Japanese
大塚紗英
2021年08月号掲載
"BanG Dream!(バンドリ!)"のPoppin'Partyで、花園たえ役としても活躍する大塚紗英。彼女がシンガー・ソングライターとしてリリースを迎えたメジャー2ndミニ・アルバム『スター街道』が、とにかくぶっ飛んでいる。独特すぎるタイトルや歌詞のセンスは、天才、鬼才と言っても過言ではないが、その根底にあるのは"人を大事にすること"と"おもろいこと"だそう。本作について迫ってみたら、作品に負けない自由奔放で尖った発言の数々が飛び出した。大塚紗英とは、なんとも興味深い人物だ。
-ポピパ(Poppin'Party)で取材したときの大塚さんは、少し変わっている人という印象だったんですけど、ソロ作品を聴いてイメージが変わりました。少しじゃなくて、だいぶ変わっているんだなと。
あぁ! よりそっちの方向に(笑)!
-いい意味でですよ(笑)。で、大塚さんは、ポピパに入る前の15歳くらいから4年間も路上で弾き語りをしていたそうですが、そのころから今のような作風だったんですか?
今みたいではないです(笑)。歌モノを書いていきたいなと思ったエピソードがあって。中学を卒業したくらいのタイミングで、失恋をしたんですよ。それが悲しくて歌にしたんですね。その歌を、当時同じピアノ教室に通っていた幼馴染みの子が聴いてくれて、その子がめちゃくちゃ泣いてくれたんですよ。普段あんまり感情を表に出すような子じゃなかったので、すごくビックリして。その子は別に失恋していないし、失恋したのは私だから"そっちが泣くんだ!?"みたいな驚きもあったんですけど(笑)、それがすごく嬉しかったんですよね。言えないことを曲に変換してるところもあるので、それを受け入れてもらえたということと、その彼女にとっては経験してないことが伝播して、同じ感情でわかりあえるのがすごく嬉しかったんです。ただ、当時は日本語として、どちらかというと文学的な書き方をすることが多かったですね。
-そこから作詞作曲や弾き語りをしていくなかで、徐々に今のスタイルになっていったんですか?
そうですね。でも、今回の『スター街道』は、こういった形を明確に考えて作りました。曲のタイトルが変わってると思うんですけど、そういった言葉を探して作るようになったのは、メジャー・シーンを意識するようになってからなんです。『アバンタイトル』(2020年リリースのソロ・デビュー・ミニ・アルバム)の「ぬか漬け」とか、そういうものが自分の得意なことで、持ち味なんだと意識して、この1年間はそういう言葉を使って曲を作りました。そういう意味では、こういう作風になったのは最近かもしれません。
-『アバンタイトル』のリリースからもう1年4ヶ月くらい経ちますよね。今このタイミングで改めて振り返ってみると、大塚さんのキャリアの中ではどんな作品ですか?
今は答えが出せないんですけど、対外的に"名刺代わりです"と言ってきたところもあって、実際それはその通りです。自己紹介として、いろんな曲を書けるよね、この人ってシンガー・ソングライターなんだね、こういう歌詞を書くんだね、ということを伝えられたと思います。そういった、始まりの名刺になっているんですけど、あの作品は、20歳までの人生観が反映されているところがあるんですよね。それを引き出して作ったり、そのころに作っていたものをブラッシュアップしてライヴ用にしたりして、二十歳くらいの感覚値が反映されてるんです。なので"二十歳の私"くらいの軽い気持ちでもあるのかもしれない。結局、アーティストの人生=作品だと思うんですけど、そのときにしか書けない一個一個の気持ちがあって。私がこの業界に片足を突っ込みだしたのは15~16歳くらいで、20歳に差し掛かるまでの3~4年くらいは、必死に食らいついて頑張っていた記憶しかないんですよ。大人になって余裕ができちゃったりすると、もうその必死さを生々しくは思い出せない、表現できないから、そのときにやるべきことができたかなと思います。
-大人になった今では書けない曲も多いと。
全然書けないです。
-そういう意味では、『スター街道』は"大人の作品"感がありますよね。
そうですね。でも、前回は二十代前半だからこその背伸び感もあって。今回はあんまり飾らない気持ちで書いているんです。"会社やめる"とか言っちゃってるし、ストーカーまがいの恋とかやっちゃってるし、自分的には子供返りしてる感じもあるんですけどね。
-大塚さんが思ってるよりも、大人って子供なのかもしれないですよ。大人が聴いて共感する曲も多いと思います。
すごく嬉しいです。私、25歳になったんですけど、このタイミングでわかりやすく子供返りしたと思うんですよ。それまでは、いろんなことを無意識にめちゃくちゃ我慢していて。言いたいことは言わないし、我慢が染みつきすぎちゃっていたんです。怒るという感情もなかったから、私は自分を怒らない人だとずっと思っていたんですね。でも、根幹ではめちゃくちゃ溜めてたんだなと気づいて。それに気づいちゃったから、めちゃくちゃ怒ってるので(笑)、今は明確に子供返りしてますね。嫌なことは嫌だって思うし、言っちゃう。それが責任感でもあると思うんですけど、まぁ......子供ですよね(笑)。
-(笑)こうやって話してると、やっぱりポピパで話すときとは違いますよね。それぞれの活動のスタンスも違うものですか?
