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INTERVIEW

Japanese

大塚紗英

2021年08月号掲載

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-笑えるといえば、リード曲「田中さん」のタイトルからして"どんなセンスだよ!"と思いました(笑)。

全国苗字ランキングから拾ってきました(笑)。

-大塚さんのファンの中にいる"田中さん"は大歓喜でしょうね。

この曲はライヴで初披露したんですけど、終わってTwitterを見たら、リプライをくれたアカウントの名前が田中になってる人ばかりで(笑)。"え? これ誰?"みたいな。私、毎回リプを見て"いいね"してるんですけど、ライヴ直後は田中が多すぎてどれが誰かわかんなくなっちゃったんですよ(笑)。だんだんみんな工夫しだして"●●田中"とか、ちゃんと自分の名前と融合してくれたので、徐々にわかってきたんですけど(笑)。

-"田中さん"が喜んだのではなく、増殖したんですね(笑)。なんで"田中"を曲にしようと思ったんですか?

最初は、カラオケで好きな人に告白をするような歌にしたかったんですよ。だから、カラオケで歌えるような、名前を連呼するようなものにしたんです。自分の好きな女の子に、カラオケで自分の名前を呼ばれたら超ドキドキしません? そこがインスピレーションでした。で、全国苗字ランキングを見たら"タナカ"は、3文字でリズムとかメロディを作りやすいし、全部母音が"あ"だし、めちゃくちゃ使いやすいなって。

-ストーカー気質な歌詞がインパクト大ですよね。

ストーカーをした経験はないんですけど(笑)。誰かが何かを強烈に好きなのって、第三者から見たら面白いんですよ。一人称、二人称で書いちゃうとあれなんですけど、大多数の目である三人称で出てくると、これだけ面白いと思える感情なんですね。だから、別にこういった人が後ろめたく思う必要はないんです。"みんな、リア充の恋愛みたいな曲しか書かないの? じゃあ私が書く"ということで書きました。最初はOLの曲だったんですけど、最終的には、学園コメディ風にしましたね(笑)。

-爽やかで、かわいらしくて、且つキャッチーに歌うので、ストーカーな歌詞だとしても、どこか憎めない部分を感じさせる曲に仕上がってます。

そうなんです。ストーカーってかわいいんですよ。曲的なところでいうと、実は変態的な転調をしていて。転調で曲の勢いとか曲のカラー、心象操作を行ってますね。転調した箇所を数えると、意外に多いと思います。

-「田中さん」もそうですけど、今回恋愛に関する曲が多いですよね。中でも「檸檬サワー」は大人の恋愛ソングだなと。酔ったふりをして終電を逃そうとする大人の女性という、テーマの着眼点が面白い。

ホントですか? すごく普通のことを書いちゃったと思っていたんですけど......え、酔ったふりしません? 男性だからしないか。居酒屋の隣の席で、好きな男性に"あ~、なんか酔っちゃった~"みたいなことをしているのを見ると"あざといなー!"とか思うんですけど、"いや、そうだよね。わかるよ、君の気持ち"みたいな(笑)、そんな気持ちで書きました。この曲の主人公は、年下の男の子に言いたいことを言えない女の人なんですけど、私は年下の人とそういった関係になったことはないし、言いたいことを言えなくないんですよ。好きだなって感じたら、その日に好きだと言えるタイプな気がして。だから、もしかしたらそういう曖昧な関係とかに憧れて作ったところはあるのかもしれないです。少女マンガのときめき感。コロナで時間があったので、"ハニーレモンソーダ"とかを読んで"うわー!"みたいな......"ハニーレモンソーダ"を読んで作ったから「檸檬サワー」になっちゃったのかな。

-そこにアルコールの苦味も加わった"檸檬サワー"になってるところがいいですよね。甘酸っぱいだけじゃなくてほろ苦さもあるのが、大人の恋愛だなって。

たしかに。うまいですね。もしかしたらそういうことかもしれないです。私、25歳なので、"それなりに大人なんだよ"と言いたいんですよ。だから大人な感じの曲を作りました。

-「キミをペットにして飼いたい」は、素の大塚さんがどれくらい入ってるんですか?

これは、全然素じゃないです。だけど"浮気されたら悲しいわ"というところは本当。友達がこういう経験をしてて。その友達の彼氏さんが、浮気相手のLINEの名前を女の子から男の子に変えていたんですよ。"今日は会社の上司と飲みだから仕事の話だよ"とか言って、別の女に会って帰ってきた、みたいな。それをそのままいただいて曲にしました。

-浮気チェックをしているちょっと怖い女性の歌ではあるんですけど、歌唱としては悲壮感があります。

浮気経験のある男性がこの曲を聴いたらぞっとすると思うんですけど(笑)、女の子は生物上、浮気される経験のほうが多いと思うし、浮気された経験がなくてもそういった不安を漠然と抱えてると思うんです。そういう人が聴いたときに、胸がキュッとなるような"わかる!"みたいな反応をしてもらいたくて。等身大の気持ちを歌っている曲にしたかったから、あまり声色で色味を足すことはせず、自分が持っている色で歌い切りました。そうしたら、不思議とレコーディングではちょっと泣きそうでしたね。私は別にこんな経験したことないのに、不思議でした。

