた対価があるから、自分は今、精神的な余裕を保ったままでいられる。そこは本当に感謝しなきゃいけないなって。新しいものを求めるだけじゃなくて、今ベーシックであるものが本当に奇跡なんだっていうことを見つめ直さなきゃいけない時期なんだろうなって思いますね。
-楽しみにしてくれている人がいるんだというのを、まざまざと感じるようになったと。
武瑠:そうですね。今いる人のおかげでこの活動はできているし、とにかく余裕がない人にはなりたくないって、ものすごく思うので。なんか、だんだん世の中が下品になってきているじゃないですか。その前兆はコロナの前からあったけど、(Ichikaは)そういう感覚のチューニングをしてくれるところはありますね。"これって俺がおかしいのかな、どう思う?"って普通に聞いたりして。"これはダサいと思う"、"ダサいよね、良かった"みたいな。
Ichika:あぁ。今ってネットばっかり見てるとだんだん頭がおかしくなってきますよね。
武瑠:もうほんとに。
-Ichikaさんも、武瑠さんにそういったチューニングを求める感じもあるんですか?
Ichika:どちらかというと、僕は全部自己完結するタイプなんで、むしろ"これヤバいですよね"みたいな感じで共有することのほうが多いです。
武瑠:うん。その"ヤバいよね"とか"変だよね"って思うことの筋道、感覚が近いなって思う。たまに仲が良くてもまったく考え方は違う人とかもいるし。
Ichika:うん。それはそれでいいんだけど、それを人に強要されるとね。
武瑠:そうそう。人は人っていうのが大前提だから。
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