まったく違いますよ。 "バンドリ!"さんに関しては、キャラクターのイメージや "バンドリ!"さんの世界観がありますから。
-シンガー・ソングライター 大塚紗英としての目指しているアーティスト像はあるんですか?
自分が一番大事にしていることは"人として人を大事にする"なので、最初は音楽じゃなくてもいいぐらいの感じでした。だから"人を大事にすること"の表現がしたい。その表現のツールとして音楽を選びました。"こうやって生きるべきだ"とかの考えがすごくあるんですけど、それを人に求めてはいけない。だから"私はこうである"と表現して、それに共感を得てくれた人がついてきてくれたら嬉しいですね。"人として優しく生きましょうね"とか"楽しく生きましょうね"とか、そういったことを理解してくれる人たちと会話がしたい。それが最終テーマなんですよ。
-なるほど。
でも、そんなことを言っていたら人にはモテないので(笑)。だから"おもろい"ことをやりたいなと思っているところです。"おもろい"という感情には、老若男女とか貧富の差とかはないので"おもろい"ことをすれば全世界が幸せになれる。顔がきれいとか、音楽が美しいとか、私にもそれなりに美徳はあるんですけど、それって人の価値観によって全然変わっていくことで。でも"おもろい"という感情だけは、言葉が通じないアマゾンの奥地に住んでいる人たちにも伝わると信じているんです。"人を大事にすること"と"おもろいこと"。たぶんこの2本が大切ですね。
-人が好きで人のことをよく見ているからこそ、様々な主人公がいる曲を書けるんですかね。大塚さんは、自分のことを書いてるというより、人物を想像してストーリーを描いているのかなと思ったんですけど。
いえ、思いっきり自分のことを書いてます(笑)。自分の中にある人格を表面化させて、キャラクターをつけるんです。例えば「疲れました、こんな会社」は、裏設定としては、堅実で大きな会社で長年働いてきた30~40代くらいのサラリーマンなんですね。朝から晩まできっちり8時間労働していて、定時で上がって給料もそこそこいい。ただ、うだつが上がらないし、上司はうざい、部下も適当だし......あぁもう! みたいな話にしたけど、その感情は自分も持っているんです。別に、私はヤケ酒しないし、宝くじを買わない......最初はそこが競馬とパチンコで、あまりにもアレな歌詞だったので変えたんですけど(笑)、むしゃくしゃしたら"競馬してー!"みたいになる気持ちって、わかるじゃないですか? 表面上のキャラクターを作っただけで全部自分です。
-作品に出てくる登場人物が、ちょっと歪な感情を持っていたり、マイノリティな立場の人だったりするので、そういう人たちの代弁者でありたいのかなと思っていたんです。でも、そうではなくて、純粋に自分の感情なんですね。
そうですね、自分自身がマイノリティなので。でも、伝えたいというのは、言っていただいた通りです。マイノリティが悪いことではないことを、代弁というか、声を大にして言っただけなんですよ。この仕事をするまでは、個性があることはいいことだと思っていなかったんです。人に合わせて生きていかないと仲良くもなれないし、友達もできない。だから、あんまり本音を言わなかったんですよね。それこそ路上で活動していることとかは、友達にほぼ言ってなくて。そういうことを言ったら、おかしい人みたいに思われるのが怖かったんです。そういう窮屈な気持ちがありました。今回の作品は、わりとそういう人が聴くのかなと思ったんですよね。例えば、今までやってきた活動に対して、それを好きだと言ってくれる人が世間では少数派だったりすると、心にはすごく鬱憤を抱えて生きてる。または、表面化してマイノリティとして生きてる人もいる。でも、マイノリティという感情は、もはや全員抱いてるんじゃないかなと思うんです。そういうのは日本特有の考え方だと私は思っているんですけど、日本に住んでるみなさんに聴いてもらう音楽なので"後ろめたい感情が本当に後ろめたいとは限らないよ"と言いたかったんですよね。
-『スター街道』の各曲について聞く前に、全体像としてはバンド色が強い作品だなと思っていて。そこは意図的なものですか?
まさに狙いです。
-それはどういったところから?
一番は自分がただバンド好きだからなんですよ。デビューする前からバンドもずっとやってきて、バンド好きだったからですね。今回は自由度が高かったので"じゃあ、好きなことやりたいな"って。自分が高校生のときにバンドでコピーした曲って、一生の思い出で、一生心に残ってるもので。「田中さん」とかがそういう曲に育ってくれたら、すごく幸せだなと思います。
-バンド・サウンドであること以外に、他にも作品として目指した方向性はありましたか?
全部通して聴いたときに、笑えればいいかなって。今回に関しては、あまり自分のスキルがどうとかは世に伝えなくていいやと思ったんですよ。大事にする要素が多すぎると、色がわかりづらくなっちゃうので、まず"自分のコアってここなんですよ"と、わかりやすい形にしました。歌詞のインパクトと、それを見たときに笑える気持ち。そういうところを大事にしました。
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