-ここまで聞いてきたのは女性目線の恋愛ソングでしたけど、「僕がキスしたらスタンガン」は男性目線ですね。

恋愛ソングを書くときに、自分の中にある女性像を使うか、男性像を使うかの違いなんですよ。もともと私自身、生き方が女性らしい感じではないので、男性目線の曲のほうに共感することが多いんです。私の中に飼っている男性と女性がいて、男性のほうを使った感じですね。私の成分上、男性の感情のほうが多いので、これが一番自分の等身大です。一番素直な気持ちですね、この曲は。

-「37兆2000億個の細胞全てが叫んでる」は、力強いロック・サウンドで自分を鼓舞していく曲です。

メロディがすごく気に入ってますね。自分がルーツでやってきたクラシックとか、久石(譲)さんの曲が好きな気持ちは、Bメロに入ってるかなぁと。100曲くらい作ったんですけど、その中にはこういう曲のほうが多くて。私の人生観的なところでいうと、これが一番近いですね。夢や仕事が好きで、それを頑張っていて、だから"頑張ってる人が聴け!"という感じで、対象がすごく絞られています。ある意味で清々しいし、人に寄り添わない暴力的な発言の仕方とかは、私の素だなと思いますね。

-暴力的だからこそ、パーンと背中を叩かれて気合が入るみたいな、そういった感覚はありました。

うん。なぜなら、本当に突き詰めて何かで成功しようと思ったら、それぐらいやんなきゃ絶対に無理だと思うので"だから君たちは頑張らないとダメですよ"ということを言ってるんです(笑)。頑張ってる人にしか響かないんですけど、この曲はあえてそれでいいかなって。

-そして「疲れました、こんな会社」ですが、これもタイトルを見て笑っちゃいました。

やったー!

-ブラック企業的な職場で働いたことがある人なら、首がもげるくらい頷くだろうなと。

そうなんですよね。最初は実体験的なものも歌詞に入れてたんですけど、生々しすぎて元気が出ないなと思ったんですよ。今作は一貫してハッピーに聴いてもらいたかったので、そういったワードは頑張って省き、自分の気持ちだけをリアルに残して、あとは人のお話のように書きました。"ストーリー逆導入型"なんです。

-会社勤めの経験自体はないと思うんですけど、すごくリアルな描写ですね。

嬉しいです。狭い世界で生きてるからわかんないんですけど、みんな一緒なのかなと思っていて。社会に出る以上、やりたくないことって絶対やらなきゃいけないし、言っちゃいけないこともいっぱいありますよね。"こうであるべき"という、誰に言われたわけでもないルールが世の中にはすごくあって。日本人って、どこか"みんなで窮屈な思いをしてることがいい"という部分があるように思えて。

-そうかもしれません。

だから私"欲しがりません。勝つまでは"って言葉、大っ嫌いなんです。"いや、欲しがれよ!"みたいな(笑)。だから、これをあえて発信したほうが、救われることがあるのかもしれないなって。別に、誰が嫌、どこが嫌とかじゃないんですけどね。人に聴かせるのも最初は嫌だったんですけど、意外とみんな受け入れてくれて。ただ"疲れました、こんな会社"って書いちゃったから、弊社代表に聴かせるときはちょっとビクビクしたんですけど(笑)、意外に弊社代表が一番褒めてくれました。

-最後に、どうして"スター街道"というタイトルにしたんですか?

これに関しては、本当は恥ずかしいんですよね。パッと思いついたことを、そのまま採用してもらった感じなんです。"いやぁスターになりたいわ~"みたいな。"スター"ではなく"スター街道"であるところに意味があって。『アバンタイトル』がアニメでいうアバン(オープニング前へ挿入される部分)なんですよね。導入で"このお話って何?"と突っ込ませたところで、ここから"スターになりたい"という名前のアニメ、ストーリーのオープニング・テーマが始まるということなんですよ。だから、たぶん次から出していくものが、私にとってのストーリー本編になっていくと思います。

-なるほど。

オープニング・テーマって、昔のアニメとかだとタイアップのために書き下ろして、アニメのタイトルを連呼するくらい、そのアニメの自己紹介だったんですよ。なので、これが私の本当の意味での自己紹介というか。そのために全部削ぎ落としていった結果"大塚紗英ってどういう人なの?"と言われたときに"これだろ!"と言えることをやり切りました。これで結果が出なかったら、本当にどうしようと思ってて。だからこの話はしたくないんですよ(笑)。でも、頑張ります。これを発表したら友達5人くらいから"覚悟感じた"とか"開き直ったね"とかLINEがきて。開き直ったタイトルですね。